『資料 日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部発行、1986年)より
非武装中立をめざす平和のためのプログラム
軍事大国から文化立国へ
党中央執行委員会
1983年11月18日

一、核戦争の危機

 今日の世界において国と平和と安全を守る上で、先ず第一に考えなければならないことは、米ソを中心として止めどもなく続けられている核軍拡競争の現状です。
 いま世界には、約5万個の核弾頭が配備されています。それは広島型原爆の100万個分の破壊力に当り、また第2次世界大戦で使われたすべての弾薬の50倍以上の威カがあるといわれています。
 それにもかかわらず、米ソを中心として核兵器の開発・実験・生産・配備が一日も休むことなく続けられています。しかも重大なことは、米ソ核超大国がいずれも「戦って核戦争に勝つ」戦略へと転換していることです。核戦争の危険はすでに現実的なものとなっており、いったん核戦争がおきれば、言語に絶する殺りくと破壊が行われることになります。人類の生存の危機は強まっています。
 国連事務総長の83年年次報告によると、世界全体の年間軍事費は8000億ドルにも達しています。
 その反面、発展途上国の累積債務は、82年末で6200億ドルに達し、借金がかさみ、利払いも思うにまかせず、身動きのとれない情況にあります。そして数億の人びとが飢餓線上におかれ、1分間に30人の子どもたちが食糧や医薬品の不足で死んでいます。
さらに重大なことは、米ソを中心とする軍拡競争は、宇宙空間にまで拡大され、戦争の危険性は、宇宙戦争にまで拡大されようとしています。
 反核・平和の大規模な民衆運動が全世界に拡がり、非核地帯設置の動きも北欧、地中海、中南米など各地に起きています。70年代以降は経済の相互依存関係が東西、南北をこえて深まり、経済、技術、文化など非軍事的カの比重が増しています。大国の核軍拡競争はこの新しい歴史の流れに逆行するものです。
 世界の大勢は"力の論理"から"平和の論理"へ軍事プロックから非同盟の方向へ向って進んでいるのです。

二、中曽根内閣の危険な政策

 アジアにおいても、米ソの軍備増強と核対立は強まろうとしています。限定核戦争の危険はなにもヨーロッパだけでなく、アジアにおいても高まっています。
 ソ連はSS20、戦略爆撃機バックファイヤー、空母ミンスク等を極東に配備しています。米国は核戦艦ニュージャージー号や世界最新鋭の原子力空母カール・ビンソン号を日本に寄港させ、また84年からは太平洋に展開しているすべての攻撃型原潜や主要な水上艦艇に核巡航、サイル「トマホーク」を配備しようとしています。このような米ソ核対立と国際緊張のなかで、相対立する一方に組みし、他方に敵対する政策をとることほど、国の平和と安全を損うことはありません。
 中曽根総理は、83年1月の訪米で「日米運命共同体」論を主張し、日本列島「不沈空母」化、3海峡封鎖、1000海浬のシーレーン防衛などを約束して来ました。
 中曽根内閣は、今年の外交青書でも明らかなように、「西側の一員」として、日本の役割を、「さらに国際政治面にも広げ、国力と国情にふさわしい貢献をしてゆく」といって、経済大国から軍事大国への道を進む決意を示しています。
(1)事実、日米安保条約は、米国の対ソ世界戦略に深く組みこまれ、西のNATOに対応する東のアジア太平洋軍事同盟にまで拡大されています。
(2)またアメリカの「核抑止力」によって、日本の平和と安全を守るのだといっています。抑止論の立場に立てば、それは当然相手側よりも強大な核戦方をもつことが要求され、そしていぎというときには核兵器を使うのだという立場になります。
(3)日本がアメリカの核抑止力に依存することは、核戦争にまきこまれることと不可分に結びついているのです。このことを決して見落してはならないと思います。
 現在、中曽根内閣は、アメリカの対日軍備増強の要請におされて、赤字国債が100兆円を突破するという未曽有の財政危機のなかで福祉や教育予算を切り捨て、財界主導の臨調行政で働く者の賃金を抑えて、軍備増強に血道をあげています。軍事費が突出すれば、国民生活が圧迫されることは明かで、「軍事支出の負担が多い国ほど世界市場で競争カがない」し、軍事費と生産性が反比例の関係にあることは疑いがありません。
 日米安保体制の強化と軍備増強政策の中で、とくに注目しなければならないのは、レーガンの核軍拡政策に全面的に協カして、日本をアメリカの対ソ核攻撃基地にさえしようとしていることです。
 日本がアメリカの対ソ核攻撃基地になることは、とりもなおさず、日本が核攻撃の目標になり、核戦争にまきこまれることを意味しています。
 もちろん、このようなことを絶対に許すことはできませんが、日本が米国の核戦略に組みこまれている以上、この危険性を完全にとり除くことはできません。
 中曽根内閣の下で、日米安保が核安保、アジア安保に拡大強化され、日本の軍備増強が進められるにしたがって、日本国民は将来に戦争の危険性を感じとっています。

