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「北朝鮮問題」討論欄

医療事情

2004/04/28 金 国雄

 当ホームページ(さざ波通信)でも既にご存知と思いますが、高康浩(コ・カンホ)さんから送っていただいた北朝鮮医療事情の報告を当討論 蘭でも関心のある方に是非読んでいただければと転載します。

 また、戻られたなら報告会も予定されているようです。

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今日これから9次朝鮮医療支援に行きます
戻りましたら報告会をしますので多くの方が参加されることを願います

因みに今回は、アメリカ、カナダ、中国、ロシアの同胞と医学交流します
そのときの発表原稿を以下に載せますので興味ある方は目を通してみてく ださい

(医学討論会原稿)

報告のタイトルは
 ~個人レベルでの朝鮮民主主義人民共和国との医療技術交流についての報告~です。

2002年6月から2004年5月迄の約2年間にわたり、高康浩と李美於が中心にな り共和国に暮らす民衆に対し、行ってきた医療支援について、高康浩が報 告します。

本来ならば結核の専門医である李美於が報告すべきなのですが、今回は参 加していませんので私が代わって報告します。

2002年6月、私達は医療支援を目的として訪朝しました。そのきっかけは、 共和国の医療状況が全く判らなかったからです。

国際機関の報告では、共和国では結核が蔓延して危機的な状況にあるとい います。しかし日本に住む我々にはその情報が伝わって来ません。過去、 10万人近くの在日朝鮮人が全人生を賭して祖国の統一事業の為に共和国に 帰国しているのに、です。

自分達の目で見て確認し、何かできないか、と考えたのです。個人で何が できるか、と考えつけたのがこのタイトルです

最初に持参した医薬品の一部です

結核薬と歯科麻酔薬、そして抗生物質を主に持っていきました
結核薬はDOTS(Directly Observed Therapy short course)療法に基づいて4種類、RFP、EB、INH、そしてPZAです。服用期間と用量はスライドの 通りです。お判りのように、WHOの方法より大量の薬を長期間服用します。
その目的は初期感染患者を治療し完治させる事により、薬剤耐性菌に感染 する患者を作り出さない事にあります。その意味で私達の方法はWHOよりも 有効だと考えます

私達の医療支援の原則です

1.医療現場を視察し意見交換した上、必要とするものを援助する。
2.援助物資は、直接医療現場に届ける。
3.使用状況と、効果については報告を受ける。

この原則を守り、お互いに理解し合える医療機関と協力関係を築いてきま した。

スライドは今迄に医療協力をしてきた単位です

 平壌では
1.平壌3予防院
2.カルリムキル綜合診療所
3.金川綜合診療所
4.平壌育児院
5.平壌医大口腔科
6.平壌医大腹部外科
7.平壌医大泌尿器科

  沙里院では
1.黄海北道3予防院
2.黄海北道育児院

  元山では
1.江原道3予防院
2.江原道育児院
3.元山人民病院
4.元山口腔病院

 です。

原則を守れず、信頼関係を築けなかった単位には医療支援を打ち切りまし た。

共和国の医療事情が全く判りませんでした。最初に元山と平壌の育児院を訪問しました。育児院では親のいない子供が24時間養育されています。新生児用の粉ミルクと抗生剤、そして体温計を支援しました。

粉ミルクと抗生剤はとても有用です。

特に、支援物資が行き届かない地方の育児院にはとても必要な支援です。
私達は地方の全ての育児院を訪問する事を希望しています。科学院2局と協 力して、これまでに平壌育児院、沙里院育児院、そして元山育児院を訪問し、継続的に支援してきました。

平安南道の平城育児院と咸鏡南道の咸興育児院へは未だ訪問できていませ ん。科学院2局と保健省がもう少し尽力してくれれば、やがて訪問できるだ ろうと考えています。そのときに備えてこの二つの育児院にも粉ミルクと 医薬品の支援を続けています。育児院のスライドをご覧下さい。

皮膚病や目の病気に罹患している子供が多い印象を受けました。

抗生剤入りの塗り薬、目薬、そしてエリスロマイシンなどの抗生剤を支援 しています。又、聴診器や血圧計そして体温計はとても役に立っています。

育児院には小児科医が常駐しています。

とても熱心で、一人一人の健康状態をよく把握していました。今回は脱水 症状や下痢に対処する為、点滴セットを支援しました。平壌には薬局もあ り、いろいろな薬が入手できますが、地方に行くと薬を入手する事は困難 です。また、医療支援や食糧支援が平壌に偏っていないか、という問題も あります。育児院に限らず地方の子供たちの保健衛生への支援が必要だと 考えます。勿論、支援が必要な子供は育児院の子供達だけではありませ ん。むしろ国家の保護下に無い子供達に対する医療支援の方が緊要だと思 います。

制約無く自由に医療支援できる関係を築き上げる為にも、医療支援の必要 性をこの討論会参加者と共有できればよいと考えています。

私の専門は歯科、口腔科です。そのお話をします。

スライドは平壌市内の万景台区域にあるカルリムキル診療所の口腔科です。

2002年6月、初めて共和国を訪問し、医療現場を見たいと申し出た時に、な かなか理解されませんでした。

‘何故、医療現場を見る必要があるのか?’
‘医薬品を置いて帰れば私達が届ける’
‘共和国は医薬品が充分ある。支援は必要ない。’

