日本共産党資料館

日本の中立化と安全保障についての日本共産党の構想

(『赤旗』1968年6月11日)

 一九七〇年を前にして、日本が、このまま日米安保条約とそれにもとづく日米軍事同盟の延長強化の道をすすむか、それとも、安保条約をなくして独立・平和・中立の日本への道にふみだすか、この二つの道の対決は、各党派のあいだの政策論争のなかでも、最大の争点の一つとして前面におしだされてきている。
 日本がベトナム侵略戦争の作戦・補給基地とされたこの数年来の経験や、佐世保における米原潜の放射能汚染事件、米軍機の九大墜落事件などは、日本の独立をおかし国民の安全をおびやかす日米安保条約のおそるべき実態を、広範な国民の面前で具体的に暴露してみせた。こうした状況のもとで、安保条約をめぐる国民の世論には、一九六〇年の安保反対闘争のときとくらべても、大きな変化が進行している。
 たとえば、一九六〇年の安保反対闘争の前年、一九五九年八月におこなわれた世論調査をみると、安保条約反対の意見は、「いますぐ廃棄」「いずれは廃棄」の両方をあわせても二〇パーセントにみたず、これにたいして、安保条約賛成の意見は四〇パーセントをこえていた。ところが、一九七〇年を二年さきにひかえた現在では、多くの世論調査で、日本の安全のために「中立を守る」ことを支持する声が、アメリカとの同盟や米軍基地の存続を支持する声をはるかに上まわるという結果がでている。これは、日本の広範な世論が、安保条約の解消をのぞみ日本の中立化を支持する方向に大きく動きつつあることをしめしている。いまや、安保条約に反対している民主勢力が団結し、積極的に活動するならば、一九七〇年にむかって、国民の世論の多数を、安保条約反対、安保条約廃棄の方向に明確に結集できる条件が、つくりだされてきているのである。
 日本の中立を支持する世論のこうした増大とともに、安保条約を廃棄した日本がとるべき中立政策の具体的内容や、そのもとでの安全保障の問題などについて、明確な解明をもとめる声も、つよまっている。日本共産党は、さきに、日本の中立化の政策をふくめて、「民主連合政府のとるべき対外政策」についてのわが党の見解をあきらかにしたが、あらためてここに、日本の平和・中立化の問題についてのよりたちいった構想を発表するものである。

 一、日本の中立化とその国際的保障

 (1)日本の中立化の宣言

 安保条約を廃棄し、沖縄の全面祖国復帰をかちとって、真の独立を達成した日本は、国会の議決のもとに、中立法を施行し、今後、中立政策をとることを内外に宣言する。この宣言にふくまれる中立政策の基本的な内容は、つぎの諸点にある。
(1)いかなる軍事同盟にもくわわらない。
(2)資本主義国、社会主義国を問わず、いかなる外国にも軍隊の駐留軍事基地の設定を許さない。
(3)「平和五原則」(領土主権の相互尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等互恵、平和共存)にもとづき、すべての国と平和関係を結ぶ。

 (2)中立化の国際的保障

 日本の平和、中立化の政策をより確固としたものとするためには、その国際的保障を実現するために努力する必要がある。中立化の国際的保障の形態には、(イ)関係諸国の国際条約による保障(スイス)、(ロ)国内法で中立を宣言しその国際的承認をかちとるもの(オーストリア、カンボジア)、(ハ)関係国と個別に不可侵条約、中立条約を結ぶもの(フィンランド、アフガニスタン)など、さまざまな方式がある。
 日本共産党は、中立化を宣言した日本が、その国際的保障の問題について、つぎのような政策をとることを主張する。
 第一に、国会で採択した中立宣言を、各国に送付し、その承認と尊重を要請する。これによって、日本は、自主的な対外政策として中立政策を実行するにとどまらず、国際的に承認された中立国家として、国際法上の地位を確立することができる。
 第二に、情勢におうじて、関係諸国と協議し、国際的保障のいっそう確実な形態として、日本の中立を保障する国際条約の締結に努力する。関係諸国との個別の不可侵条約や中立条約、ソ連、中国、アメリカをふくむ関係諸国全体で日本の中立を集団的に保障する国際条約など、さまざまの方式があるが、その情勢と条件に応じ、国民の意思にもとづいて、国際保障のもっとも有効で現実的な形態をかちとるために努力する。

