日本共産党資料館

「『日の丸・君が代』をどうとらえていますか」
――アンケートへの日本共産党の回答(1)

(『しんぶん赤旗』1999年2月16日)

 朝日新聞社発行の月刊誌『論座』は、現在発売中の三月号で、「『日の丸・君が代』大研究」を特集し、各政党、新聞社などへのアンケート「『日の丸・君が代』をどうとらえていますか」を掲載しています。『論座』編集部からの質問は、(1)「日の丸・君が代」をどうとらえているか(2)外交(対外活動)の際などの扱いをどうしているか(3)学校行事などでの扱いをどうすべきか――の三項目です。質問項目と、これにたいする日本共産党の回答の全文はつぎのとおりです。


質問

 (1)「日の丸・君が代」をどのようにとらえていますか(国旗、国歌として認識している、認識していない、特に定めていない、本社玄関前に掲揚している、入社式での扱いなど)。

 (2)アジアの諸外国、ことに中国と南北朝鮮には「日の丸・君が代」が「アジア侵略の象徴」としてとらえられ、それが強い反発の理由の一つになっています。外交の際、オリンピック報道などの扱いはどのようにされていますか。

 (3)卒業式や入学式など、学校では「日の丸・君が代」の扱いがしばしば問題になります。こうした現状をどうとらえ、どうあればよいと考えますか。

日本共産党の回答

 (1)「君が代」「日の丸」を国歌・国旗として扱うことには反対です。

 第一に「君が代」は、一八八〇年に海軍省の依頼で作曲されたのが始まりで、その後、小学校の儀式での斉唱を義務づけたこと(一九〇〇年)から、戦前、国歌的な扱いをうけました。内容は、天皇の日本統治をたたえる意味で使われてきた歌であり、「国民主権」を定めた現憲法とは相いれないものです。

 「日の丸」は、もっと古い歴史をもっていますが、国旗としては一八七〇年、太政官布告で陸海軍がかかげる国旗として定めたのが最初です。太平洋戦争中、侵略戦争の旗印となってきたことから、国民のなかに拒絶反応をもつ部分が大きくあり、現在でも国民的な合意があるとはいえません。外国でも、日本と同様、第二次世界大戦の侵略国であったドイツとイタリアでは、大戦当時と同じ旗を国旗としていません。

 第二に、さらに重大なことは、「君が代」「日の丸」が、何の法的根拠もなしに、「社会的慣習」を理由に、一方的に国歌・国旗として扱われていることです。これは、世界でも異常なことで、サミット参加国をみても、成文憲法をもたないイギリスは例外ですが、他のどの国も、憲法や法律で根拠を定めています。

 国歌・国旗の問題を民主的な軌道にのせて解決するためには、国民的な合意のないまま、政府が一方的に上から社会に押しつけるという現状を打開し、法律によってその根拠を定める措置をとることが、最小限必要なことです。そのさい、ただ国会の多数決にゆだねるということではなく、この問題についての国民的な合意を求めての、十分な国民的な討議が保障されなければなりません。

 そして、法的根拠を定めるということは、国民の意思が変わった場合、民主的に改定する道も開くことにもなり、国民主権の原則にふさわしいものだと考えます。

 (2)党の対外活動としては、(1)の趣旨にもとづいて、「君が代」「日の丸」を国歌・国旗として扱う態度はとっていません。

 (3)学校行事などで、「日の丸」「君が代」の使用を強制することはやめるべきです。法的根拠が存在しない今日、そういう強制の不当性は明白ですが、仮に法制化が行われたのちでも、これは、国が公的な場で「国と国民の象徴」として公式に用いるということであって、教育の場にも、また国民一人ひとりにも強制すべき事柄ではありません。私たちの調査したところでは、国歌の斉唱や国旗の掲揚を教育の現場に強制している事例は、現在の世界では、きわめて例外的な一部の国にしかありませんでした。


 日本共産党以外の各党の回答(要旨)は次のとおりです。

各党の回答

自民党

 「国民は、自己の国旗・国歌に誇りを持ち、なにびとといえども毀損することは許されないというのが国際通念です」「『日の丸』が国旗であり、『君が代』が国歌であることは、歴史的な経緯からみても、法制的な根拠からみても疑問の余地はありません」

 「教育現場においては、混乱がみられますが、学習指導要領には、『入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする』と明記されており、今後いっそうの定着をはかることが日本の国を愛することであり、このことが国際社会の中で、世界に貢献する国際性豊かな真の日本人を育てることなのです」

