日本共産党資料館

チャウシェスク政権の変質に日本共産党はどう対処したか

 ルーマニアではティミショアラでの武力弾圧事件からわずか一週自由と民主主義をもとめる人民の大衆行動を軍事力で弾圧し、おさえこもうとしたチャウシェスク政権が、ルーマニアの主権者であるルーマニア人民の怒りと力によって崩壊しました。
 このドラマチックで急激な変化の背景には、チャウシェスク政権の変質と転落があります。
 ルーマニアは、ワルシャワ条約機構の名による一九六八年のチェコスロバキア侵略のさい、これに反対してくわわらなかったこの機構内の唯一の国でした。日本共産党はチェコスロバキア侵略に反対した党として、この党と一定の友好関係をもち、国際問題で、核兵器廃絶や民族自決権の尊重、共産党間の内部問題不干渉の原則など世界の公理にもとづく共同をすすめる立場をとってきました。とくに内部問題不干渉の原則については、日本でソ連が志賀一派を支持するなど世界各国の共産党への内部干渉をしているなかで、この原則を擁護したことは非常に意味のあることでした。
 この関係が無条件の相互支持でもなく、ルーマニアの国内問題などを肯定したものでないことは、いうまでもありません。
 ところが、その国際問題においても、とくに最近になって重大な変化がはっきりしてきました。これについて、日本共産党は、黙ってみすごすことのできない重大な変化として批判や警告をくりかえしおこなってきました。その経過をあらためてふりかえってみます。

  中国の天安門前の人民武力弾圧を支持

 重大な変化の第一は、六月末、ルーマニアのチャウシェスク書記長が、中国共産党の江沢民が六月二十三、二十四日の中央委員会総会で総書記に選出されたことにたいし祝電をおくり、そのなかで天安門事件を「反革命分子」との闘争と意義づけ、つぎのように支持したことです。

 「私はこの機会に、友好的な中国人民が中国共産党の指導のもとに、反革命分子の活動によってつくりだされた当面の困難を克服し、中国の社会主義の発展、全国人民の生活水準の向上の各目標を実現するよう期待します」(人民日報六月二十八日付)

 日本共産党は、民主主義をもとめる人民を武力で弾圧した暴挙を「反革命分子」からの防衛の名目で支持するこの誤った態度を重視し、それにたいし明確な批判をつたえることを重要な目的の一つに、八月二十三日のルーマニア解放四十五周年記念行事に金子書記局長を団長とする日本共産党代表団を派遣しました。金子団長は、ルーマニア共産党代表団との公式会談でつぎのように日本共産党の批判的見地をあきらかにし、チャウシェスク書記長との会見でもこの立場を強調しました。

 「人民をまもる軍隊が人民に銃口をむけた。これは暴挙というしかなかった。わが党は六月四日すぐに、中央委員会の声明をだした。社会主義的民主主義をふみにじる中国の指導部の暴挙を断固糾弾するというものだ」

 しかし、これにたいしチャウシェスク書記長は、「中国の同志は誤りを犯して事件をおこした。しかし、私は中国共産党の評価に賛成している」などとのべました。
 その後もルーマニア側は態度をあらためず、チャウシェスク大統領が九月にルーマニアを訪れた鄒家華国務委員との会見の際、「社会主義諸国政府および党は自らの発展に道を開くため、反革命反乱を鎮圧する措置を講じなければならない」と天安門の流血の弾圧を支持したことが報道されました。(中国通信九月二十日付)
 日本共産党はこのことをあくまで重視し、十一月のルーマニア共産党の大会にあたっても、党代表の緒方靖夫幹部会委員がチャウシェスク書記長に直接「天安門事件のように人民の平和的な行動を武力で弾圧することは社会主義のあり方として、われわれは決して容認できない」と指摘しました。

