この討論欄は、第23回党大会に向けた、綱領改定案にかかわる問題を論じるコーナーです。
1.現綱領と改定案との根本的相違
日本共産党の綱領改定案(6月25日『しんぶん赤旗』)に対する批判を、今後数回にわたって投稿する。
現綱領と今回の改定案との関係について、不破議長は、「民主主義革命を実現し、社会主義・共産主義をめざすという基本路線は変わっていない」と語り(『朝日新聞』6月28日)、五十嵐仁氏も、「全体的に基本路線における大きな変更はないという印象だ」と語っている(下記の氏のホームページ)。
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/iga2/kouryou.htm
多くの人がこう受け止めているようだが、これは正しくない。改定案は、第1に、現綱領では民主主義革命前の統一戦線政府の樹立といわれていたものを民主主義革命と言い換えた点で、第2に、現綱領では密接に関連するものとして論じられていた民主主義革命と社会主義革命とを切断した点で、現綱領とは根本的に異なっている。これらの点をどう評価するかを検討する前に、まず、この2点で現綱領と改定案とが根本的に相違しているということを、事実として確認しておく必要がある。
第1点(民主主義革命の言い換え)について。
現綱領は、「現在、日本の当面する革命は、アメリカ帝国主義と日本独占資本の支配に反対する新しい民主主義革命、人民の民主主義革命である」と規定するとともに、この革命への接近のプロセスにおいて、「一定の条件があるならば、民主勢力がさしあたって一致できる目標の範囲で、統一戦線政府をつくるためにたたかう」と述べている。党中央委員会のホームページで、この「一定の条件」という言葉に付された「用語解説」によれば、「さしあたって一致できる目標」とは「革新3目標」――「(1)日米軍事同盟と手を切り、真に独立した非核・非同盟・中立の日本をめざす、(2)大資本中心、軍拡優先の政治を打破し、国民のいのちと暮らし、教育をまもる政治を実行する、(3)軍国主義の全面復活・強化、日本型ファシズムの実現に反対し、議会の民主的運営と民主主義を確立する」――を意味し、この目標で一致する勢力によって設立される統一戦線政府を「民主連合政府」と呼び、これを「21世紀の早い時期に」実現することを目指すとしている。そして、現綱領は、この「統一戦線政府」=「民主連合政府」を「革命の政府、革命権力につよめる」必要性を説いている。
このように、現綱領は、「さしあたって一致できる目標の範囲での統一戦線政府」を「革新3目標にもとづく民主連合政府」とし、これを民主主義革命の前段階と位置づけていたのである。
ところが改定案第4章は「民主主義革命と民主連合政府」と題され、「民主連合政府は、労働者、勤労市民、農漁民、中小企業家、知識人、女性、青年、学生など国民諸階層・諸団体の民主連合を基盤として、日本の真の独立の回復と民主主義的変革を実行することによって、日本の新しい進路を開く任務をもった政権である」と規定している。こうして、現綱領で革命以前の統一戦線政府として位置づけられていた民主連合政府が、改定案では革命の政府として説かれることになった。
これは、根本的な変更だと言わなければならない。この点は、すでにネット上で、小田氏(JCP‐Watch掲示板、「新綱領をどう見るか(3)」、6月25日)や加藤哲郎氏(氏のホームページ)によって指摘されているところである(下記参照)。
http://jcpw.site.ne.jp/bbs/bbs24.cgi?id=&md=viw&no=1155&tn=1106
http://member.nifty.ne.jp/katote/JCP03pro.html
第2点(民主主義革命と社会主義革命との切断)について。
改定案は、当面する革命は「異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配(を)打破」する「民主主義革命」であって、これは「資本主義の枠内で可能な民主的改革」であると言い、それは「当面する国民的な苦難を解決し、国民大多数の根本的な利益にこたえる独立・民主・平和の日本に道を開くものである」と説く。そして、「ルールなき資本主義」を「ルールある経済社会」に変える必要性を強調し、「大企業にたいする民主的規制」によって「その横暴な支配をおさえ」、「国民の生活と権利を守るルールづくりを促進するとともに、つりあいのとれた経済の発展をはかる」と主張し、これを通じて「日本国民の活力を生かした政治的・経済的・文化的な新しい発展の道がひらかれる」と述べている。
