― アイゴー!! ―
戦時中。もう、60年も前にもなる。
少女は、小さな防空壕に隠れていた。
空襲の合間に顔を出すと、
その間にも、すぐ隣りで、
防空壕や地下壕を掘らされている
朝鮮人たちが、いた。
一人が、疲れ果て、手を休めた。
途端、「何、手ぇー抜きよるかぁ!!」
という罵声とともに、
大日本帝国軍人は、彼女の目の前で、
手にした棒を振り下ろし、
彼を、殴り倒した。
朝鮮人は、
「アイゴー!!アイゴー!!」
と泣き叫び、転げまわった。
私は、「アイゴー」という言葉の
意味を知らない。
「痛いよー!!」ということなのだろう
と思っているが、
本当の意味は、彼女にも、分からない。
そのような事は、
日常茶飯事であった。
日々の暮らしに追われ、
いつの間にか、少女も、
年老いた。
しかし、今でも、
初めて、目の当たりにした、
その情景が目に焼き付いている。
昔の「少女」は、今、
私と茶飲み話をしながら、
ふと、哀しげに微笑んだ。