この討論欄は、第23回党大会に向けた、綱領改定案にかかわる問題を論じるコーナーです。
共産党の公式文書を一見しただけで、違和感を覚える人が多いと思う。独特の生硬な用語が目につくからである。専門用語、学術用語かもしれないが、業界用語、仲間言葉と言ってもよいだろう。仲間内だけならよいが、一般国民に本当に読んでもらいたいのなら、かなり工夫を要する。
新綱領案でその工夫はある程度実現していると思う。新綱領案と現綱領との用語出現数を比べてみると、次表のように増減している。増えたのは一般新聞でよく見かける用語であり、減ったのは『赤旗』に多い用語であることは、すぐ分かる。不破提案報告に言う「表現をあらためる」方針に沿ったものだろう。
【新綱領案で増えた用語】 | 【新綱領案で減った用語】 | ||
増数 | 増数 | 減数 | 減数 |
経済 23 | 基本 5 | 主義 -75 | 生活 -14 |
国民 23 | 生産 5 | 帝国 -52 | 世界 -13 |
社会 23 | 企て 5 | 党 -47 | 平和 -13 |
秩序 11 | 人権 5 | 人民 -37 | 農民 -12 |
企業 11 | 地位 5 | 独占 -33 | 勢力 -12 |
世紀 10 | 探究 5 | 民主 -32 | 勤労 -11 |
戦争 9 | 重大 5 | 民族 -32 | 政策 -11 |
分野 8 | 代表 5 | 支配 -28 | ソ連 -11 |
国際 8 | 抑圧 5 | アメリカ-28 | 運動 -10 |
改革 8 | 横暴 5 | 資本 -27 | 復活 -10 |
政治 8 | 解決 5 | 革命 -25 | 覇権 -9 |
問題 6 | 手段 5 | 要求 -23 | 解放 -9 |
発展 6 | ルール 4 | 反対 -22 | 階級 -9 |
政党 6 | 現状 4 | たたかう-21 | 権利 -9 |
変革 6 | 財界 4 | 労働 -21 | 収奪 -9 |
人間 6 | 成長 4 | 反動 -20 | 軍国 -9 |
地方 5 | 国連 4 | 日本 -17 | 賃金 -9 |
このように多少改善が見られるとはいえ、新綱領案の用語を多い順に並べて見ると、次のようになる。
主義 140 | 発展 29 | 生活 17 |
社会 96 | 政治 27 | 独占 16 |
日本 90 | 戦争 27 | 共産党 16 |
国民 57 | 支配 27 | 独立 16 |
世界 56 | 企業 25 | 世紀 15 |
民主 51 | 国際 22 | 侵略 15 |
経済 50 | 軍事 21 | 秩序 14 |
アメリカ 42 | 政府 18 | 制度 14 |
資本 38 | アジア 17 | 帝国 13 |
平和 34 | 党 17 | 従属 13 |
やはりまだ赤旗調が濃い。一般に用いられる「民主」「平和」「企業」といった用語でも、共産党独特のニュアンスがつきまとうことを、読者はすぐ感じとってしまう。赤旗用語だけで複雑な現代を描くのは限界があるだろう。
しかし私は、古い言葉を無くせと言っているのではない。古典から出た言葉にはほぼ確立した語義がある。共産党の綱領論争も長い歴史がある。焦点になった言葉には、それぞれ重みがある。言葉を残すことと、その言葉が意味する概念や事象を評価することとは別問題である。伝統的な言葉はしっかり残した上で、もし批判があるなら、その言葉に真正面から立ち向かうべきであろう。
先の投稿で述べたように、「計画経済」を「(経済の)計画性」と言い換えたり、「階級」が現代において如何に存在するのかという肝心な点には触れずに、「労働者階級」という用語をそっと仕舞い込むなど、姑息なやり方には賛成できない。「賃金」をはじめ「組合(労働組合/協同組合)」「大衆」「祖国」「収奪」などが、説明も無く消滅したのも、割り切れない。
卑近な例で恐縮だが、いま「阪神タイガースの歌」が全国にこだましている。戦前の作詞作曲だが、ファンは違和感なく歌っている。いまさら「♪六甲颪」を「六甲の山風」に、「♪蒼天翔ける」を「青空かける」などと言い換えないほうがよい。大事なのは“猛虎酒場”に出掛けて、ファンと一緒に甲子園言葉、関西弁で熱くタイガースを語ることだろう。
