「まさか」と誰もが思った、金大中と金正日との固く、にこやかな握手と抱擁、
それはまさしく奇跡に思えた。
閉じこもったままで、出て来ないだろうと思われていた金正日の空港への出迎えな
ど、5年前の情景の一部が徐序にではあるが、私の脳裏に蘇えってくる。
あれからはや5年、あの時在日の人々の中には失われていた祖国統一への希望と喜
びが溢れていた、冷麺を旨そうに食べる両首脳の姿を見て、誰もが「北朝鮮(共和国)
の冷麺は美味しいそうだ、私も食べてみたい」と思った、しかし現実とは厳しく冷酷
なものだ。
今その時、湧き上がった希望と夢の大半は殆ど失われている、その後に続いた小泉
と金正日との9・17ピョンヤン宣言と、そこで表面化した拉致問題の捻じれとこじ
れは、日朝関係の急速な冷却を呼び、この国は頑ななまで北朝鮮には門戸を閉じ、排
外主義が全面開花してしまった、そしてそれに続く出口のない北朝鮮核問題は、全面
氷結的な状況下にある。
しかし、韓国の太陽政策は大統領が代わっても継続され、韓国の若者達の北への同
胞としての意識は、この国で考えるよりずっと深く、又南北の経済的、政治的交流も
より経験を積んできている。
「イムジン川はまだ深いか?」との問いに対し、私はNOと叫びたい。
なぜならイラク戦争の体験で誰もが知ったように、「この朝鮮半島で、そして東ア
ジアで絶対戦争を発生させてはならない」ことは、この5年間で共通の認識となった。
そしてもうひとつの側面的事実、否本質論として、この間の東アジアの相互の入り
混じった経済関係は、もう誰が否定しても決して5年前には戻らない。
たとえ中国の若者達の反日運動の高まりに反発しても、今進出した日本資本・企業
に中国の工場と市場から足を抜くことは絶対出来ない、抜けるとしたらそれは日本と
日本の資本が崩壊する時であることを意味する。
この関係はスケール的な違いがあるといえ、中国と北朝鮮、日本と韓国、そして南
と北に共通する。
それは金正日が一番よく知っているし、韓国のノムヒョンも、また中国も台湾の首
脳もみな知り尽くしている。
知らないのは、否分かりながら知ろうとしないのは、我が聡明なる小泉純一郎だけ
だろう。
しかしこの「小泉包囲網」は徐序ながら狭められている、ある近い将来、小泉かそ
の後継者は、自分が何も纏わない「裸の王様」であることを知ることになる。
そういえばドン・キホーテも自らを知らないから、あのように気ままに敵に突入出
来た、小泉の豪胆さは自らを理解しないからこそ「郵政民営化」という取るに足らな
い誰も期待しないゲームに、ドップリ使うことが出来るのだ。