 二、中立政策のもとでの安全保障

 (1)自衛隊の解散と憲法の平和条項の実現

 現行憲法は、第九条で、自衛のための軍備をもふくめて、国がどんな「戦力」をもつことをも禁止している。したがって、現在の自衛隊の本質は、対米従属と日本人民抑圧の軍隊であるだけでなく、憲法違反の軍隊である。当然、自衛隊は解散し、憲法の平和条項を完全に実現すべきである。自衛隊の隊員は、国の責任で平和産業に就職させる。
 日本共産党は、安保条約を廃棄した後においても、現憲法下で、国が軍隊をもつことは正しくないと考える。

 (2)外国からの侵略の危険にたいする対処

 日本が独立、平和、中立の道にふみだした後でも、帝国主義者が日本の中立をおかして不当な圧迫、干渉、さらには侵略の挙に出てくる危険がまったくなくなるとはいえない。日本共産党は、安保条約廃棄後の中立日本は、現憲法下では、(1)日本の中立化の国際的保障、(2)反帝平和、民族自決の擁護の立場にたった平和政策の積極的な推進、(3)日本の独立と中立を擁護する人民の政治的団結の強化を、主要な手段として、外国からの圧迫や干渉、侵略の危険に対処し、これを防止することを主張する。

 (3)中立の侵犯を防止する中立国自身の義務(いわゆる「不寛容の義務」)

 中立国としての国際的地位を確立した国家は、戦争がおこった場合に、自分自身が軍事的中立の立場を厳守する義務をおっているだけでなく、いかなる交戦国にたいしても、中立の侵犯を許さない責任と義務――いわゆる「不寛容の義務」を国際法のうえで厳重に課せられている(たとえば、一九〇七年のヘーグ協定〈陸戦の場合における中立国および中立人の権利義務に関する条約〉第五条)。このことからみても、日本が平和・中立化の政策をとる場合、自国の主権をおかし中立を侵犯する外国の圧迫や侵略にたいし、自衛の権利を行使してこれを防止することは、中立国家としての当然の責務である。日本人民自身による自衛の権利と責任を放棄して、すべてを国際的保障だけにたよるような自主性のない無責任な見地では、平和・中立化の政策を真に保障することはできないのである。

 (4)将来の自衛措置の問題

 将来の問題としては、内外情勢の推移によっては、日本が自国の独立と主権をまもるために、軍事的な意味でも、一定の自衛措置をとることを余儀なくされるような状況も生まれうることを考慮する必要がある。したがって、将来にわたって「非武装中立」などを固定的な原則として宣言したりすることは、真に日本の主権と中立をあらゆる情勢のなかでまもりぬく正しい態度ではない。しかし、この問題は、将来、日本国民自身が、新しい内外情勢に応じ、憲法上のあつかいもふくめて、国民の総意にもとづいて決定すべき問題である。

 三、真の集団安全保障体制の確立

 (1)軍事ブロックの解消と真の集団安全保障体制

 安保条約廃棄後の日本は、みずからどんな軍事同盟にもくわわらない平和・中立化政策をとるとともに、アジアと世界の平和の維持、強化に積極的に貢献するために、国際的にも、世界にあるすべての軍事ブロックの解消と真の集団安全保障体制の確立をめざして、活動する必要がある。

 (2)国連の民主的改革

 この見地から、独立・中立の日本は、国連のなかでも、アメリカが国連をその侵略政策の道具として利用してきていることに反対し、国連が、国連憲章に規定された諸目的――「国際の平和および安全の維持」「人民の同権および自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係の発展」などの実現に役だつ機構となるように、国連機構の民主的改造の問題をふくめて、積極的に努力する。
 将来、国連が、侵略を防止し侵略者を制裁するという、集団的安全保障機構としての本来の任務をはたせるようになった場合、中立国家である日本は、軍隊の派遣などの国連の「軍事的措置」(憲章第四十二条)に参加することはできないが、外交的、経済的手段による「非軍事的措置」(第四十一条)には参加し、集団安全保障体制の一員としての義務をはたすことができる。

 (3)アジア・太平洋地域の集団安全保障

 アジア・太平洋地域の安全保障についても、日本は、この地域におけるすべての軍事ブロックの解消と、社会体制のことなるすべての国をふくむ地域的な集団安全保障体制の確立のために努力する。