現代の言葉で現代を語れ。新しい言葉と伝統的な言葉を織り成して、しかも「科学的社会主義」の筋を違えずに、『現代の共産党宣言』を雄渾に書いてほしい。難しい注文だが、だれが書くのか。失礼ながら、老議長の内向きな案文に任せずに、文章力があって視野の広い若い人が、シャープでフレッシュな後世に残る名文を書くことを期待したい。
最後に、新綱領案には無いが、一般国民の日常語で、しかも今の政治、経済、社会を語るに欠かせない言葉百選を掲げておく。一般新聞の最近の見出しから、私の好みで選んで、Google検索でインターネット上の使用状況を調べたものである。新綱領案第二章は『現在の日本社会の特質』である。これらのキーワード抜きで、果たしてそれが多角的に描けているのだろうか。
<注>「*印」は現綱領にあって新綱領案で消えた言葉。なお、ここではあえて「賃金」を採らず「給与」を挙げたが、古典を『給与、価格及び利潤』と改訳せよと主張しているわけではない。
商品* 20,700,000 | インターネット362,000 |
価格* 11,900,000 | 輸出* 341,000 |
販売 7,940,000 | 景気 325,000 |
通信 7,010,000 | 北朝鮮 311,000 |
旅行 5,130,000 | NPO 302,000 |
会社 4,800,000 | デジタル 288,000 |
情報 4,670,000 | リストラ 283,000 |
学校 4,210,000 | サラーマン 265,000 |
技術* 3,700,000 | 金利 260,000 |
製品* 3,070,000 | 廃棄物 254,000 |
パソコン 2,830,000 | 遺伝子 253,000 |
家庭 2,480,000 | 治安 234,000 |
ビジネス 2,400,000 | バブル 228,000 |
需要 1,870,000 | 地域社会 170,000 |
住宅* 1,650,000 | 起業 169,000 |
医療* 1,620,000 | 負債 161,000 |
IT 1,620,000 | 発電 158,000 |
自動車 1,490,000 | 少子 152,000 |
道路 1,480,000 | 構造改革 146,000 |
産業 1,430,000 | 拉致 138,000 |
日本人 1,420,000 | ハイテク 138,000 |
消費税 1,420,000 | 高齢* 138,000 |
投資 1,420,000 | 不良債権 137,000 |
少年 1,350,000 | 無農薬 126,000 |
合併 1,280,000 | デフレ 123,000 |
輸入* 954,000 | 燃料電池 121,000 |
介護* 922,000 | 電子政府 119,000 |
ドル 803,000 | 物価 113,000 |
流通 765,000 | 郵政 107,000 |
犯罪 753,000 | 国債 105,000 |
暮らし 749,000 | 麻薬 101,000 |
給与 741,000 | エイズ 101,000 |
育児 723,000 | 規制緩和 96,500 |
派遣 700,000 | セクハラ 92,200 |
ボランティア 672,000 | カルト 90,400 |
証券 611,000 | フリーター 83,000 |
株式 542,000 | 知的財産 81,100 |
マスコミ* 535,000 | 民営化 80,900 |
所得 504,000 | 野党 76,200 |
外国人 499,000 | 失業率 75,600 |
業績* 460,000 | 公的資金 59,900 |
ローン 458,000 | ホームレス 58,600 |
防衛 455,000 | 地価 56,000 |
商店 438,000 | 非行 53,200 |
障害者 424,000 | 支持率 52,500 |
ロボット 410,000 | 過労 51,200 |
税金* 399,000 | 水資源 47,200 |
温暖化 373,000 | 住民投票 42,300 |
年金* 373,000 | 市民運動 37,900 |
融資 367,000 | 内部告発 22,900 |