日本共産党資料館

「民主連合政府綱領についての日本共産党の提案」を発表するにあたって

(『赤旗』一九七三年十一月二十二日)


 日本共産党第十二回党大会で討議、採択される予定の「民主連合政府綱領についての日本共産党の提案」は、日本共産党が多くの革新勢力とともにめざしている民主連合政府の共同綱領についての、日本共産党としての提案である。
 日本共産党は、これまで、自由民主党の悪政に終止符を打ち、国の政治の革新を実現するための闘争の先頭に立って奮闘してきた。
 日本共産党は、第七回党大会以来、一貫して反帝、反独占の統一戦線をめざしてたたかってきた。第八回党大会以後は、確定した党綱領にもとづき、統一戦線の方針をいっそう確固としたものとしながら、党と統一戦線の前進によって実現すべき民主的改良、国民生活防衛の問題をも重視し、そのための政策提案と闘争で多くの実績をつみかさねてきた。そして、すべての民主勢力の当面の政治目標として、一九六〇年の安保闘争直後に安保条約反対の民主連合政府樹立を提唱して以来、各党大会や選挙政策などで、その具体的構想を発展させ、追求してきた。たとえば、一九六四年の第九回党大会は、「安保反対と憲法改悪反対の民主連合政府」樹立のための共同闘争をよびかけ、一九六六年の第十回党大会は、これに生活擁護の課題を加えて、「安保条約反対、憲法改悪反対、生活擁護の民主連合政府」樹立の闘争課題を提起した。 そして、一九七〇年にひらかれた第十一回党大会は、「平和・中立・民主・生活向上の民主連合政府」とそのための統一戦線結成が緊急の課題となっていることをあきらかにし、一九七〇年代のおそくない時期に、民主連合政府を樹立することをよびかけた。
 第十一回党大会決議は、民主連合政府の内外政策の五つの任務をあきらかにし、一九七一年一月には、この決議にもとづき、国政革新のための政策的基準として、革新三目標の提唱をおこなった。今回の「提案」は、第十一回党大会決議とこの革新三目標にもとづき、すべての革新政党、革新的政治勢力が一致しうる政策を体系的に提示したものである。
 この「提案」を発表するにあたって、若干の問題について、日本共産党の態度をあきらかにしておきたい。
 わが党が提唱している民主連合政府の性格は、国政革新のための三つの共同の目標、すなわち日米軍事同盟の解消と平和・中立化、大資本本位から国民本位への経済政策の転換、軍国主義の全面復活阻止と民主主義の確立の実現をめざす、国民生活防衛と民主的改革の政府である。それは、現行憲法のもとで、革新統一戦線を結成する諸政党と政治勢力が一致して作成する共同綱領の実現をめざして奮闘する統一戦線政府、連合政権である。この政府は当然、社会主義建設をおこなう社会主義政権ではない。
 したがって、もし三目標にもとづいて、革新統一戦線に参加する政党、政治勢力のあいだに、細部の政策上の不一致がある場合は、討論をつくしてもさけがたい不一致点は保留し、一致点で共同綱領を作成し、それを誠実に共同でまもることが、革新統一戦線結成の保障であり、またその政治的団結を強化する保障でもある。
 一例をあげれば、自衛隊にたいする政策は、現在、日本共産党、社会党、公明党のあいだにも一致点とともにいくつかの不一致点がある。日本共産党は、現憲法のもとで自衛隊の解散を主張し、社会党、公明党は、その「国民警察隊」あるいは「国土警備隊」への縮減切りかえを主張している。しかし、民主連合政府としては、なによりもまず、当面、革新統一戦線として一致できる範囲で、日本軍国主義の復活を阻止する効果的な措置をとり、そして国民世論が成熟し、統一戦線を構成する政党間の一致がえられた場合、憲法の規定にもとづく自衛隊解散を実現できるようにすべきであろう。
 さらに、民主連合政府は、現段階における国民的課題を一致点にもとづいて解決する連合政権である以上、三目標達成後の将来の政治的展望その他についての各党間の見解の相違は、その障害とならないし、また、してはならないことはいうまでもない。
 たとえば、将来の自衛問題についても、日本共産党と、社会党、公明党とのあいだに、いくつかの不一致点がある。社会党は、将来にわたる「非武装中立」を主張しているが、日本共産党は、将来、日本が独立、民主の道をすすみ、さらに社会主義日本をめざして前進していく過程で新しい憲法が必要となったさい、国民の総意にもとづいて、最小限の自衛措置をとり、憲法上のあつかいもきめることを主張している。しかしこれは、将来の歴史的段階での、まったく別の問題であり、国政革新をめざす革新勢力は、今日の段階では、憲法第九条を厳守することを基本として、一致点で団結することが可能だし、また団結しなければならない。
 将来の憲法の問題については、各党間に一定の相違があることは当然である。日本共産党は、独立民主の日本から社会主義日本をめざしている党として、天皇制廃止をふくむ新しい憲法が制定される歴史的時期がくるという態度をとっている。しかし、民主連合政府としては、現行憲法の改悪に反対するのはもちろん、憲法第九十九条の規定にもとづき、現行憲法を尊重し擁護する態度をとるのは当然のことである。同時に、これらの問題をふくめ、各党がそれぞれ独立の政党である以上、それぞれ、日本の将来について、政治的展望を国民の前に提示するのは、これまた当然のことである。
 日本共産党は、党綱領にかかげているように、アメリカ帝国主義とそれに従属的に同盟する日本独占資本との二つの敵の支配をたおし、反帝・反独占の民主主義革命の実現をめざしている。日本社会党は、その綱領で社会主義革命の実現をめざすとしており、公明党は、「人間性社会主義」の実現をめざすとしている。そして、民主連合政府の一致した政策を実際に実現することができ、日本の政治がつぎの段階をむかえたとき、各党とも、それぞれの見地から新しい課題を国民の前に提起するだろう。そのさい、日本がどの方向にむかって前進するかをきめるものは、国民自身の選択であることはいうまでもない。
 現在、自民党政府にかわるべき政権構想について、いくつかの提案がおこなわれている。たとえば、公明党はさる九月におこなわれた第十一回党全国大会で「中道革新連合構想の提言」を採択した。日本社会党も「国民統一綱領」案を来年の大会で採択するといわれている。今回の「民主連合政府綱領についての日本共産党の提案」は、革新統一戦線結成にさいしての政府共同綱領にたいする、日本共産党としての提案であって、広範な国民の討議にゆだねるものであるが、日本共産党は、これが革新統一戦線に参加する政党、政治勢力が共同で作成する政府綱領の基礎の一つとなりうるものと確信している。
 なお重要な障害をのこしながらも、革新統一戦線を結成する客観的条件がますます成熟しつつある今日の情勢のもとで、国政革新という、希望にみちた歴史的事業を成功させるために、いまただちに必要なことの一つは、共同の政府綱領についての広範な国民的討議を組織することである。この討議は、民主連合政府と国民一人ひとりの生活との密接なむすびつきの自覚をうながし、革新統一戦線の結成を要求する世論と運動を強化するにちがいない。
 日本共産党は、「民主連合政府綱領についての日本共産党の提案」を発表するにあたって、全党の討議はもちろん、すべての革新勢力、国政革新に関心をもつすべての国民が、この「提案」を討議され、意見をよせられることを、心から歓迎するものである。