日本共産党資料館

焦眉の国際的諸問題に打開の展望を与える「行動のよびかけ」
重要な国際的意義をもつ宮本議長とチャウシェスク書記長の共同宣言

一九八七年五月二日「赤旗」主張

 日本共産党の宮本顕治中央委員会議長とルーマニア共産党のニコラエ・チャウシェスク書記長の共同宣言が、三十日それぞれの党機関紙で発表されました。
 今日の世界には、人類と文明の存在そのものを脅かしている核兵器の蓄積の問題をはじめ、発達した資本主義国の諸矛盾の深化、発展途上国での重大化する諸問題、飢餓、貧困など国際政治と国際経済の根本的転換を求められている諸問題が山積しています。これらの問題を打開し、解決していく基本方向を社会進歩における科学的社会主義、共産主義運動の役割とともに明らかにしたのが、この共同宣言です。
 同時に、この宣言は、政策や理念を示すにとどまらず、問題解決の方向を提起し、世界の諸国人民、諸勢力にたいして行動にたちあがるようよびかけており、世界の諸国人民にとって緊急かつ焦眉(しょうび)の問題をとりあげた「行動のよびかけ」という性格をもっており、国際政治にとっても、また、世界の共産主義運動にとっても、重要な国際的意義をもつ文献です。
 この共同文書は、両党首脳が直接会わずに、書簡、メッセージ、相互の代表交換をつうじて合意したものですが、両党指導者は、首脳会談の実現を待つことなく、差し迫った、一刻も猶予できない、五つの緊急の国際的課題、すなわち、平和と核兵器の問題、平和民主勢力の共同の問題、民族の独立と安全の問題、新国際経済秩序の問題、世界の共産主義運動の問題で、世界にむかって行動をよびかけることが必要であるとの見解で一致したのです。

 反核国際統一戦線のよびかけ

 共同宣言は、国際的諸課題のなかでももっとも差し迫っている核兵器をめぐる課題を、たたかいの焦点と位置づけたうえで、「核戦争阻止、核兵器廃絶のための広大な反核国際統一戦線を結成することが急務であり、そのために全力をつくすべきときである」と訴えています。また、「核戦争の危険を憂慮する世界中のすべての政治勢力、労働組合、婦人、青年の組織と運動、宗教界その他の社会階層、組織および個人にたいし、政治、思想、信条の違いを超え、地理的地域にかかわりなく行動にたちあがるよう力強くよびかけています。共産党間の共同文書で、反核国際統一戦線結成の緊急性を単刀直入によびかけたのは、今回が初めてです。
 この宣言は、核兵器全面禁止・完全廃絶の課題と世界の各地ですすめられている反核の個別の課題とのあいだには、矛盾も対立もないことを指摘し、両者の関係を正確に、明確に解明し、世界の平和民主勢力の共同の方向をうちだしています。宣言は、核兵器全面禁止協定締結の緊急課題を前面にかかげ、「諸国人民のたたかいの発展と国際世論の動員によって核兵器に固執する勢力を包囲し、圧倒する世界的な趣(すう)勢をつくりだすことが、同時に個別的課題の実現をも保障する」と強調しています。これまで情勢の推移によって、SDI阻止や核実験禁止、ヨーロッパ中距離核ミサイル全廃を優先的な中心課題に据えようとする動きが世界の反核平和運動の一部に現に存在することをみるとき、こうした個別課題でも断固たたかうが、全世界人民共通の中心、緊急の課題は、核兵器廃絶であるという解明と正確な方向づけは、世界各地ですすめられているたたかいと運動を励ますとともに、これらの運動の広がりと発展への大道をしめすものとしてきわめて積極的な意義をもつものです。
 戦後四十余年の核軍拡の現実について、共同宣言は、「核兵器廃絶という中心課題が、長期にわたり棚上げされ、核兵器の存在を前提とした『抑止と均衡』にもとづく、核軍備の管理が追求されてきたからである」と解明しています。とりわけ、昨年十月のレイキャビク会談後「核兵器が諸国の防衛能力と安全保障を強化し、世界の平和の維持に貢献する」という「核抑止」論が西側諸国で強まっているとき、「誤った、時代遅れの考えは、完全に放棄されることが必要である」と、こうした「核抑止」論の有害性を指摘していることは、反核平和運動にたちはだかる障害をとりのぞくうえでもきわめて重要なものです。広範な人々によって確認されつつある歴史と事態の教訓が強調されています。さらに、今回の共同宣言で重要な意義をもつのは、核戦争阻止、核兵器廃絶というこの歴史的課題が、世界で唯一の被爆国でアジアの共産党と核兵器を置いていないヨーロッパの社会主義国の共産党との間で提起され、その達成のための両党の共同の決意が表明され、とくに、世界の平和・民主運動が正確な目標をかかげて、原則にそった活動を発展させ、国際共同行動をすすめることをよびかけていることです。
 実際、世界労連、世界民青連などでは、核兵器廃絶を中心、緊急課題としたたたかいのよびかけが発せられるなど積極的動きがあらわれていますが、この宣言でよびかけられている方向は、反核国際統一戦線結成の可能性をさらに強めるものです。  ここでのよびかけと命題の定式化は、核兵器をめぐる諸問題の今日における新しい理論的、実践的到達点を示すものです。両指導者は、核問題をめぐってもっとも高い水準での一致を確認し、「死力をつくして行動する決意を表明する」「いまこそ、人類の存亡をかけた行動のときである」と力強く訴えていますが、これは、歴史的課題にとりくむ両指導者のなみなみならぬ決意を示すものです。