民主党

 「『国旗』『国歌』として、多くの国民の間に定着し、また、諸外国からも認められていると考えます」

 「もっとも、『日の丸』『君が代』には、一部に拒否感があることも事実です。国旗や国歌への敬愛は、自国を愛し、他国を尊重するという自然な感情から醸成されるものであり、これを強制できるものではありません。したがって、歴史に対する謙虚な認識と国旗・国歌に対する正しい理解を育んでいくことによって、粘り強く解決を図る姿勢が重要です」

 「国を愛する自然な感情の発露として、国旗・国歌に対する正しい理解を育む教育を実践するのは当然のことですが、その運用には十分な配慮が必要であると考えます」

公明党

 「『日の丸』は使用されてきた歴史的経緯、また形態のうえから検討して、日本の国旗としてふさわしいものと考えます。また、『君が代』についても、国民の間に広く定着しており、国歌として位置づけられてよいと考えます」

 「ただ、これらについては、過去における軍国主義国家のイメージが強烈に焼きついている人たちもあり、国旗・国歌として認めたくないという感情を抱いていることも承知しています」

 「『日の丸』『君が代』が存在したから軍国主義国家への道を歩まされたのではなく、むしろ軍国主義者に利用されたものというべきです」

 「教育現場において、日本の国旗や国歌に誇りを持ち、どのような歴史のなかで作られたのかを考える意味からも、各校同様に取り上げることが重要であると考えます」

自由党

 「『日の丸・君が代』は当然、日本の国旗・日本の国歌として認識しており、『日の丸』は自由党本部玄関および党首室に掲揚しております」

 「日本国民として、自国の歴史・文化・伝統とともに、他の国や民族の歴史・文化に敬意を払うことは当然であります。その観点からも、わが国の象徴である国旗・国歌について教育現場で指導することは当たり前であると考えます」

社民党

 「党としては、『日の丸』を国旗として、『君が代』を国歌として認識しておりません」「アジア諸国の侵略のシンボルであったことや、そもそも『日の丸』『君が代』が国旗、国歌として法律上定められているわけではないからです」

 「どう認識するかは、国民一人ひとりの判断にまかせるべきことです」「アジア侵略の象徴として、アジア諸国、とりわけ中国、朝鮮半島の国々などが強い反発を示していることを、私たちは真摯に受け止めなければならないと考えています」

 「『日の丸』『君が代』が法制化されていないにもかかわらず、文部省が入学式、卒業式での『日の丸』掲揚と国歌斉唱を義務化してきたことは大きな問題であると考えます」


国民主権の憲法下の国歌・国旗のあり方

(解説)

 日本共産党は、「君が代」「日の丸」を国歌・国旗として扱うこと、学校行事などでの使用を強制することに一貫して反対しています。今回の回答は、この立場をあらためて強調するとともに、「国民主権の原則に立つ憲法のもとで、国歌・国旗はどうあるべきか」という根本問題にまで踏みこんだものです。

 回答は、「君が代」「日の丸」を国歌・国旗として扱うことに反対する理由として二点を指摘しています。

国歌・国旗にふさわしいか

 まず第一は、いわば“中身”の問題です。「君が代」は、回答がのべるような経過をたどって「国歌的扱い」を受けてきましたが、戦前の政府自身、「『天皇陛下のお治めになる此の御代は、千年も万年も、いや、いつまでもいつまでも続いてお栄えになるように』といふ意味」(『尋常小学校修身書』)の歌だとしてきたものであり、現憲法の「国民主権」原則と相いれないことは明白です。

 「日の丸」は、その歴史をさかのぼれば西暦七〇一年の「大宝律令」の時代にまでいきつくことにもみられるように、もっぱら天皇の専制支配をたたえる目的で作られた「君が代」とは性格を異にするものです。しかし「日の丸」は、「太平洋戦争中、侵略戦争の旗印となってきた」ことへの拒絶反応もあり、戦後もひきつづいて「国旗」として扱うことで国民的合意が得られていないものです。

 これにくらべて、第二次世界大戦で同じ侵略国だったドイツ、イタリアのとった措置は注目すべきです。ドイツはナチスのシンボル=カギ十字を配したものを、イタリアはサルディニア王室を象徴する文様をあしらったものを国旗としていましたが、戦後、両国ともこれを公式に廃止し、現在ではそれぞれ憲法で、「連邦国旗は黒=赤=金色である」(ドイツ)、「共和国の国旗はイタリア三色旗…である」(イタリア)と定めています。侵略戦争への真摯(しんし)な反省もないまま、その旗印を今も「国旗」として国民に押しつけている日本と大いに違うことは明らかです。