三、日本社会党の平和保障政策

1 米ソを中心として核軍拡競争が進められ、ヨーロッパだけでなく、アジアにおいても限定核戦争の危険性がたかまっているとき、国の平和と安全を守るための最低の条件は、一つには、相対立する一方に組みし、他方に敵対する立場をとらないことです。いかなる軍事同盟にも入らないで、非同盟・中立の立場をとることです。
 もう一つは、核兵器とは一切関係をもたず、米国やソ連、いずれの国の核兵器にも反対して非核の姿勢をとることです。
2 日本社会党の平和保障の基本は、非武装中立政策です。
(1)非武装中立政策は、「恒久平和を念願し人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した」憲法の前文と戦争を放棄し、陸海空軍その他の戦力の保持を禁止し、交戦権を認めない第九条からひきだされた当然の日本の在り方です。もちろん、国に自衛権のあることは当然であり、それを平和外交によって行使しようというのが、平和憲法の精神であり、非武装中立政策であります。
(2)今、中曽根内閣は社会党の非武装中立政策に、不当な攻撃をしかけてきておりますが、その狙いは、一つは憲法改悪であり、もう一つは、何ものにも制約されない軍事大国化への道をつき進もうと言うことにあります。日本の社会的、経済的構造と地理的関係からいって、軍事力で日本を守ることはできません。逆に日米安保体制を強化し、軍備増強を進めることほど危険なことはありません。
(3)非武装・中立で国の平和と安全を守ることは、ただ他国に追随して、軍備を強化してゆく自民党の単純な軍事一辺倒の政策より、はるかに創造的なきめ細い国民の努カと、理性的な平和外交の展開が必要なのです。
①それはまず、いかなる軍事同盟にも入らないし、いかなる仮想敵もつくらないという非同盟・中立の平和国家の建設でなければなりません。
②国際関係については、平和五原則に立って侵さない、侵されないという友好関係をつくり、あらゆる国と仲よくする全方位外交を展開することです。発展途上国との連帯関係を強化発展させることです。
③世界の軍縮・平和と繁栄に貢献することを国の基本方針とすることです。世界における最初の原爆被爆国として世界に「ノーモア・ヒロシマ・ナガサキ」を訴え、核兵器の全面完全禁止のために努力することです。
(4)非武装中立政策は、核兵器をはじめ軍事技術の発達している今日、真に国民の生命・財産を守り、将来にわたって日本の安全を保障する最善の自衛手段であります。

四、平和保障の具体策

 以上の基本的立場に立って非武装・中立を段階を経て、実現してゆきます。非武装中立を目指す今日的課題は、一つには反核・軍縮の実現、二つには平和憲法の擁護、三つには全方位と非同盟・中立外交の展開です。

(一)当面の課題
1 政府機関内に権威ある軍縮機関を設置し、日本と世界の軍縮達成に努カします。当面の措置として、
(1) 軍事費はこれ以上ふやさないで、現状凍結を行ない漸次縮減します。自衛隊を辞めた人の雇用は当然保障されなければなりません。
(2) 政府がこれまで憲法原則として公約してきた軍備増強の歯止めを守らせます。
①軍事費の「聖域化」ゃGNP1%突破は認められません。56中業は廃棄されます。
②国是である「非核3原則」を守り、その空洞化を許しません。したがって、核搭載可能の艦艇・航空機および施設等の日本への持ちこみ、配備を拒否します。
③武器輸出禁止の原則を守ります。対米武器技術供与は武器輸出の第一歩であり認めません。
2 世界ではじめての原爆被爆国として、いかなる国の核兵器にも反対する立場に立って、核兵器の全面完全禁止を目指して、反核・軍縮の外交を推進します。また第一回国連軍縮特別総会の決議を支持し、その推進につとめます。
(1)日本は「非核三原則」をふまえて、日本非核武装宣言を行ない、核保有国並びに関係諸国の承認と保障をもとめてゆきます。
(2)広島・長崎の被爆の実相を世界に訴え、核兵器廃絶への国際世論を結集します。
(3) 軍縮と核兵器の禁止を促進するため、研究・情報交換のための「平和研究所」を設置します。
(4) アジアにおける核対立と限定核戦争の危険を除去するため、米ソ中の核保有国に対して、核兵器の撤去と廃棄をもとめます。
①アジア・太平洋に、国連の地域軍縮委員会の設置をもとめます。
②関係諸国と協カして、アジア・太平洋非核地帯創設をもとめてゆきます。
(5)非同盟諸国と協力して核兵器の実験・生産・貯蔵・配備・使用の禁止と非人道的化学兵器の禁止の諸協定、宇宙の平和利用などを実現するために努カします。