 ポーランド「連帯」主導政府の成立阻止問題

 つづいて、八月のポーランドの政変にさいしてもルーマニア共産党は、重大な変質をしめしました。それが明るみにでたのは、九月末のことでした。
 ポーランドでヤルゼルスキ大統領が「連帯」のマゾビエツキ氏を首相に指名し、「連帯」主導政府成立の見通しとなった八月十九日の深夜、その阻止を目的とするルーマニア共産党指導部とチャウシエスク書記長の声明が、駐ルーマニアのポーランド大使に伝えられました。
 その内容は、「連帯」が政権につくことは、「社会主義建設の科学的、革命的内容と合致せず、帝国主義者のもっとも反動的な陣営に奉仕する」ものであり、「ポーランドだけの国内問題でなく、すべての社会主義国にかかわる」ものであり、ポーランドの「労農政権が反動陣営に引き渡されるのを阻止するため、社会主義の大義の要求するところから各国共産党はいま、この重大な局面で統一した行動をとらなければならない」というものでした。(ポーランド国営通信PAP)
 「ルーマニア共産党指導部はポーランド統一労働者党指導部、ワルシャワ条約機構加盟国その他の社会主義国の政治局、党指導部にたいし、ポーランドの重大情勢を阻止しポーランドの社会主義を守るために、深刻な懸念を表明して共同行動をとるようもちかけることを決定していた」(ポーランド国営通信PAP)というわけです。
 この事実は九月末から十月初めにポーランドとハンガリーからの報道で公式に明るみにだされました。
 これは、一九六八年のチェコスロバキア軍事介入の再現をすら想起させるものです。日本共産党は、ルーマニアがワルシャワ条約機構加盟国で唯一チェコスロバキア侵略に断固として反対したことを重視して、一定の友好関係をもってきたのでした。ですから、ルーマニアの百八十度の転換はおどろきであり、両党間で交わされた共同文書への重大な背反でした。社会主義の原則を投げ捨てるこのようなたくらみは、国際的にも許されません。日本共産党は当然批判的な立場から、ルーマニア共産党にたいし正式に再三、この報道についての公式のコメントをもとめました。ところが、ルーマニア当局は言を左右にしてコメントを逃げつづける態度に終始し、回答はありませんでした。
 日本共産党は、十月二十五日付の「赤旗」で、「ポーランドへの統一した行動をよびかけたルーマニア党の声明、ポーランド、ハンガリー両党が拒否」と題して批判的な報道記事を掲載し、あわせてポーランド統一労働者党政治局の回答とハンガリー社会主義労働者党のコータイ国際党関係部長発言を紹介しました。