 飢餓、貧困、低開発にたいするグローバルな解決のよびかけ

 共同宣言は、核兵器と通常兵器の軍拡による軍事費の膨大な浪費にたいし、軍事費の大幅削減、通常兵器、兵力の大幅削減を主張しています。また、飢餓、貧困、累積債務の増大、低開発問題など国際経済の問題を提起し、その全地球的解決のために、新国際経済秩序の創設を力強くよびかけています。新国際経済秩序の創設は、一九七八年の共同宣言で提起され、この課題が発展途上国のみならず、発達した資本主義国の勤労人民にとっても重要な意義をもっていることを解明する先駆的意義をもちましたが、今回の宣言では、その定式化を確認しつつ、さらに重大化しつつある今日の国際経済情勢に照らして、社会主義国にとっても意義をもっていることを新たに指摘しました。このことは、この課題の全地球的意義を明らかにするうえで、いっそう重要な意義をもっています。
 つぎに、両党指導者は、民族の独立と安全の問題について、すべての軍事同盟の解消、外国軍事基地の撤去、他国からの外国軍隊の撤退を求めるとともに、国家関係の原則の確立とその意義、主権国家間の紛争問題の話し合い解決の原則を主張しています。これらは、現代国際社会に生起している諸問題とその複雑性をみるとき、大きな重要性をもつものです。

 共産主義運動の真の団結の回復のために

 最後に、宮本議長とチャウシェスク書記長は、世界の共産主義運動の現状と克服すべき問題点について、リアルな検討をくわえ、今日の情勢のもとでの世界の共産党・労働者党の任務を提起しています。
 一九七一年の両指導者の共同声明は、「国際共産主義運動の統一は、それぞれの共産党の統一に依拠するものである。したがって、それぞれの党の国際的な第一義的責務は、どのような形態でも、他党の内部問題への干渉を許さないこと、他党の分派の存在と闘争を支持、育成しないことである。なぜなら、それらは共産党間の基準の侵害だからである。他党の分派の支持をふくめ、あらゆる干渉に終止符を打つことは、すべての共産党にとって緊急の国際的任務である」と明確に規定しました。当時から現在までの世界の共産主義運動の状況に照らして、両党が国際的任務としてこのように一致して強調した課題がいかに大きな役割を果たしたかは、この十六年間の歴史的経過をふりかえれば明らかです。
 両指導者は、このことを確認しつつ、覇権主義にもとづく他党の内部問題への干渉、こうした干渉に起因する不団結などの問題がなお存在していること、核問題をはじめとする国際的諸課題での共産党・労働者党の貢献が本来の任務からみて、不十分であることを率直に指摘しつつ、その克服、世界の共産主義運動の真の統一回復と連帯と協力の強化のために、活動するという両党の決意を力強く、格調高く表明しています。
 両指導者は「共産党・労働者党がそれぞれの革命運動と社会主義建設を科学的社会主義にもとづき創造的、自主的におこなうことは当然のことであり、それは正しい意味の国際連帯を大いに促進する」と強調しました。日本共産党は、けっして容易ではない国際的環境のもとで、自主、同権、内部問題不干渉という共産党・労働者党間の関係の原則の厳守のために断固としてたたかってきました。ルーマニア共産党もそのためのたたかいをすすめてきました。こうした両党が、共産主義運動の問題点を明確に指摘して、その克服のために積極的に活動し、「共産党間の正しい相互関係にもとづく新しい国際連帯は可能である」とうたったことは、とくに重要な意義をもつものです。
 世界の共産主義運動には、克服すべき問題はあるものの、核兵器廃絶は共産主義者の第一義的な任務であり、反核国際統一戦線結成の事業のなかで、共産党・労働者党はもっと大きな役割を果たさなければならないことは明らかです。
 こうした世界の共産主義運動がかかえる問題点、克服すべき課題をリアルに提起することができるのも、日本共産党があらゆる干渉に断固として反撃し、確固とした自主独立の立場を貫いてきた党であり、ルーマニア共産党もワルシャワ条約機構のなかにあって、自主性を守ってきた党であるという特質をもっているからです。さらに、両党間には伝統的といえる関係が存在しているからです。  宮本議長は、七一年と七八年ルーマニアを訪問し、チャウシェスク書記長と会談し、その結果それぞれ二つの共同文書を発表しましたが、それらは両党の友好と連帯にとってのみならず、国際的にも重要な意義をもち、歴史的な役割を果たしました。今回調印された共同宣言は、これまでの二つの共同文書の積極的な伝統を引き継ぎ、複雑、重大で、差し迫った今日の国際情勢のもとで、諸命題を発展させています。
 八四年十二月に、宮本議長とチェルネンコ書記長との間で核問題に限定した日本共産党とソ連共産党の共同声明が発表され、これは、国際政治においても、平和・民主運動の発展においてもきわめて大きな役割を果たしてきましたし、現に果たしています。これは、日本共産党が結んだ核保有大国との共同声明という点でも大きな意義をもちました。ルーマニア共産党との共同文書は、核兵器を保有せず、配備していない社会主義国の党とのものであり、同時に、核問題をはじめ、今日の国際的基本課題、世界の共産主義運動の問題をもとりあげ、その打開と展望を示したという点で、世界の政治と世界の共産主義運動、平和民主運動に新たなインパクトと影響力を与えるものです。
 共同宣言は、国際的な緊急課題を浮き彫りにするためにも、原則的、包括的な性格、全体的視野をもちながら、簡潔、明確に力強く表現されています。また、これらの巨大な歴史的意義をもつ課題を解決する道を探究する両指導者の科学性に裏付けられた真剣さと熱意のあふれる国際的文献です。
 この共同文書が、宮本議長とチャウシェスク書記長が文書作成にあたってともに念願した緊急の諸課題の解決のための「行動のよびかけ」として、大きな力を発揮することを確信しつつ、わが党はこの共同宣言の内容の実践のために全力をつくすものです。