(二)平和保障の推進
1 日本はいかなる仮想敵もつくりませんし、いかなる軍事同盟にも入りません。国の独立・主権・領土保全の立場に立って、非同盟・中立の外交を展開します。
2 日本は平和五原則に立って、あらゆる国と仲よくする平和と友好の全方位外交を展開します。
(1)とくに日本をとりまく関係諸国とは平和と友好の条約を結び、善隣友好関係を発展させます。
①中国との間には、日中平和友好条約を維持し、発展させます。
②ソ連との間には、干島問題を解決し、日ソ平和友好条約を締結します。
③朝鮮問題については、自主的平和統一を支持し、統一朝鮮との間に、日朝平和友好を結びます。
④アメリカとの間には、日米安保を解消した後、友好関係を保障する条約を締結します
(2)同時に、日本とアジアの恒久平和を保障する措置として、日米中ソ朝等関係諸国からなる集団的または個別的アジア平和保障体制をつくります。
3 第三世界諸国・非同盟諸国との友好関係を発展させ、独立自主、相互尊重、平等互恵、内政不干渉の原則に立って、政治・経済・文化等の友好交流を積極的に押し進めます
 また、食糧を戦略物資とすることに反対し、食糧分配の公平と第三世界諸国の農業の開発・発展に積極的に協カします。
4 文化外交を積極的に展開し、東西交流、南北交流のカケ橋の役割を果します。
(1)政府機関として文化省を設置し、文化・科学技術の発展とともに、各国との間に、留学生の招待と交換等、文化・科学・スポーツ等、文化のあらゆる分野での交流を推進します。
(2)発展途上国に対する科学技術・医療等の協力を行ないます。
5 国連中心主義の外交を展開し、平和憲法に立って軍縮と紛争の平和的解決、発展途上国の経済開発、南北格差の是正等、普遍的平和機構としての諸活動に積極的に貢献します。
(1)国連の諸機関の日本招致を進めます。
(2)国連、国際機関を通じて、発展途上国の自主的経済発展に協力します。日本の政府開発援助は当面、GNPの1%とします。
(3)世界の軍縮を進め、軍縮で浮いた資金を発展途上国にまわす「国連開発基金」や軍縮・平和の教育・研究のための「軍縮研究基金」を設置するために努力します。
(4)国際緊張緩和のため、他国による軍事援助の停止と武器輸出を制限する国際協定の締結に努力します。
(5)緑の地球を守るために、環境の保全、砂漠化の防止など積極的に貢献します。
6 これらと併行して日米安保条約を外交交渉を通じて解消します。その際、日米安保条約第10条の1年予告の廃棄条項も適用されます。日本は日米安保条約解消と同時に、中立宣言を行ない、非同盟・中立の立場をとります。中立宣言は世界の関係諸国の承認と保障をもとめ、それが侵犯されることのない体制をつくります。

(三)非武装中立の実現
 自衛隊の解体をめざし縮小を行ないます。それは①国民世論の動向②平和中立外交の進展の度合、③連合政権の安定度、④自衛隊の掌握度を勘案しながら進めます。「非武装宣言」を世界各国に通告し、その支持を求め、あわせて自衛隊を解体します。



 日本は以上の政策によって、自らの平和と安全を保持し、世界の平和と繁栄に貢献します。憲法はその前文で、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去する」人類の崇高な理想に向けて全方をあけることを誓約しています。21世紀は、すぐ目の前に来ています。私たちは、次ぎの世代に核の恐怖、貧困と隷従の恐怖から解放された日本と世界をひきつがなければなりません。