  ルーマニア共産党大会をめぐって

 東ヨーロッパ問題で繰り返し警告
 十一月九日、ルーマニア共産党の第十四回大会に先だって、日本共産党の立木洋常任幹部会委員・国際委員会責任者がルーマニアのブラド駐日大使と会談し、社会主義的民主主義や人民の自決権にかんして、日本共産党の態度をあらためてつぎのようにルーマニア側に伝えました。
 複数政党制、すべての政党の自由、選挙の結果にもとづく政権交代など、社会主義においても民主主義をあらゆる面でまもり発展させるとの日本共産党の立場から、東ヨーロッパの一部での事態について、「基本的には『ソ連型社会主義』のおしつけが破たんした事態」であり、「大きな誤りもいろいろあるでしょうが、それを武力で鎮圧するとか、外部から干渉するとかは避けるべきこと」であるとの見解が伝えられたのです。この立場は、ルーマニアの党大会におくった日本共産党のメッセージにも明確にもりこまれました。  また、日本共産党代表の緒方靖夫幹部会委員・国際部長は、チャウシェスク書記長との単独会見の席で、東ヨーロッパ諸国の事態についての日本共産党の基本的見地を伝えるとともに、「いずれにせよ、天安門事件のように人民の平和的な行動を武力で弾圧することは社会主義のあり方として、われわれは決して容認できない」と明確に主張しました。
 日本共産党のメッセージをズタズタに
 十一月二十四日付のルーマニア共産党紙スクンティアが掲載した日本共産党中央委員会の大会へのメッセージは、重大な部分がズタズタに削除されていました。大国主義や社会主義的民主主義の欠如、官僚主義などの科学的社会主義からの逸脱に成功はないと指摘した部分、日本における社会発展のすべての段階での複数政党制と自由選挙を保障する展望をしめした自由と民主主義の徹底的開花を強調した部分、軍事ブロック解消への積極的イニシアチブをワルシャワ条約機構によびかけた部分などが、国際的な協調主義への批判的な分析の部分とともに、削除の対象となりました。
 短くする必要のあるときは相談してほしいと、事前に申し入れてあったのにもかかわらず、いっさいの協議もなく削除されたものです。こうしたことは、ルーマニアの党大会でわが党が経験した初めてのケースです。削除部分がルーマニア側にとってつごうの悪いものであったことは、いうまでもありません。ルーマニアの変質がどの点でおきているか、如実にしめしたものでもありました。  緒方幹部会委員は当然、ただちに「きわめて遺憾である」との抗議の意を表明しました。また「赤旗」でも十二月六日付に公表しました。
 自民、公明とも手を結ぶ
 その一方でルーマニアを支持するものなら、どんな勢力とでも手を結ぶという立場を象徴しているのが自民党や公明党などとの関係です。十一月二十五日付のスクンティアには、自民党と公明党のメッセージが掲載されました。自民党は両党間の友好関係の確認を、公明党は「『社会主義ルーマニアが緩和、平和、世界のすべての国々との協力の利益のためにその解決に積極的に貢献しなかったような重要な問題はないと断言できる」というニコラエ・チャウシェスク大統領の評価に、私たちはもっとも高い称賛の念をいだくものです」とチャウシェスクへの称賛を強調していました。
 「社会主義の防衛」と国際会議
 大会では「社会主義の防衛、擁護」が強調される一方、国際会議の開催が提唱されました。国際会議については、内容を一般的なものとしてぼかしたまま、緒方代表との会見でチャウシェスク書記長から「きわめて重要で緊急」な問題として宮本議長の意見がもとめられました。
 その後、緒方代表がインド共産党(マルクス主義)を訪問してあきらかになったことは、ルーマニア共産党がすでに八月の時点で、一部の諸党に「社会主義の防衛」を目的とする「国際会議」開催の意向を伝えていたという事実です。ちょうど、その八月にブカレストを訪問中であった金子書記局長ら日本共産党代表団には、このことはまったく知らされていませんでした。反対が予想された日本共産党には伝えなかったという、二心的な態度をとっていたのです。

  「社会主義の防衛」国際会議で厳しい警告

 十二月六日、宮本議長はルーマニアのブラド駐日大使をよんで、ルーマニア共産党の提案する「社会主義の防衛」国際会議は社会進歩と科学的社会主義の大義にも反するので反対である、と日本共産党の立場を明確にのべたルーマニア共産党中央委員会への書簡を手渡しました。
 書簡では、「社会主義の防衛」という問題について、それが天安門事件の支持とポーランドへのワルシャワ条約機構の「統一した行動」提起にかかわることと指摘し、「わが党は、『社会主義の防衛』というあなた方の党の見地には不同意であり、これを目的や方向とした国際会議は有害であると考えるものです」ときっぱりと反対の立場をあきらかにしました。
 それだけでなく、つぎのように重大な疑問の余地のない警告を発していました。

 「私たちは、それぞれの国の政権や体制は社会主義か資本主義かにかかわらず、その国の人民が選択するものであり、従来の政権が社会主義を名乗ろうが、人民の支持を失えば下野するのは当然と考えるものです。それは、人民こそ社会発展の原動力であり、その国の人民の合意にもとづいて社会を合法則的に発展させていくのが、史的唯物論と科学的社会主義の原則的立場だと考えているからです。『社会主義の防衛」の名で武力でもって人民の信頼を失った権力を維持しようとしたり、『社会主義の防衛』の名で外部から介入するなどということは、社会進歩にも、科学的社会主義の大義にも反するもので、とうてい許されるべきではありません」(「赤旗」十二月十一日付で公表)

