この討論欄は、第23回党大会に向けた、綱領改定案にかかわる問題を論じるコーナーです。
2003年6月10日「朝日新聞朝刊」に、綱領改定に関する記事が載っていますので紹介します。不破志位指導部のベクトルはほぼ定まったものがありますが、私たち一般党員が目にする改定案がどんなものになるかはまだわかりません。おそらくは、じゅうぶんな討論期間は設けられないでしょうから、できるだけ早く、できるだけたくさんの情報を寄せ合い、討論を進めたいと思います。この記事を以下に紹介します。討論のたたき台にでもなれば幸いです。
柔軟「不破路線」の総決算
共産党綱領が42年ぶりに大幅改定されそうだ。21日の第7回中央委員会総会で改定案を示し、11月の党大会で正式決定する方針だ。今回の改定は次の総選挙で引退する不破哲三議長が90年代半ばから進めてきた柔軟路線の総決算とされ、宮本顕治元議長が主導した現在の綱領に、その路線をどこまで反映させられるかが最大の焦点となる。
活動家の離反、不安視も
綱領は過去4回、改定されているが、いずれも「一部改定」とされてきた。市田忠義書記局長は9日の記者会見で「綱領の基本路線の正しさに確信を持っていることに変わりはない」と、改定は表現にとどまるとの認識を示した。
だが、党内では「一つや二つの言葉の見直しではなく、全面的な見直しになる」(幹部)との見方がもっばら。97年の宮本氏引退以降、不破─志位体制が次々と柔軟路線を打ち出してきたことが背景にある。
98年8月、不破氏は野党連合による「よりまし政権」構想を発表、日米安保条約の廃棄要求を一時凍結する考えを表明した。9月には「天皇制打倒は戦前の方針で、今は持っていない」と天皇制を事実上、容認した。00年11月の党大会では党規約から「社会主義」「革命」「前衛政党」などの言葉を削除し、自衛隊の活用を認める大会決議を採択した。
ただ、党規約から消えた「社会主義」「革命」といった言葉が今回、綱領からも消えるかというと、単純ではない。同党にとって「社会主義」「共産主義」の削除は、党名変更論議に直結しかねず、抵抗感が強い。「IT革命や技術革命など革命という言葉は国民に定着している」。党内にはまだそんな声が多い。
「日米安保条約の廃棄」「自衛隊の解散を要求する」という規定も焦点の一つだ。有事関連3法が成立した6日、志位氏は「日本への急迫不正な侵害には、あるものを活用する」と、自衛隊の活動を認める考えを改めて示した。同党が綱領改定でも安保や自衛隊について踏み込めば、現実路線はさらに明確になる。
「アメリカ帝国主義」や「日本独占資本」といった言葉を使う党幹部も減った。「今回の改定での検討課題(幹部)との指摘もあり、不破氏も著書で「大企業の利潤追求が経済を動かす最大の原動力となるしくみはなくならない」。この点も変更の可能性がある。
だが、柔軟路線への不満もある。共産党は98年の参院選比例区で過去最高の820万票を獲得したが、01年には430万票に半減。今春の統一地方選でも退潮傾向が続いた。綱領改定で柔軟路線が鮮明になれば、党を支えてきた中核的な活動家が離反しかねず、党勢拡大でプラスに働くかマイナスか、不透明だ。
【囲み記事】
一橋大学教授(政治学) 加藤哲郎氏
生き残りに変身必要
61年綱領は、資本主義は全般的危機にあり、世界の3分の1は社会主義国で、日本も合流するという前提に立っていた。ところが、ソ連が崩壊し、中国は市場開放して資本主義化している。綱領が想定していた世界の枠組みが崩れてしまった。
綱領は、現実に合わせた手直しで、つぎはぎだらけの文章だ。「マルクス・レーニン主義」や「プロレタリア独裁」は消えたし、社会主義の柱だった「国有化」は削除され、「社会化」という抽象的な表現になった。
必要なのは、冷戦崩壊後の世界を見る新しい理論的な枠組みだ。しかし、共産党は「現綱領は正しい」と言い続けてきた以上、無理だろう。イタリア共産党が左翼民主党に変えたように、党名を変えて社会民主主義政党に変身するしか生き残りの道はないと思う。