日本共産党資料館

コミンテルン解散に関する同執行委員会幹部会の決定


 戦前の旧労働者党の大多数の政治的破滅の結果として、一九一九年に結成せられたコミンテルンの歴史的役割は、労働運動の日和見主義分子による俗悪化および歪曲からマルクス主義の学説を防備し、幾多の国々において先進的労働者の前衛の真の労働者党への団結を支援すること、勤労大衆の経済的および政治的利益の擁護、ファシズムおよびその準備せる戦争に対する闘争、ファシズム反対の主たる支柱たる支持のための労働者による勤労大衆の動員を援助することにあった。コミンテルンはヒトラー一派の戦争準備の道具の「防共協定」の真の意義を適時に暴露し、またヒトラー一派が他国の国内問題に対するコミンテルンのいわゆる干渉なるものにつき宣伝し、その偽装の下に行ったこれら諸国における醜悪な破壊工作を戦前早くより撓むことなく暴露してきた。
 しかし乍ら、各国国内・国際情勢の複雑化に伴い、何らかの国際的中心勢力が各国の労働者運動の任務を決定することは克服し難い障碍に着すべきことが既に戦前早くより次第に明かになってきた。
 世界各国の達の歴史的過程のいちじるしき相違、社会制度の性格の相違、甚だしきはその矛盾、社会的、政治的発達の水準および速度の相違、然し最後に、労働者の自覚および組織性の程度の相違は、各国労働者階級の直面する任務を各様に条件づけた。
 過去四半世紀間における諸事件の全経過およびコミンテルンにより集積せられたる経験は、労働者運動復興の初期の要請に感じてコミンテルン第一回大会が選んだ労働者団結の組織形態が、各国における労働者運動の成長とその任務の複雑化にともない、次第に無用のものと化し、各国労働者党の今後の強化の障碍とさえなるにいたったことを明白に示した。
 ヒトラー一派により開始せられた世界戦争は、ヒトラーの暴虐にあえぐ国家と強力なる反ヒトラー連合に団結した自由愛好諸国民のあいだに深い分水嶺を制し、各国の情勢の相違をますます顕著ならしめた。
 ヒトラー・ブロック諸国家における労働者・勤労者および公正なる全人民の基本的任務がヒトラー戦争機構を内部より破壊し、もって右ブロックの敗北を全面的に助成し、戦争の責任者たる政府の転覆をはかるにあるに対し、反ヒトラー連合の諸国の広汎なる国民大衆、就中先進的労働者の神聖なる義務はヒトラー・ブロックの速かなる打倒と権利等の基礎の上に諸国民の協力を確保するため、政府の戦争努力を全面的に支持するにある。
 右の場合、看過すべからざるは、反ヒトラー連合に味方する各国においてもそれぞれ特別の任務の存することである。例えばヒトラー一派に占領され、独立を喪失した国家の進歩的労働者および国民大衆の基本的任務は、ヒトラー・ドイツに対する民族解放軍に転化する武装闘争を展開することである。
 同時に、ヒトラーの暴虐に対する自由愛好諸国民の解放戦争が広汎なる国民大衆を運動にひき入れ、党派・宗教の別を問わず強力なる反ヒトラー連合に団結せしめつつあることは、敵に対する速かなる勝利獲得のための全国民的決起と大衆動員が、各国家の枠内において、その国の労働者運動の前衛分子により最良かつ最有效に実現せられ得ることを最も明白に示した。一九三五年に開催されたコミンテルン第七回大会は当時、すでに国際情勢および労働者運動に現れた変化が各支部の直面する任務決定上各支部の多大の敏活性と独立性とを必要とするに至れるを考慮し、執行委員会にとって労働者運動の諸問題決定に際して、「各国の具体的条件と特殊事情を考慮すること、しかして原則として各共産業の内部的組織活動への直接干渉を回避すること」が必要なることを強調した。コミンテルンが一九四〇年十一月米国共産党のコミンテルン脱退の決定を受理しかつ容認したのは、右と同様の考慮に出たものである。
 マルクス・レーニン主義創始者の学説によって指導された共産主義者は、未だかつて無用化した組織形態の維持の味方たりしことなく、常に労働者運動全体としての根本的政治的利益、所与の具体的な歴史的情勢の特殊性および右情勢より直接発生する任務に従屬せしめて来た。共産主義者らは偉大なるマルクスが前衛労働者を「国際労働者協会」に団結し、ついで第一インタナショナルが欧米諸国における労働者党達の基礎を置き、もってその歴史的任務を終えるや、大衆的な各国労働者党結成の要請が成熟した結果、右の組織形態がすでにかかる要請に応じ得なかったので、これが解散を実現した事例を記憶している。
 以上のごとき見解より出発し、また各国共産業およびその指導幹部の成長と政治的成熟を考慮し、さらにまた今戦争中多数の支部より国際労働運動の指導中心としてのコミンテルン解散の問題を提起し来たれるにかんがみ、執行委員会幹部会は、世界戦争下にコミンテルン大会を召集し得ざるにより左の提議を各支部の承認を得るため提出する。
 国際労働運動の指導中心としてのコミンテルンはこれを解散し、各支部をコミンテルンの規約および諸会議の決定より生ずる義務より解放す。
 コミンテルン執行委員会幹部会は、コミンテルンに味方するすべてのものにし、勤労者の不倶戴天の敵ドイツ・ファシズムおよびその同盟者ならびに従属者の速かなる打倒のための各国民、各国家の解放戦争を全面的に支持し、かつこれに積極的に参加すべく全力を傾注することを要請するものである。
 コミンテルン執行委員会幹部会員
  ゴトワルド、ヂミートロフ、ジュダノフ、コラロフ、コプレニック、クーシネン、マヌイルスキー、マルチ、ピーク、トレーズ、フローリン、エルコリ
 本決定に左記共産党代表賛同す
  ビアンコ(イタリア)、ドロレス・イバルリ(スペイン)、レフチネジ(フィンランド)、パウケル(ルーマニア)、ラコシ(ハンガリア)
一九四三年五月十五日、モスクワにて。