 翌十二月七日、第七回中央委員会総会の冒頭発言のなかで宮本議長は、チェコスロバキア侵略にともに反対する党、自主的な党として、「核兵器の廃絶とか、民族自決権の尊重、各党への内部干渉はやるべきではない、あるいは新国際経済秩序の創設という世界の公理にもとづく共通の課題での共同の方向を主張した」共同の声明や宣言をだしたことを指摘しつつ、「いままではどうであろうと、社会主義の大義のためにはきっぱりすべきだと考え、以上のべた態度をとりました」とルーマニア共産党にたいする不同意と批判、きびしい警告をのべた書簡の内容をあきらかにしました。

  ティミショアラ事件で真相公表せよの電報

 ティミショアラ事件が世界で大きく報道された翌日の十二月十九日、日本共産党は事件を重大視してルーマニア共産党にたいし電報をうち、「ルーマニア当局からはなんの発表もなされていない。われわれは、正確な報道と評価をする必要があるので、あなたがたが至急、積極的に真実を公表すること」を要求しました。

  人民弾圧糾弾の声明

 チャウシェスク政権の人民への武力弾圧が明白になり、全国と首都に民主化をもとめるデモがひろがった二十二日午後、日本共産党中央委員会は金子書記局長の記者会見で、「ルーマニアにおける野蛮な人民弾圧を糾弾する」声明を発表しました。声明は「社会主義的民主主義をふみにじるルーマニア共産党とルーマニア政府にたいし厳重に抗議し、ただちに人民への武力弾圧を中止するようつよく「要求」しました。
 弾圧を正当化したチャウシェスクのテレビ演説については「社会主義的反省と無縁のものであり、蛮行の合理化にすぎない」ことを解明し、日本共産党の「警告を無視し……国際世論の抗議も無視し武力弾圧をつづけることは、大局的に科学的社会主義のじゅうりんであり、わが党は断固として糾弾する」と結んでいます。

  ルーマニア人民勝利歓迎の談話

 そして同じ二十二日の夜、チャウシェスク政権の崩壊について不破委員長が談話を発表し、「ルーマニアの主権者であるルーマニア人民の勝利であり、わが党は心から歓迎する」とともに、「社会主義的民主主義の立場に反する重大な悪政への人民の怒りと力を示すものであり、自由と民主主義を求める人民を武力で押さえつけようとする政権が倒壊するのは、歴史の必然である」と指摘しました。同時に、ルーマニア人民にたいし「外部からのいかなる干渉、介入も排して、みずからの道を自主的、民主的に切り開いていくことが強く求められている」との期待を表明しました。
 日本共産党の中央委員会声明と不破委員長談話は、ただちにルーマニアに伝えられ、ルーマニア国営テレビ・ラジオで「自由と民主主義を求めるわれわれのたたかいを励ますものだ」と全国にくりかえし紹介されました。

  流血と暴力からの一日も早い解放を願う

 ルーマニア人民の重要な前進、新政権の樹立と民主主義の回復を歓迎しつつも、日本共産党は民主主義の確立と発展をねがう立場から二十六日、突然のチャウシェスク夫妻の処刑についての発表にたいし、「意外の感を禁じえない」「残念な思いが残る」との立場を表明しました。
 緒方国際部長の談話で、「個人的復しゅう」の禁止や「チャウシェスクらの犯罪」を「裁判所で厳格に処罰する」とのルーマニア救国戦線評議会の発表を指摘し、「チャウシェスクの息子ニクを含む被逮捕者についても、民主的、文明的な取り扱いがされることを希望する。一日も早く、ルーマニアが暴力と流血から解放されることを願う」とよびかけました。

(「赤旗」一九八九年十二月二十八日付)