9月12日に放送されたフジテレビの「完全再現!北朝鮮拉致“25年目の真実”」で、拉致問題を調査していた日本共産党の議員秘書であった兵本達吉氏が日本共産党から「拉致問題」の関して査問を受け除名される場面に同党は虚偽であるとしてフジテレビ「訂正放送の請求」をしたとのことである。
共産党の主張は兵本達吉氏を除名した理由は兵本氏が警備公安警察の関係者に就職の斡旋をもとめたことが日本共産党の規律にふれことが真実であり、番組ではそのことはいっさいのべられず、もっぱら「拉致問題」が理由であるとの放送がされており、これではあたかも共産党が拉致問題の解明を妨害したかのような虚偽の報道に終始しているので訂正放送の請求をすると言う訳である。
共産党は「党内にスパイを送り込んだり、党員から情報を獲得しようと卑劣な手段をとる警備公安警察にたいする態度にはとくに注意をはらっており、個人的に接触することが禁止されているのは当然のことである」「警備公安警察は、日本共産党対策を中心任務とする秘密政治警察の核心であり、日本共産党は公安調査庁とともにその廃止を要求しています。こういう警察官の面接を受け、就職斡旋を依頼するなどということは、党員と両立することではありません。」と主張していますから、兵本達吉氏が日本共産党員でありながら「警察のスパイ」として共産党の情報を警察に渡していたとすれば共産党とすればあるまじき行為として除名されてしまうでしょう。共産党が出した「除名通知書」にも警備公安警察に就職斡旋を依頼をしたことが除名の理由であり拉致の「ら」の字も出てきません。
しかし、共産党の主張する「兵本達吉氏は警備公安警察に就職斡旋を依頼をしたスパイ」であったのでしょうか。平成10(1998)年5月18日に兵本達吉氏は東京赤坂の料理屋で警備公安警察官と会食しているというが、その点について兵本氏は「文藝春秋」平成14(2002)年12月号「不破共産党議長を査問せよ」に書いているので引用してみると「私が会ったのは警察官だけではない。その場には内閣官房や外務省の官僚もいた。(中略)私が紹介された仕事は拉致問題を追及する政府のプロジェクトチームへの参加であって、そこには警察庁ばかりでなく各省から担当者が派遣される予定だった。(中略)私から採用の依頼などしていない。働いて欲しいと言ったのは政府当局の方である。文書(除名通知書)からはプロジェクトチームや内閣官房、外務省といった言葉が意図的に消されている。それはことさら警察との関係を強調するためだ。共産党の宿敵である警察との不明瞭な関係を印象づければ、私を除名すことができる」と述べています。
また、「北朝鮮問題と日本共産党の罪」から引用してみると著者である稲山三夫氏は、同書の中で兵本達吉氏に査問と除名について尋ねた時、兵本氏は「私は(共産党を)名誉毀損で訴えます。そもそも私が就職斡旋した事実はありませんから。共産党のいう警備公安警察官も証人として出てもらい、証言してもらいます」「私の除名理由は、警察官と会ったことではありません。だって20時間におよぶ査問では拉致調査のことばかり繰り返し聞かれている訳ですから。ここ(除名通知書)には拉致の”ら”の字も出てこないしょう。都合のいいようにすり替えているだけなんです。裁判では私の査問テープを証拠として出させたいと思います。こんな陰湿なやり方を示す査問テープを国民が聞いたら、みなゾッとしますよ。彼らは廃棄処分にしたと逃げるでしょうがね」と述べていると書いています。
共産党の「兵本達吉氏は警備公安警察に就職斡旋を依頼をしたスパイ」という除名理由が正しいのか、あるいは兵本達吉氏の「警備公安警察官に就職斡旋した事実はない。私が紹介された仕事は拉致問題を追及する政府のプロジェクトチームへの参加」が正しいのかどちらでしょうか。
昭和63(1988)年3月26日に共産党参議院議員橋本敦が秘書であった兵本達吉氏の拉致事件の調査結果から、初めて国会において当時の梶山国家公安委員長から「北朝鮮による拉致の疑いがじゅうぶん濃厚でございます」と日本政府が拉致を認めた答弁を引き出している実績があるのですから、拉致被害者家族としたら、こんな嬉しく心強いことはなく、拉致事件の調査をしてくれた共産党に感謝しても恨むことはないでしょう。しかし、昨年9月17日に金正日が日本人拉致を認めた直後の記者会見で拉致被害者の家族である増元照明さんは「この問題を無視し続けた国会議員の方々、社民党、共産党の方々、我々に言うことがあったら連絡して欲しい」と話していますが、なぜ共産党は拉致被害者の家族の信頼を失ったのでしょうか。
平成9(1997)年3月25日に北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(代表・横田滋さん)が結成されたことにも兵本達吉氏の尽力のたまものだとのことです。拉致被害者家族が北朝鮮に拉致された被害者の写真を掲げて記者会見をした訳ですが、その案を出したのも兵本氏だったという。しかし、共産党参議院議員橋本敦はどういう訳か家族会結成式で挨拶をする予定であったのに出席しなかったとのことである。橋本議員は日本政府が初めて拉致を認めた答弁を引き出している実績があるのですから、多くのマスコミが集まる会見場において、いかに共産党が拉致問題に関して家族の立場に立って奔走しているかを示す絶好の機会であったのに、なぜ家族会結成式に出席しなかったのでしょうか。この会見場において「この家族会を結成にこぎつけたのは共産党です。拉致問題については以前から解決に向けて政府を追及していますが、今後も共産党は解決に向けて全力を尽くして参ります」と挨拶し、そのとおりすれば拉致被害者の家族の信頼を失うことはなかったのではないでしょうか。
橋本議員が家族会結成式に出席しなかった理由について兵本氏は「党中央部からやめろと言われたからです」と回想しています。共産党のHPにその橋本議員の話が掲載されていますが、家族会結成式に出席しなかった理由については述べられておらず「彼(兵本達吉氏)がひとりで調査し彼がひとりで政府を追及してきたかのように吹聴しているのは、とんでもないことです。私の拉致問題での国会質問は、これまでのべてきたような立場から、秘書団の調査や分析も活用しながら、私の弁護士としての経験も生かして、常に私自身の責任で練り上げてやってきたものです」と言っているが、事実は拉致被害者らに尋ねてみればすぐ分かることでしょう。
平成10(1998)年8月27日に兵本達吉氏が除名された後、拉致被害者有本恵子さんの父親の有本明弘氏は平成12(2000)年4月に日比谷公会堂で行われた第2回国民大集会で「共産党議員の秘書である兵本氏は立派な人だが、共産党から除名されてしまった。共産党はおかしいのではないか」と話しており、拉致被害者の家族にとって拉致事件の解明のために奔走していた兵本氏を除名したことで共産党に不信感を持ったとの事です。
共産党が「政党の中で一番最初に拉致に取り組んだのは共産党だ」と言っても拉致被害者の家族らから不信感を持たれているようでは信用できません。共産党は兵本達吉氏を拉致問題調査を理由に除名したと思っている人は多いであろう。それは共産党が自分たちにとって都合の良い部分だけを取り上げ、自己保身だけを考えているにすぎない欺瞞的な体質を持っている政党だからであり、今回の兵本氏の除名を扱った番組でフジテレビに抗議した件でも何ら変化しておらず、共産国による拉致という事実が明らかになれば日本共産党にとって良いことではないのは当然であり、昭和34年から始まる北朝鮮帰国事業を推進し、さらには北朝鮮は地上の楽園として多くの日本人配偶者を送り込んだ犯罪的とも言える行為についてもいまだに何ら責任をとっていないのである。