一九四三年五月二十二日付「プラウダ」


コミンテルン解散にする同執行委員会幹部会の通告

 コミンテルン執行委員会幹部会は、六月八日の最終会議において、各支部より接受せるコミンテルン解散決定に関する決議を審議し、次の諸項を確認した。
(1)コミンテルン解散に賛成した諸支部
 オーストラリア共産党、オーストリア共産党、アルゼンチン共産党、ベルギー共産党、ブルガリア共産党、イギリス共産党、ハンガリア共産党、ドイツ共産党、アイルランド共産党、スペイン共産党、イタリア共産党、カナダ共産党、カタロニヤ統一社会党、中国共産党、コロムビア共産党、キューバ革命共産主義同盟、メキシコ共産党、ポーランド共産党、ルーマニア共産党、シリヤ共産党、ソ連共産党(ボリシェヴィキー)、ウルガイ共産党、フィンランド共産党、フランス共産党、チェコスロヴァキヤ共産党、チリー共産党、スイス共産党、スウェーデン共産党、ユーゴスラヴィア共産党、南アフリカ連邦共産党、国際青年共産同盟
(二)現存するコミンテルン支部中より執行委員会幹部の決定に抗議するもの一つもなきこと以上にかんがみ、コミンテルン執行委員会幹部会はここに、
(1)コミンテルン解散に関する提案は、現存しかつ自己の決議を報告することが出来るコミンテルン支部によって一致せる賛成をうけ、且つ主要支部は悉く右に含まれていることを声明する。
(2)一九四三年六月十日以降コミンテルン執行委員会、執行委員会幹部会並に同書記局および国際統制委員会は廃止せられたるものと認む。
(3)ヂミートロフ(議長)、マヌイルスキー、ビーク、エルコリをもって構成する委員会にコミンテルンの事務、諸機関並に財産の整理を委任す。コミンテルン執行委員会幹部会の委嘱により。
G・ヂミートロフ
一九四三年六月九日

一九四三年六月十日付「プラウダ」