日本共産党資料館

大韓航空機撃墜事件について

1983年9月12日 日本共産党中央委員会幹部会

 ソ連領空を大規模に侵犯した大韓航空機がソ連空軍機によって撃墜され、日本人乗客二十八人を含む二百六十九人の生命は、九月一日未明のサハリン西方の海に消えた。
 事件発生いらい、撃墜の事実さえ認める態度をとらなかったソ連は、事件発生後一週間も経過した七日(日本時間)、政府声明を発表し、ついで党・政府・軍当局者の共同記者会見で、ソ連領深く侵入したスパイ機として、ミサイルで撃墜したことをようやく認めるにいたった。領空侵犯が国際法上違法行為であることはいうまでもないが、民間機の撃墜はあきらかに過剰防衛であって正当化できるものではない。しかし、ソ連政府の態度は、民間機撃墜という行為についてなんら反省しようとしないものである。
 わが党は、大韓航空機がソ連空軍当局によって撃墜された可能性があるとの報道がおこなわれた直後の九月一日、金子満広書記局長談話を発表し、それが事実であるとすれば、「許しがたい蛮行」であり、「人道上も国際法上もまったく許されぬ行為である」という見解を発表するとともに、二日には、どの政党にもさきがけて、ソ連政府にたいし、すみやかにこの事件の真相をあきらかにし、責任ある態度をとるよう申し入れをおこなった。またソ連政府が撃壁を認める前日に、宮本議長と不破委員長が、それぞれ党の見解を全面的にあきらかにした。
 日本共産党は、ソ連政府が公式にも撃墜を認めたいま、あらためて大韓航空機撃墜事件についての見解と態度を表明する。

 、多数の乗客をのせた民間機の航行の安全に最善をつくすことは、今日の世界で共存する国ぐにの共通の責務に属することである。しかも、社会主義はほんらい、人命尊重をもっとも重要な原則とするものであり、社会主義国がこの面でも、今日の国際社会で人命尊重の原則にもっとも忠実な態度をとるべきことは当然である。その社会主義の一国であるソ連が、こうした社会主義のほんらいのあり方に反して民間機を撃墜し、二百六十九人の人命を奪うにいたったことは、まことに遺憾なできごとである。
 第一に、大韓航空機の大規模な領空侵犯は国際法に違反するものであり、これを排除する措置をとることは当然認められるにしても、だからといってそれを撃墜したことは、軍用機と誤認したとしても、正当化されることにはならない。ソ連領空とはいえ、大韓航空機が航行したのは、一日に定期旅客機約六十機が通過する国際的にきわめて重要な民間航空路につながる空域である。そういう空域で領空侵犯機を発見した場合、軍用機か民間機かを識別するためのあらゆる努力をつくし、対処をすべきものであることは、国際的にもひろく認められた当然の道理である。警告に反応がなかっただけでは、十分な確認とはいえない。自分たちが民間機と識別できないものはすべて軍用機として撃墜するなどというのは人命尊重の立場にたたない、軍事優先の反人道的な論理といわなければならない。
 第二に、領空侵犯した大韓航空機が「特別任務を遂行中の偵察用航空機」つまりスパイ機であったとする理由も、非武装の民間機に武力攻撃をくわえて、これを撃墜したその行為を正当化する論拠にはなりえない。スパイ機だという断定自体、領空侵犯の事実および警告への無反応という以外には、二体的根拠がしめされていないし、かりにこの飛行機の乗務員ないしその一部のものがスパイ活動なるものに参加していたと仮定しても、十数ヵ国二百数十人の乗客は、それとはまったく無関係であり、その生命をも奪ってよいとす理由は成立しない。日本共産党は、共産主義の精神である、人間の生命をなによりも尊いものとする立場から、ソ連指導部が率直に責任を認め、事件のすべての情報を公表することがいまもっとも重要なことであると主張する。

 、同時に事件の発端が、大韓航空機によるソ連領空の大規模な侵犯にあったことも、明白な事実である。大韓航空機は、一九七八年にも連領空を深く侵犯する事件をひきおとしている。乗客の生命と安全をそこなう重大な領空侵犯事件を再度にわたってひきおこしながら、責任ある対応をなしえないとしたら、そのような企業や政府が、国際民間航空を経営する資格と能力を問われることは、自明である。
 韓国政府は、なぜこのような再度にわたる重大な領空侵犯がおこったのかをあきらかにし、ふたたび領空侵犯をおこさないよう、責任ある態度をしめす義務がある。

 、シュルツ米国務長官の声明、公表された交信記録などから明白なように、大韓航空機のソ連領空侵犯とそれにともなう重大な事態の進行を早い時期から把握していたアメリカ、日本両国の軍事当局が、領空侵犯を是正し、事故防止のための適切な措置をとらなかったことも容認できない問題である。
 国際民間航空条約にもとづくとりきめには、要撃にともなう危険を排除するため、軍当局を含め関係諸機関が、「連絡調整」を保障する最大限の努力をはらうよう明記されている。日米軍事当局が、軍事的考慮から、人命を犠牲にする事態を黙認する態度をとったことはきわめて重大であり、わが党は、この責任も追及するものである。
 事件発生後、この事件を軍拡のために政治利用する主張が公然化していることも重視しなければならない。中曽根首相は、今回の情報収集活動にしめされた自衛隊の能力の高さを自慢するとともに、「この機能を高めていくことが政治の最大の「責任である」などとのべている。これは、尊い人命の犠牲を〝不沈空母化路線による軍拡に利用しようとするものである。
 今回の事件の背景に、軍事ブロックの対抗による軍事緊張の激化があることは、すでにひろく指摘されていることである。もちろん、今日、緊急にもとめられていることは、軍事緊張のもとではこの種の惨事が必然だとして傍観することではなく、軍事緊張下でも、民間航空の安全な運航が保障されるような状況と体制をつくりだすために全力をつくすことである。しかし、軍備拡大に拍車をかけることが、こうした事件の再発を防止する道からいよいよ遠ざかることである点は、きびしく指摘し、軍縮と国際緊張緩和、軍事ブロックの解消を強調しなければならない。

 、日本共産党は、関係諸国が平和と人命尊重の立場から、真相を全面的に究明し、事件を正しく処理し、このような不幸な事件の再発を防止するため、つぎの具体的な措置をとるよう提案する。
 ①ソ連政府は、今回のソ連軍による撃墜行為にいたる事態の全容を客観的記録をもってあきらかにし、責任ある態度をとるとともに、現場における共同捜索など関係諸国から要請される人道上の措置について誠実に協力すべきである。
 ②韓国政府は、大韓航空機のソ連領侵犯の真相と責任をあきらかにすべきである。
 ③日米両国政府は、大韓航空機の領空侵犯の状況を早くから知りながら、今回の惨事を未然に防止する適切な措置をとらなかった。軍事優先の態度をあらため、事件にかんし知り得た情報のすべてをすみやかに公表すべきである。ソ連機から警告発射があった記録を十日後にやっと発表したことは、たんに技術的問題に帰することのできないものであると考える。
 ④国連および国際民間航空機関において、また関係諸国政府が、民間航空の安全を確立するため、人命尊重を最優先させた再発防止の国内的、国際的措置をとり、協力体制を確立することが必要である。
 日本共産党は、これらの具体的諸措置が実現され、今回のようないたましい惨事がこんごふたたびおこることをふせぐことこそ、犠牲をつぐなう真の道であると確信し、その実現のために奮闘するものである。