日本共産党資料館

対イスラエル非軍事的制裁の検討を

1973年12月11日 日本記者クラブでの宮本顕治幹部会委員長の講演から

日本共産党の宮本顕治幹部会委員長は一九七三年十二月十一日、東京・千代田区の帝国ホテルでおこなわれた日本記者クラブ主催の昼食会で講演し、第十二回党大会の特徴、物価高、石油危機など経済問題、参院選共闘の問題などについて見解をのべました。講演のあと、対イスラエル政策などについて記者団の質問にこたえました。

  日本の中東政策とアラブ

 今日における石油問題の解決と中東の平和の確立とは、現実的には不可分のものになっていると考える。日本政府が先に発表した中東政策の〝手直し〟も、国連決議からみて当たり前のことをいっているにすぎず、アラブ諸国も不満を表明している。われわれはこの不満を理解できる。
 中東問題の本質、もっとも根本的な原則は、一九六七年戦争以後のイスラエルによるアラブ領土の占領継続を許さないパレスチナでのアラブ人の民族自決権を認める、の二点だ。これがアラブ諸国人民の基本的要求でもある。
 ところが、日本政府は、従来国連において、六七年戦争以後の占領地からのイスラエル撤退を求める二四二号決議には賛成したが、その前後に、たとえば一九六六年の天然資源の恒久主権にかんする決議案の採択にたいしては、米、英とともに主文には反対し、全体としては棄権した。また、一九七〇年の同趣旨の決議で、主権が海洋にも及ぶとしたものについても、反対の態度をとっている。つまり、日本はアラブの石油資源へのナショナリズムというか、外国資本の石油支配への制限――アラブ諸国の持株増などへの要求に、国連できわめて否定的な態度をとってきた。
 しかも、それにくわえて、日米軍事同盟のもとで、日本を拠点とする米第七艦隊はアラブ諸国の近辺、紅海にまで出動しているし、日本政府はこのような米軍に、年間八十万もの石油を供給している。日本はイスラエルをあとおしするアメリカの強力な支持者として行動してきた。このようななかで、アラブ諸国が、日本に強い不満をもつことは理解できる。
 石油資源へのアラブ側の要求は強力であり、それはアラブのいわばめざめと正義の要求から出ている。いまの中東紛争が、かりに緩和したとしても、アラブのナショナリズムへの理解なくしては、将来にわたってアラブ諸国との友好関係をたもちえない弱点を、現在の日本政府はもっている。

  国連憲章からも制裁は自然

 現在の問題点は日本政府が口では国連決議の線にそったことをいっているが、それを行動で示せということであり、わが党もそれについて様ざまな検討をくわえた。
 アラブ諸国は対イスラエル断交をふくむ効果的措置を公式、非公式にのべている。たとえばアラブ連盟のリアド事務総長は、フランスの新聞で、われわれは日本およびアフリカ諸国には対イスラエル断交を要求するが、ヨーロッパ諸国には要求しない、といっている。ここには日本がアジア、アフリカの国であり、アジア、アフリカの運命には本来もっと連帯の立場をとるべきであるとの積極的な要求がある。
 この要求は一見激しいもののようにみえるが、国連憲章は、侵略行為などをおこなっている国への軍事的、非軍事的制裁措置を定めている。その第四一条は、非軍事的制裁には、「経済関係」をはじめ、「鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部または一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる」と定めている。国連決議二四二号は、イスラエルの占領地からの撤退を要求している。だから(安保理事会の決定にいたらなくても)理論的には、国連憲章が規定している非軍事的制裁といったものを、とくにアジア、アフリカ諸国が積極的に重視する態度をとったとしても、これは自然であると、われわれは考える。現に十三の社会主義国、三十一のアフリカ統一機構加盟国や、アジアの諸国を含めて多くの国がイスラエルと国交をもっていないか断交した。
 日本の場合、イスラエルを政治的、経済的、軍事的に支援しているアメリカとの長い間の従属関係にあり、この点で、アラブの要求は激しくはみえるが、アメリカとの関係を抜きにして、広く日本をアジア、アフリカの一国としてみた場合には、自然な要求といえる。日本政府は、イスラエルにたいする態度の「再検討」を約束しているが、われわれ革新勢力としては、以上のべた立場は十分考慮におかれるべきであると考える。
 われわれは油がほしいから、アラブ側の要求を満たすために以上のことを考えるのではなく、中東の平和、不法な侵略によって長期の占領を続けている国への国際的正義として、少なくとも非軍事的制裁を、話にもならない暴論というようなアメリカよりの考えではなく、問題の原則的、徹底的な解決という観点から、国連にたいしてそれを要求し、アジア、アフリカ諸国の一つである日本の政府にそれをふくめたまじめな検討を、情勢が要求しているということをいいたい。
 なお、石油問題の将来の基本的解決策については、われわれは以前から日本のエネルギー政策は従属的であると指摘し、石炭とりつぶし政策にも反対してきた。またメジャーを通じる貿易構造をとるのでなく、直接産油国にたいして平等互恵の立場から接近して、それとの貿易関係を設定せよ、対アラブだけでなく対社会主義国をふくめて、そのような措置をとれと要求してきた。

