精神科病院立て替えにかかわる陳情対応の誤りについて
──2000年5月8日 日本共産党国会対策委員長 穀田恵二
「精神病院が『迷惑施設』」との文言がもりこまれた「請願」の厚生省交渉に、日本共産党の平賀高成衆院議員の秘書が同行するという問題がおこりました。平賀議員は、「精神科病院を『迷惑施設』とすることは日本共産党の立場と相いれません。そうした陳情に私の秘書が同行したことは誤りでした。心からおわびします」と、謝罪の会見をおこないました。また、精神病に苦しむ患者団体のみなさんや、治療にあたっている病院関係者のみなさんに、直接お会いして謝罪しました。
この問題については、「ひどい誤りだ」「信じられない誤りだ」とする、きびしい批判が私たちによせられました。当然の声として、私たちは厳粛にうけとめるものです。
日本共産党は、障害者の方々が主権者として人間らしくその能力を最大限に発揮できる社会をめざして、さまざまな場でその実現のために努力してきたところです。その党の一員がなぜこのような誤りをおかしたのか、どこに問題があったのか、日本共産党国会対策委員会として関係者の調査をすすめてきました。以下事実経過と誤りの原因、私たちのとった措置について明らかにするものです。一、事実経過について 静岡市内の精神病院建て替えにかかわる「請願書」は、静岡市の住民団体から日本共産党の地元県議を通じて交渉の一週間前(四月二十日)に、平賀議員室に送られてきていました。
これは、国会に提出する「請願」とはちがい、各省庁にたいする要請・陳情といった性格のもので、議員には、交渉の窓口をひらいたり、省庁側に紹介することが求められていました。
(1)平賀議員秘書は、地元県議との事前のやりとりで、要請の趣旨が「病院建設をめぐる日照の問題で、話し合いができるよう厚生省に指導をお願いする」ものと思い込み、「請願書」の「趣旨」だけを読んで、問題の文章をふくむ「理由」には十分目を通さないままでした。そのため、「理由」のなかに、「当該病院は精神科であるため、地域にとっていわば『迷惑施設』であり………地域福祉・住民福祉の向上に全く貢献しない施設である」という文言がもりこまれていることを見過ごしてしまいました。
(2)平賀議員は、交渉当日(27日)、地元陳情者と三十分間ほど面談しましたが、陳情者はもっぱら図面をひらいて病院の日影問題について説明し、議員はこれを聞くことに終始しました。結局、「請願書」の内容について具体的な検討、確認をしないまま、秘書を厚生省交渉に同行させました。
(3)秘書は、交渉の場で厚生省から指摘されてはじめて請願理由のなかに「迷惑施設」うんぬんの文言があることにきづき、「日本共産党は精神病院は必要であり、地域住民との共生をめざす立場であり、請願理由のその点は党の考え方と全く違う」こと、また「今日の請願の中心は、日影問題で住民と病院側が話し合いできるようにということだ」と厚生省にたいしてのべました。しかしその場で「請願書」そのものについて、住民団体代表に「撤回」や「訂正」を求めることはしませんでした。
(4)その後、平賀議員と地元の党県議、市議は、住民団体代表と直接会い、今回の問題にたいする党の見解を説明し、話し合いました。
住民団体の側では、この問題が報道されたあとで、「請願書」の内容に誤りがあったとして、厚生省にたいして、ファクスですでに撤回の意思表示をしていました。平賀議員との話し合いの席で住民団体代表は、“日本共産党に迷惑をかけました。「請願書」については、近く厚生省におもむいて正式に撤回するつもりです”とのべました。
二、なぜ、こうした誤りをおかしたのか
今回の誤りは、平賀議員と秘書が、「請願書」をよく読んで吟味しておれば防げた誤りでした。それを読まなかったことは、弁解の余地のない、初歩的で、かつあってはならない重大な誤りです。そこにはきわめて安易で無責任な姿勢があったことはあきらかです。
なぜ「請願書」によく目を通さなかったかということの背景には、個々の陳情問題については地元の住民団体の要請だということで、国会議員はそれに協力するのが当たり前との思い込みがありました。また党の県議や市議が県・市交渉などもしている問題だから大丈夫だろうとの思い込みもありました。地元の陳情や要請なら、十分に吟味しないで取り扱うというあしき傾向が議員団の一部にうまれていたという点で、きびしい反省がもとめられる問題だと考えます。
三、日本共産党としてとった措置
精神科病院を「迷惑施設」などというのは、患者や家族にたいする偏見と差別にたった侮辱的態度であり、とうてい許されるものではありません。偏見と差別とたたかいながら、精神疾患を克服するために苦闘されているみなさんに、冷水をあびせる重大な誤りです。あらためて深くおわびを申し上げるものです。
日本共産党は、「国民各層にわたる社会的貧困と失業、病気や障害、高齢などによる生活の不安と苦しみを解決し、健康で文化的な生活をいとなむことができる社会保障制度の総合的な充実と確立のためにたたかう」ことを綱領でも明記しています。今回の誤りは、日本共産党のこの基本的立場やこれまで取り組んできた方向に反するものです。
この問題で党中央に寄せられた意見のなかに、ある精神科医からの痛切な意見がありました。この医師は、若いとき、わが党の国会議員団の一員でもあった故津川武一医師が活動していた青森県の弘前健生病院に実習に行ったとのことで、実習当時の経験を思いおこし、また健生病院が精神科専門の病院をつくって努力している状況にも触れながら、そうした伝統をもっている政党がなぜこのような社会正義に欠けた誤りを犯したのかと訴える痛烈な抗議の意見でした。この医師の指摘のとおり、今回の誤りは、先輩たちが築きあげ、多くの医療関係者とともに発展させてきた民主的立場に、根本からそむくものです。
党常任幹部会は、この立場から、党規約第六十六条にもとづいて、平賀議員にたいして警告の処分をおこない、秘書にたいして訓戒の処分をおこないました。
今回の誤りの教訓を深め、全議員・秘書に徹底するとともに、二度と同じ誤りをくりかえさないために全力をつくすことを表明するものです。 (2000年5月9日「しんぶん赤旗」)