と、いうのが反応でした。

1人の案内員が私達の申し出を真摯に受け止め尽力してくれました。彼が 案内してくれたのがこの診療所でした。私達はこの診療所に歯科麻酔薬を 持って行きました。

エピネフリン入りの2%キシロカインです。

カートリッジ式の歯科麻酔は、私達にはありふれたものですが、共和国で は未だ一般的ではありません。

感染予防の点からも必要な支援と考えます。

これまで5ヶ所の医療機関(平壌医大口腔科、カルリムキル総合診療所、 万景台区域金川総合診療所、元山人民病院口腔科、元山口腔病院)に合計1 万人分支援しました。

口腔科への支援の一つが入れ歯の問題です。

予防が充分でない為、歯が無く、入れ歯が必要な患者がとても多いようで す。補綴師が入れ歯を作る技術は一定の水準に達しています。しかし、材 料と機械が全く足りません。義歯用レジンと人工歯を継続的に支援してい ます。

元山口腔病院です。

とても優秀な口腔科医師がいます。説明も要求も的確です。私達が支援し た機材を直ぐに使用し、有用かそうでないかを説明してくれます。私達 は、次に何を支援すればよいのか直ぐに理解できます。この病院と私達は しっかりとした信頼関係があります。

口腔科への支援にはもう一つの問題あります。

それはどの診療所でも口腔科の診療台が故障したまま放置されている事で す。日本から部品を持ってきて、何台かの診療台が少しは使えるようにな りました。しかし一番の問題は故障した診療台を修理せず、新しい診療台 を購入したり、寄贈を受けたりする体質にあります。

部品と情熱があれば、お金をそれほどかけなくても診療台の修理は可能です。

金川総合診療所です。

のどかな農村にある診療所です。私達が、地方の農村にある小さな診療所 を持続的に支援したいと申し出た時に紹介されました。残念ながら、地方 ではなく平壌市内にあります。

私達は、口腔科には歯科麻酔薬と歯科材料を、外科には小手術機器を、産 科には粉ミルクを、そして内科には心電図計や聴診器、血圧計、各種医薬 品を支援しています。

農村なので外科的な疾患が多いそうです。いつもとても歓待されます。
次のスライドはとても気に入っています。2002年6月に初めて、平壌3予防院を訪問した時の写真です。

ご承知のように、3予防院は結核の予防院です。2予防院は肝炎の予防院だ そうです。この様な事も教えて貰えませんでした。私達が持参した結核薬 をとても喜んでいる場面です。この時は25人分の結核薬を平壌と元山に支 援しました。

何が不足しているか尋ねた時に見せられたものです。私達は、注射器も不 足しているだろうと思い、使い捨ての注射器を準備しました。しかし本当 に必要なのは、ガラスの注射器でした。その時から、私達はガラスの注射 器を支援するようにしています。

レントゲンフィルムも不足していると言われました。全てがその通りかは判りません。

しかし、現場の医師と話し合い、必要なものを直接支援する事が大切だと 考えます。

共和国の事情は判りません。

しかし、地方の医療現場に医薬品が無いのは現実です。薬があれば命が助 かる人が、薬が無い為に命を失う事があってはなりません。私達医療関係 者が、直接現場に医薬品を届ける事が必要です。

平壌3予防院には3ヶ月毎に訪問しています。

カルテを診て、患者に会い、専門医と治療経過を相談しながら、治療を進 めています。

病状によっては別の医薬品を提供します。

これまでに62人分の結核薬を支援しました。残念ながら、約束した科学院2 局からの詳しい報告は、未だ貰っていません。しかし、3予防院との話の中 で判った事を報告します。初期感染の患者にはとても有効です。治療が終 わった37名の内35名が完治しました。治癒しなかった1名は、再発した高齢 患者に投薬したcaseです。更に1名は薬が無断で第3者に渡ったcaseです。 つまり適正に使用したcaseでは全ての患者が完治しています。これは極め て当たり前の事で、共和国以外の国では実証されている事のようです。

共和国に対しては、WHOや韓国の???財団や赤十字から20万人分以上の結核 薬が支援されてきました。しかし、結核患者は減少しているのでしょう か? 判りません。

私達が判らないだけでなく、共和国の保健省も判らないのでないかと危惧 しています。是非意見を伺いたいものです。

ともあれ、結核は減っていないように思います。平壌に住んでいる人で も、家族に結核患者がいる人が高い確率でいました。充分な治療を受けて いない、という人もいました。

地方では、さらに多くの人が充分な治療を受けられずにいるのではないでしょうか? 民族の将来を担う若者が、結核で苦しみ、次の時代を生きら れない事を、私達はもっと憂慮すべきだと考えます。

次のslideは沙里院にある黄海北道3予防院です。

韓国からの医療支援があるそうですが、医療器具や検査器具の不足を訴え ています。

ここは元山にある江原道3予防院です。

とても誠実な医師達です。信頼関係に基づいて協力しあっています。

まとめです。

私達の共和国に対する医療支援を拡大し継続する為には、保健省と科学院2 局との更なる連携が必要です。WHOが共和国に支援している結核治療法より も私達が紹介した方法のほうが有効であると考えます。今後科学院2局が報 告するであろうデーターをもとに共和国における結核治療の基準が変わる ことを願います。

社会主義経済では病院の運営はとても大変だろうと思います。患者に薬を 投与しても病院にはその見返りがありません。しかしその為に、医療を必 要とする患者が必要な治療を受けられない現実は変えなければなりません。

今回の医学討論会が、医療の現実を変える契機になれば良いと思います。

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 それでは失礼致します。
 金 国雄(キム・ググン) 拝