この討論欄は、第23回党大会に向けた、綱領改定案にかかわる問題を論じるコーナーです。
編集部の意見に反論します。
>サンフランシスコ条約の反動的条項の改廃については、当然、長期的な交渉による改廃ということになるでしょう。それを要求したらとたんに戦争状態に逆戻りというのは一面的であるし、共産党もこれまでの立場もそういうものではありませんでした。
とのことですが、これまでの日本共産党綱領は
>党は、サンフランシスコ平和条約の主権を侵害する諸条項の廃棄をはじめ、日本の真の独立のためにたたかう。
という表現で、一方的な「廃棄」を主張していました。これは「長期的な交渉」という風には読めないと思います。その直後の千島問題の部分は「平和的・外交的」という但し書きがついているのと比較しても、「一方的な破棄宣言」と解釈できます。
またかりに、「長期的な交渉」によるにしても、サンフランシスコ条約には改廃条項はなく、改廃は不可能です。仮に日本政府が改定交渉を申し出ても、締結国に相手にされないでしょう。改廃が不可能であるから、小笠原諸島・琉球諸島の返還もサンフランシスコ条約の改定によらずに二国間で決着したのです。
小笠原諸島・琉球諸島が米国の施政権下にあったときは、日本共産党は「小笠原諸島・琉球諸島の返還にはサンフランシスコ条約の反動的条項の破棄が必要」と主張していましたが、そのような手続きなしに施政権返還は実現されました。この事から考えても、「サンフランシスコ平和条約の主権を侵害する諸条項の廃棄」という要求が、「民族民主革命なしには沖縄・小笠原の返還は不可能」という、事実によって否定された「半占領・従属国」史観から来るものであって、削除されるべきアナクロな要求であることは明らかだと思います。
>6条a項についてですが、これは別個に条約を結びさえすればいつでも日本に外国軍が駐留できることを意味しています。これはいかなる形の軍備ももたないことをうたった憲法9条に違反するものです。主流の憲法解釈においても、日本国の領土内に外国軍が駐留していてもそれは軍備の一種としてみなされます。したがって、違憲の反動的条項を長期的交渉によって改廃を求めるのは当然ではないでしょうか。
この部分ですが、憲法と条約を混同しているのではないでしょうか。
外国軍の駐留を禁じている(と多数派によって解釈されている)日本国憲法は国内法です。日本国憲法9条は、国際法では与えられている自衛権や交戦権を「自発的」に放棄するものです。
国際条約であるサンフランシスコ条約においては、日本政府の主権を制限するような内容がないことは当然です。主権を回復した以上、いかなる国とも条約を結び、外国軍を駐留させる権利も国際法上は保有しています。かしその権利を行使して、実際に外国軍を駐留させることが、国内法である憲法9条に違反するということです。ですから、サンフランシスコ条約6条a項は違憲ではなく改廃の必要もありません。
さらに、仮に日本へのいかなる外国軍の駐留も禁じるような条約(そんな条約がありうるとは考えられませんが)を結ぶとすれば、革命政府の手を縛ることになるだけでしょう。将来、日本に革命政府が樹立された時点で、日本革命を支援してくれる外国政府があるとするならば、その政府に軍隊の派遣を要請する可能性はあります。
仮に日本革命政府が外国(米国など)の侵略の危機にさらされているにもかかわらず、十分な自衛力がないとするならば、外国軍の駐留を求めることは想定できることです。これまでもキューバやアフガニスタンの革命政府が友好国の軍の駐留を求めてきました。
さらに、革命政府が樹立された場合、憲法9条を廃棄することになります。将来廃棄する条項に基づいて、将来の革命政府の手を縛ることは愚かなことです。
領土問題に移ります。
>賠償・無併合という民主主義的講和の基本原則からすれば、事実上スターリンによる千島列島の領土併合を認めたサ条約の問題性は明らかですが、すでに何十年も月日がたち、そこに多くの人々が住み生活しているのですからそのことを何よりも考慮する必要があります。
この主張ははっきり間違いだと考えます。
「賠償・無併合という民主主義的講和の基本原則」とは、どちらの側からみても帝国主義戦争であった第一次世界大戦において、ロシア革命政府が提案したものです。これは、どちらの側から見ても不正義の戦争において、労働者階級人民が自国帝国主義政府への支持と手を切って国際的に連帯するためのものです。
しかし、第二次世界大戦は第一次世界大戦とは性格の異なるものです。日本と米国の戦争はどちらの側からみても不正義の戦争といえるでしょうが、中国の抗日戦争は正義の戦争ですし、ソ連の対日参戦も正義の戦争といえると思います。
ベトナム政府は、米兵を抑留して、米国に対して賠償を求めましたが、これも「賠償・無併合という民主主義的講和の基本原則」に反するとして非難されるのでしょうか。原則は常に適用範囲があって、間違った場合に適用するならば正しい原則も間違ったものとなるのです。
日本帝国主義はロシア革命に敵対して、シベリア出兵を行いましたし、また第二次世界大戦の最中においても、偽「満州国」で関東軍特別演習を行うなど、ソ連に対する侵略・挑発行為を行ってきました。このことから考えて、ソ連が日本にたいして賠償を求めるかあるいは日本の領土を併合することは当然であったといえます。
日本共産党が「自主独立の立場」という名の民族主義的堕落を深めて行く以前は、日本共産党はソ連の千島併合の正当性を認めていました。この立場に立ち戻るべきでしょう。
日本共産党綱領の該当部分は、次のように改定されるべきです。
「党は、日本政府がロシアに対する不当な領土要求を取り下げ、ロシアとの国境の現状を承認して、ロシアとの平和条約を締結することを要求する。党は、日本政府が行っている釣魚台列島(中国台湾省)の不法占拠を中止し、これを中国に返還することを要求する。党は、日本政府が行っている独島に対する不当な領有権主張を止めることを要求する。」