老婆心ながら、とおりすがりNさんには、ちょっと誤解があると思います。
『ともかくも拉致した人々をまず帰せ!』・・が最も重要なことなんじゃないでしょ うか。
その通りだと思います。しかしまず、「この場の議論」では、ほとんどのみなさん が、拉致被害者の「原状回復」を人権問題として主張していると思いますよ。
私について言えば、一般投稿欄の6/9付投稿の最終段落でのまとめ部分だとか、 「組織論・運動論」欄の9/25付投稿だとかで、そのように明言しています。「原状回 復」という用語法が気に入らないのかも知れませんが、古くは1973年の金大中事件で も使われた言葉であり、「戻せ」という意味は明白だと思うのですが……。また、正 義味方さんなどが拉致問題の「真相解明」とおっしゃっているときに、「原状回復」 をことさらに除外して考えているとは、とても思えません。
むしろ、そのような共通の前提があるから、「この場」で議論されていた のは、拉致問題の解決と第2次大戦・植民地支配の清算ないし日朝国交正常化との 「解決順序」だとか、「一体的解決の是非」だとかだったのです。「真相解明」とい う言葉を使っていても、「真相が解明されれば、生存拉致被害者は帰国できなくても 良い」などと考えていた人は一人もいないでしょう(各人に確認したわけではありま せんが……)。
次に、日本共産党中央についてここで述べられても、如何ともし難いのですが、確 かに、日本共産党は、拉致問題を「北東アジアの不安定要因をなくすための前提的解 決課題」と位置づけているフシがあります。不破さんの新春インタビューなどを見ると、そんな印象を受けま す。そのために、「すべての拉致被害者を返せ」とはっきりとは言わないのでしょう かね。ただ、その同じページでも、「これは、日本国民の人権と安全を脅かした国際 的な犯罪行為として許すことのできないものであり、絶対にあいまいな形ですますこ とのできないものです」とも言っているので、拉致被害者を「日本に帰す」ことは当 然の前提になっているのではないでしょうか。
もっとも、あなたは「拉致被害者を全員すぐに返せ!」と端的に言わない「心の動
き・ありよう」を問題にしているとも思えます。
そしてその点は、ご引用の志位談話では、明らかに本当の「右翼」的主張を考慮し
て、予防線を張って「真相解明」という慎重な表現をしているのだと思うのです。決
して、そういう「心の動き」がないのだとは思えませんが……。「抑制的な表現は、
受け止める側として不完全燃焼感を否めない」とおっしゃるのなら
、それは趣味の問題ではありませんか?
現に、あなたご自身が「生存している拉致被害者が本当に殺されるかも知れないか
ら、経済制裁を主張しない」と言われているように、政治的配慮をせずにいつも「言
いたいことをストレートに言う」わけにはいかないのです。「右翼的論調に対しては
何でもストレートに言うべきだが、北朝鮮に対してはストレートに
言ってはまずいこともある」というのであれば、それも趣味(ないし政治判断の違い)
の問題でしょう。違いますか? もっとも私自身には、右翼に配慮しないのに北朝鮮
には配慮するという感覚は理解できません。あなたの危惧感が分らないわけではあり
ませんが、それなら「横田さんのものとして渡された遺骨は全く
別人のものだ」と発表することさえ、危険極まりないことではありませんか? 「あ
れは『手違い』で別人のものを渡しただけで、今度は本当に本人のものを渡す」と胸
を張って言えるようにするために、生きているだろう横田さんが本当に殺されかねな
いからです。
ただし、あなたが引用された志位委員長の談話の中で、志位氏が「意図的なものな のか」とわざわざ疑問形で述べているところは、唖然としました。北朝鮮から見て相 手国である日本国内で、拉致問題がこれほど問題になっている(そのことは、北朝鮮 側も十分知っている)のに「意図的でなく」別人の骨を出してくることなど、ありえ ないはずだからです。こういうことをポロッと言ってしまうところに「庶民の常識」 とかけ離れた感じはします。
