日本共産党資料館

チェコスロバキア侵略の誤りを認めたワルシャワ条約機構5カ国首脳の声明について

不破哲三日本共産党幹部会委員長の談話

 、一九六八年にチェコスロバキアを侵略し、軍事力でチェコスロバキア共産党指導部と政府を打倒し、軍事介入したワルシャワ条約機構加盟のソ連、ポーランド、東ドイツ、ハンガリー、ブルガリアの五カ国の指導者は四日、モスクワで、五カ国の軍事介入は「主権国家チェコスロバキアの内部問題への干渉であり、非難されるべきである」と声明した。ソ連政府はさらに、軍事介入の「決定は、現在わかっているすべての事実に照らして、誤りであった」と独自の声明を出した。
 事件から二十一年余も経過しているが、侵略的行為をおこなった五カ国が科学的社会主義に無縁なこうした重大な誤りを公式に認めたことは、おそきに失したとはいえ、「理性と科学」の方向での自覚的な前進の注目すべき一歩として、わが党は歓迎する。
 このことは、侵略と干渉の対象となったチェコスロバキア人民をはじめ、東ヨーロッパの一連の国の人民の民主化運動――官僚主義的覇権主義的「ソ連型社会主義」の押しつけとそれに追随する指導勢力を拒否し、各国の自主性と民主主義の発展をめざしている運動がおさめた重要な勝利である。

 、日本共産党はチェコスロバキア事件の直後から社会主義の原則を裏切った不当な侵略に反対し、大国主義、覇権主義が世界の平和と社会進歩の最大の障害となっており、その克服こそ急務であるとの立場を貫き、ソ連の党指導部にたいして、繰り返し断固として批判してきた。いま国際政治のうえで大切なことは、チェコスロバキア事件の誤りの確認と反省にたち、いかなる口実と理由によるものであれ、いっさいの民族自決権の侵害に終止符を打つことである。
 同時に、ソ連共産党その他が、この不当で残酷な軍事侵略にたいして批判した国の共産党へ加えた攻撃・非難が大きな歴史的誤りであったことを、率直に公然と自己批判することが、共産主義の大義として求められている。
 この点で重視すべきことは、二十一年前のチェコスロバキアへの軍事介入が、「社会主義の防衛」という口実でおこなわれ、また、社会主義国の「共同」の利益の名のもとでその正当化がはかられたことである。日本共産党は、侵略を合理化するこれらの議論にたいしても、一貫してきっぱりした批判を加えてきた。「社会主義の『共同』利益を名目とする民族の主権や自決権の侵犯は、社会主義国の間の関係においても許されない」(「自由と民主主義の言」)。
 わが党は、この問題は、単に歴史の教訓にとどまらない今日的意義をもつことを、きびしく指摘するものである。
 いま、東ヨーロッパの諸国では、規模においても、内容においても、二十一年前のチェコスロバキアを上回る激しい変化が起こり、進行している。この変化の性格や方向については、当然、さまざまな評価がありうるが、重大なことは、どのような変化も、その国の人民の選択である以上、それが気にいらないからといって、「社会主義の防衛」の名のもとにこれを武力で鎮圧したり、あるいは外国から干渉したりすることは、歴史と社会進歩に逆行する絶対に許されない措置であるということである。
 それぞれの国の社会進歩の前途は、その国の人民自身の選択と経験を通じてこそ開かれるものであり、真の科学的社会主義の勢力も、自主的かつ正確な政策、方針を練り上げ、その国の人民の支持をえる活動と努力を通じてこそ、それに貢献しうるものである。

 、世界政治にとってもう一つの重大な問題は、チェコスロバキア事件が、ヤルタ協定以降の世界の枠組みである軍事ブロックの有害性をさらけ出した典型の一つであったということである。当事者の回想によれば、軍事介入後、モスクワに逮捕連行されたチェコスロバキアの指導者たちは、モスクワでソ連のブレジネフ書記長から、ソ連は、チェコスロバキアがヤルタの取り決めにもとづいてソ連圏に属し、アメリカはそのことを尊重するという確約をジョンソン大統領から得たうえで軍事介入をおこなったのだ、と通告された。ここには、今日の軍事ブロックが、大国主義的勢力圏体制と不可分のものであり、民族自決権とは両立しえないものであることが、端的に示されている。
 世界平和にとって、今日の最大の急務の一つは、こうした軍事ブロックの解体をめざし、それを促進する積極的措置をただちに講じることである。

 、ソ連のゴルバチョフ書記長は、チェコスロバキア侵略の誤りをワルシャワ条約機構の当事者として認める一方、この軍事同盟を政治同盟として維持しつづけることが欧州安保を強固にするとのべ、こういう新しい解釈のもとにあくまでワルシャワ条約機構を維持する立場を表明している。これは、チェコスロバキア事件の教訓と反省をきわめてあいまいにするものである。
 日本共産党は、いまこそソ連およびワルシャワ条約参加諸国が、第二次世界大戦後の軍事同盟政策を根本的に清算し、軍事同盟の解体と、東欧諸国からの駐留ソ連軍の撤退に向かって、率先して足を踏み出すことを要求する。すでにチェコスロバキアの新内閣はソ連駐留軍の撤退を要求している。これこそ、東ヨーロッパ諸国人民の自決権をまもり、切実に求めている自国の道の自主的選択を実現する保障であると同時に、世界の平和に向かって社会主義国にふさわしいイニシアチブをとる道であると考える。

(「赤旗」一九八九年十二月六日)