この討論欄は、第23回党大会に向けた、綱領改定案にかかわる問題を論じるコーナーです。
天皇制問題については終わりにするつもりであったが、言い残しがあったので、再び不破報告を批判する。
1、天皇制廃止は党独自の政策であり当面の課題(民主主義革命の課題)である
綱領を素直に読めば、そのように把握する以外にありえないが、党指導部によって「当面の課題」ではないように扱われてきたので、「当面の課題」でないと考えている党員が多いのも無理はない。democrat氏が指摘している党の実践上の弱点は、まさしくそこに原因がある。
「当面の課題」だと説明されている「民主連合政府」の政策は、綱領上は、実は「当面」ではなく「さしあたって」民主勢力が一致できる課題となっている。
要するに共産党は、天皇制を廃止するという党独自の「当面」の政策と、それを棚上げした民主連合政府の「さしあたって」の政策という二重の政策を持っているのである。
民主連合政府綱領を提案した当時、党指導部は、この二重の政策に対する党内外の疑問や批判に対して党綱領を言葉の上では擁護した。しかし、実践においては、「民主連合政府」の政策を事実上「当面」の政策、党の政策として扱ってきた。その路線を、新日和見主義事件にはじまる第一の右傾化路線と私は考えている。
この路線を「人民的議会主義」と呼ぶ党指導部は、大衆闘争と議会主義の結合という問題について、前者を後者の枠内にとどめる方向で両者の調和を図ってきたのである。
98年の不破暫定政権構想からはじまった第二の右傾化路線は、民主連合政府を「当面」の課題とするとともに、安保棚上げ等の「暫定」政権を目標としている。これも二重の政策だが、それが綱領の政策をさらに後退させる方向にすすめられた点でこれまでと異なっており、不破綱領は、それら党指導部の路線の綱領化にほかならない。
その当然の帰結として、いずれ党指導部は、「暫定政権」の目標を民主連合政府の政策よりも優先することになるだろう。
私が言い残していた点は、現行綱領において、天皇制廃止が当面の課題となっているのは憲法の改正を必要とするものと必要としないものの区別がなされていなかったからだろうという、不破報告の憶測に対する批判である。本来なら、この点をまっさきに批判すべきであった。
もちろん、不破の推測はあたっていない。簡単に党史をおさらいしておく。
党は、戦後すぐに天皇制の打倒を掲げて活動を開始した。そして、アメリカ帝国主義と日本独占資本によって天皇制が残された憲法制定後の党大会でもなお、その闘争の延長で、天皇制廃止を行動綱領にあげていた。つまり、この時点では他の課題と区別されていない。
しかし、7回党大会の宮本報告で、明確に民主主義革命の課題として挙げてはいるものの、行動綱領およびその後の61年綱領の中の行動綱領には入れられず、権力獲得後の課題とされている。
これは、他の課題と同様に当面の課題ではあるが、より困難な課題として他の課題と区別されたことを意味しているのである(日本共産党資料館の資料を参照のこと)。
2、今回の改定はdemocrat氏の力説する実践的転換をもたらすか?
もし仮にdemocrat氏が力説するような実践的転換を図るつもりならば、不破氏みずからそのような説明をしたはずである。指導部にとって極めて好意的かつ好都合なこの理屈を、提案説明のなかで取り上げていないという事実は、彼らの狙いがそこにはないことを明白に示すものだ。
すでに報道されているように、98年の暫定政権構想は既定の路線と化している。これが綱領路線を切り縮める方向に目を向けたものである以上、democrat氏が力説する方向での実践の転換は望めないことは火をみるより明らかだろう。もちろん、それは党指導部をはじめ党全体としての評価であり、democrat氏の実践のような個別の闘争についての評価でないことは言うまでもない。
このように、議員政党ではない共産党が、政府綱領を党の綱領としてかかげることは、党の右傾化を後押しする意味しか持ちえない。もちろん、なんらかの政府綱領を掲げることは無意味ではないが、全党員をしばる綱領としてではなく、国会議員団の期限付きの決議の扱いに留めておくべきなのだ。
いずれにせよ、論争におけるどちらの見解が正しいかは、大会後の実践が明らかにしてくれるだろう。