  国際的正義の観点で――対イスラエル政策
  質問にこたえて

 このあと宮本委員長は、イスラエルにたいする態度の問題についての質問にこたえ、つぎのようにのベました。

 、(イスラエルにたいする制裁の問題で、国連憲章を引いての話があったが、国交断絶のようなものを、共産党として政府にやれと要求するのか、との問いに)(中東政策の)「再検討」のなかには、そういう問題も含めて検討すべきであるという考えだ。共産党としては、イスラエルが撤退するまでという限定的な条件でやるべきであるという意見である。この見地から国会でも政府に提起していく。

 、(中東和平のための条件として六七年の占領地からの撤退とパレスチナ人民の自決をあげたが、イスラエルの存在を否定するような一部の主張に同調するのか、との問いに)われわれは、ユダヤ人の自決権は認めるべきだと思う。一部のイスラエル抹殺論にくみするものではない。どういう過程、思惑はあったにせよ、ユダヤがイスラエルという一つの民族国家をつくる権利は認める。もともと、パレスチナにおける連邦制と分割制の二つの案があった。連邦制でパレスチナとユダヤ人に連邦国家をつくらせる案があったが、結局、今日のような分割国家になった。われわれは、いまのべたような見地に立っている。

 、(国連憲章にもとづく制裁を加えるというが、日本はアメリカの核のかさのもとにあり、アメリカの政策に反するような対イスラエル政策をとれないという矛盾がある。どのように解決するのか、との質問に)国連憲章の制裁規定を全部やれというのではないが、あれだけの手段があるのに、日本政府がやっていることは、石油精製のプラント、資本投下など、いわば経済援助である。われわれの立場は、アラブ側の対応いかんにかかわらず、中東問題の原則的な解決の道をアジア・アフリカの一つの国の国民としてのべたものだ。
 日本には、日米軍事同盟があり、アメリカがどういう態度をとるかは当然、考慮されるべきだが、この問題で求められているのは、メリット、デメリットということばがあるが、たんにどうしたら得か、どうしたら損かという観点から離れて、どこに中東平和の正義があるかという点にまず、明白なケジメをつけて考える必要があるという点だ。現在、多くの国がイスラエルと国交を断っているのに、日本はアメリカの核のかさのもとにあって、そういうことは政府としては思いもかけないという状況にある。そのため、かなりショッキングに受けとられるところもあろう。しかし、問題の性質は、そのくらいのことを考慮するに値する事態である。本来、アジア・アフリカの一国として、イスラエルの不当な占領を許さないという当然の国際的正義の実現という観点からすれば、国連憲章さえ規定したこれらの手段を、実現可能な手段として、そのうちのどれかを選択してやったとしても当然のことなのだ、ということを革新勢力のなかに一つの問題として提起したい。

(「赤旗」一九七三年十二月十二日付)