いま、世界的に北朝鮮が問題になっているのは、大飢餓、大量破壊兵器、核兵器開発、麻薬・武器輸出などであり、とりわけ人民の人権状況、日本では拉致問題がこれに加わってきます。
これらの問題の全てが「北朝鮮政権をどう見るのか」と言うことに尽きます。この点での理解の度合が意見の分かれ道になっているのだと思います。
皆さんもご承知のように、日本と韓国・北朝鮮との歴史的清算はいまだに終わってはおりません。そのことは十分承知しおります。最大の問題点は戦前の償いをやって来なかったことに由来するものと考えています。
戦後のドイツのような努力を私たち日本人と日本社会も(右翼から左翼まで)やってきませんでした。と言うより、「やらなくても済んでしまった歴史的環境」が存在しました(だから、やらなくても良いという右翼的意見には決して組しておりません。それは強力なアメリカの指示によるものでした)。その結果、今日の日韓・日朝関係を歪んだ関係にしているのだと思っています。この辺の事情については、
※太田昌国『「拉致」異論』(太田出版)
などにも詳しく書かれていますが、私は21世紀に向け、真の友好関係を築いていくためにも、従軍慰安婦・強制連行・財産没収・創始改名問題などの課題は、遠回りをしてでも「やるべきことはやっていかなければならない」と思っています。
そして、この問題は韓国・北朝鮮問題に矮小化されるものではなく、中国、東南アジア全般にも当てはまることです。
しかし私は北朝鮮問題については上記の問題点だけではなく、もっと別の、切羽詰った観点から北朝鮮問題を見つめてきました。北朝鮮の人民のおかれている状態、この国の人権について見続けてきたことです。
私は60年代に北朝鮮に帰った在日帰国者・日本人妻(夫)の置かれている悲惨な状況に対し、わずかながらの支援活動をしてきました。その中で、北から日本や韓国に帰ってきた脱北者の支援にも参加し、北朝鮮の惨状がだんだん分かって来ました。
なんと言っても20人近い脱北者や、北朝鮮専門のジャーナリスト・カメラマンからの実際の話を聞き、強制収容所の実体験者からの話を聞くに付け、北朝鮮の実態は私の心の許容範囲を超えた世にも恐ろしい”地獄絵”としてしか映つりませんでした。同じ人間として、どうしても許せない人権侵害が今も進行しているのです。これが私の韓国・朝鮮問題の出発点です。
私自身、北に行ってその事実を調べる勇気も、金も、手立てもありませんので、下記に示すような、通称「北朝鮮本」と言われている書物をこの3~4年読み続け、またいろんな集会に参加するしかありませんでした。
その「北朝鮮本」には左翼からのアプローチなどはほとんどありませんでした。あるのは、右派・右翼といわれる人々の著作や、フリーのジャーナリスト(右派やリベラル派などいろいろ)、それに2・3の人権重視の左派、それに「拉致は疑惑だ」と言い続けてきた的外れな左派たち、その他に日・韓・米の北朝鮮専門家などの著書などです。
特に北朝鮮の実態を知る上では亡命者の証言は大変重要です。その内容の全てが信用できるわけではありませんが、そこからしか実態を究明できないのも歴然とした事実です。とにかく情報が入ってこないのですから。日本の左翼、社民党、共産党、左翼知識人のほとんどの人から切迫した現状が語られたことはありません。
「北朝鮮本」をただ整理もせずに、ひたすら何十冊と読み続け、積もり積もった知識が私の行動のバックボーンになっていきました。以下、私の読んで来た文献のほんの一部を紹介します。
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※宮崎 俊輔『北朝鮮大脱出 地獄からの生還』(新潮OH!文庫)
1960年に日本から北朝鮮へ両親とともに「帰国」した在日の過酷な36年間の生活を記す。現在は日本に住んでいる。
※青山 健煕『北朝鮮という悪魔』(光文社)
1960年に日本から北朝鮮へ「帰国」し、厳しい生活を強いられた。1998年に脱出して現在は日本に住んでいる。
※安 明 哲(アンミョンチョル)『北朝鮮 絶望収容所』(ワニ文庫)
北朝鮮の収容所の警備隊員として、政治犯収容所の過酷な実態を暴く。現在韓国在住。(図解版も出ています)。韓国では出版できず、日本版しかありません。
※姜 哲 煥(カンチョルファン)『平壌の水槽』(ポプラ社)
2000年フランスで出版。在日帰国者の孫で、10代から10年間を過ごした強制収容所での自らの苛酷な体験が語られている。韓国に亡命をし現在朝鮮日報の記者。韓国在住。「北朝鮮に対する援助は根本的な問題の解決にならない、南北統一は北朝鮮の民主化の後でなければ不可能だ」という。
※チャン・キルスとその家族『涙で描いた祖国』(風媒社)石丸次郎氏訳
2002年6月、韓国への亡命を果たした一家による手記。北朝鮮の惨状が描かれた絵が数十枚掲載されている。現在韓国在住。
※ノルベルト・フォラツェン『北朝鮮を知りすぎた医者』(草思社)
ドイツ緊急医師団の一員として1999年7月から北朝鮮で活動した医師による手記。「この国の人たちの大半が冒されている病は、凄まじい恐怖です。残忍きわまりない弾圧によって国民を支配下におこうとするスターリン主義の恐怖政治における恐怖。このために国民は病気になっているのです」。現在は金正日政権打倒のため活動をしている。2003年釜山ユニバーシアード会場前で北朝鮮記者に殴り飛ばされていた人です。現在韓国在住。
※安哲・朴東明
『北朝鮮飢餓ルポ』(小学館文庫)『コッチェビの叫び 秘密カメラが覗いた北朝鮮』(ザ・マサダ)
北朝鮮のヤミ市場をうろつく孤児(コッチェビ)をビデオ撮影した安哲氏と、義兄の朴東明氏の手記。企業幹部が援助食糧として受け取った30万トンのうち5万トンしか労働者に回さなかったことなどを記している。
※アンドリュー・ナチオス『北朝鮮 飢餓の真実』(扶桑社)
1990年代の食糧危機で300万人もの死者が出たと言われる。北朝鮮は飢餓の実態について正確な事実を公表しておらず、モニタリングも絶えず規制された。その中で、
1、1990年から1994年まではソ連・東欧の崩壊により配給量が削減され、東北部への食糧補助が停止された。
2、1995年から1997年までは飢饉がもっとも激しかった。
3、1998年以降は配給制度が完全に機能しなくなり、同時に飢饉も終息へと向かった
という報告をしている。
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これらの著作が私の心を日本共産党から少しずつ離していきました。北朝鮮問題(人権問題)にまともに取り組まない「我が党」の姿が情けなく思えてきたのです。世間ではまだ拉致問題は騒がれていない時期でしたが、日朝の歴史の闇を解明するのではなく、ひたすら避けようとする日本共産党の態度でした。
北朝鮮人民の人権はナチスドイツのそれに匹敵する、すさまじい弾圧の恐怖にさらされています。そして、それは今もづっと続いているのです。
そこに小泉訪朝、平壌宣言という大事件? が起こりました。私はすでに上記のような情報を知っていましたので、大騒ぎとなった「拉致問題」をなんの驚きもなく「あいつ(金正日)なら当然やるだろう」と受け止めました。それと共にこの宣言は頓挫すると直感もしました。