このように、改定案は、民主主義革命によって日本の「政治的・経済的・文化的な新しい発展の道がひらかれる」と言っているのであるから、この革命によって現在の日本社会の矛盾は解決され、日本国民(勤労人民)は満足すべき状態におかれると主張していることになる。この意味で、改定案は、当面する民主主義革命を自足的な革命だと主張しているわけである。だとすると、――論理的に――それに続いて社会主義革命に進む必要性はないということになる。そこで、改定案は、当面の民主主義革命とそれに続くべき社会主義革命との密接な関連を力説した現綱領における2つの文章を完全に削除してしまった。
まず、現綱領は、当面の革命を、「アメリカ帝国主義と日本独占資本の支配に反対する新しい民主主義革命」だと規定したのにすぐ続いて、次のように述べていた。――この革命は、「当面する国民的な苦難を解決し、国民大多数の根本的な利益をまもる道であり、それをつうじてこそ、労働者階級の歴史的使命である社会主義への道をも確実にきりひらくことができる」と。
いま一つ、現綱領は、民主主義革命を論じた最後に次のように述べていた。――「独占資本主義の段階にあるわが国の民主主義革命は、客観的に、それ自体が社会主義的変革への移行の基礎をきりひらくものとなる。党は、情勢と国民の要求におうじ、国民多数の支持のもとに、この革命を資本主義制度の全体的な廃止をめざす社会主義的変革に発展させるために、努力する」と。
このように、現綱領は、当面する民主主義革命を論じる最初と最後の2箇所で、民主主義革命と社会主義革命との密接な関連を説いているのであるが、改定案は、この2箇所をすべて削除してしまった。こうして、民主主義革命の社会主義革命への移行の必然性は説かれなくなってしまったのである。
しかし、それでも共産党である以上、社会主義革命を主張しないわけにはいかない。そこで、改定案は、第4章「民主主義革命」の後に第5章「社会主義・共産主義の社会をめざして」を置いている。しかし、第4章で説いた「ルールある経済社会」ではなぜ満足できないのか、なぜ次に社会主義・共産主義に進む必要があるのかが論ぜられないままに、唐突に、「日本の社会発展の次の段階では、資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が、課題となる」と言われている。こうして、社会主義革命は民主主義革命の後に、木に竹を接いだような形で提起されているのである。
現綱領は、独占資本主義の段階にある日本社会の矛盾は社会主義革命によってしか解決されないが、アメリカ帝国主義とそれに従属する日本独占資本の支配がその道を妨げているので、まずこれを打破する民主主義革命を遂行し(だがそれ自体は日本社会の矛盾の本格的な解決にはならない)、それをステップとして社会主義革命に進むべきだ、と述べていた。ところが、改定案は、この2つの革命を切断し、民主主義革命で現在の日本社会の矛盾は解決可能だと主張した。この点で、改定案は現綱領とは本質的に異なるのである。
不破氏は、「質問・意見に答える」の中でこの点に触れ、社会の進歩は国民の判断の発展によるという見地をすっきりさせ、民主主義革命から社会主義革命への「連続革命論的な誤解」を取り除いたと言っている。しかしこれは答えになっていない。「国民」(本来は「人民」と言うべきだが)の支持が必要であることは現綱領でも充分留意していることであるが、国民(人民)の支持が必要だということは、党の主張――民主主義革命はそれ自体では自足的な革命でなく、これを社会主義革命に発展させるために努力すべきだという主張――を放棄しなければならない理由とはなりえない。「連続革命論的誤解」云々も問題をそらすものであって、問題の要点は2つの革命の間の時間的間隔の長短ではなく、革命の性格をどう規定するか、民主主義革命が現代日本の矛盾を解決するとみるか否か、である。不破氏は、理由にならない「理由」を持ち出して、当面する民主主義革命と社会主義革命との密接な連関を否定し、両者を切断しようとしているのである。