そして、とことん真相をつきとめるなら、『共産主義』という崇高な理念から出発し た国が『何故、罪も無い一般市民を拉致するまでに堕落したのか』の真相の解明じゃ ないでしょうか。ともかく、ごくごく普通の市民感覚としては、そういうところが疑 問なんです。
うーん。それも「この場」では相当議論されているという認識ですがねー。民主集
中制を「真理の独占」のために使って特定の個人や狭いグループに依存する政治体制
をとってしまった結果、その人物等の個人的資質や誤りと一蓮托生になってしまった、
と言われているのではないでしょうか。
私の見解などごくごく初歩的なものに過ぎませんが、例えば、10/3付「組織論・運
動論」欄の投稿をご参照いただければ幸いです。
また、そもそも、北朝鮮について言えば、本当にNさんがおっしゃるように「『共
産主義』という崇高な理念から出発した」と言えるかどうか自体、私には自信があり
ません。旧ソ連と金日成との関係は、すでに明らかになっているようですが……(例
えば、萩原遼『朝鮮戦争 金日成とマッカーサーの陰謀』など)。
それから、「『共産主義』という崇高な理念から出発した」ということ自体、「ご
くごく普通の市民感覚」とはとても言えないんじゃないでしょうか。「ごくごく普通
の市民」が、共産主義を「崇高な理念」だと思っていたとは考えられないからです。
そのあたりに、一旦は「共産主義」を信奉された(らしい)Nさんの、自分は「ごく
ごく普通の市民」であるという自己主張が感じられてならないのですが……。
なお、日本共産党中央の公式見解については、私もよく研究しておりません(主張 のフォローに時期的ブランクがあります)が、確かに、一般論として「ソ連・東欧の 激変」の原因追究という意味での「真相解明」は不十分だと思っています。その理由 についても、私には考えるところがありますが、何れにせよ、その「真相を解明して ほしい」というのが「ごく普通の市民の疑問」とは思えないのです。
日本が戦争中朝鮮の善良な市民を拉致したことは知っています。それはとてつもなく 悪いことだったということもわかっています。そして、そういうことを繰り返しては いけないのだということも分かっているつもりです。しかし、だからといって『日本 は悪者なのだから、その国の市民を拉致しても良い』のでしょ うか。
精密な議論はたくさんありますが、一般市民のこういう素朴な疑問には何一つ答え ていないように感じるのは私だけなのでしょうか。そこにむなしさを感じているので す。
まず、「この場」での議論において、拉致問題の解決を日朝国交正常化の後回しに
したり、一体化すべきだとしたり主張する人たち(それは、私とは異なる立場の人た
ちです)であっても、さすがに、「日本は悪者なのだから、その国の市民を拉致
しても良い」と正面から主張していた人はいないと思います。もしかすると、と
おりすがりNさんはそのような主張を見たのだけれど、私が見落としているだけかも
知れません。しかし、もしそうでないとすれば、Nさん、あなたは相当感情的になっ
てはいませんか?
日本共産党の主張についても、この点は全く同じです。「他者の主張をまず黒く描
いておいて、その『黒さ』を批判する」というのは、避けたいものです。
私も、この場での議論に参加した経歴が短いので、自分の主張が結局、この場での 過去の議論の単なる蒸し返しではないかと、申し訳なく思いつつ投稿する気持ちがあ ります。このサイトの過去ログは、それこそ「英知の宝庫」ではないかとも思ってい ますが、その分量を考えると、とても全部参照してから議論に参加 する勇気は持てません。愚等虫さんなどからは、重複を優しく指摘していただいてい ますが、「自分は知りませんでした」と言い訳して、当面許してもらっております。
もしもあなたが、以上のような検討を経てもなお、「精密な議論はたくさんありま すが、一般市民のこういう素朴な疑問には何一つ答えていない」ところに「むなしさ を感じ」るのだとすれば、おそらく、あなたが言われる「(一般市民と同じ)素朴な 疑問への答え」も、あなたが想定し納得するような内容のものでな ければ、「答え」とさえ言ってもらえないような気がしてならないのですが……。