2005年5月25日の「北の楽園」への帰国運動の真実につい
てですが、最近党から除籍された萩原遼氏が、「北朝鮮に消え
た友と私の物語」という本の中で、書いている以下の文をどう
思いますか。
あなたの投稿した内容は、全て事実であり、在日朝鮮人をそ
こまで追い込んだ日本政府、日本赤十字の対応は断固糾弾すべ
きだと思います。しかし、北朝鮮側の、やった事も断じて許す
事のできない問題です。
これは、どっちもどっちだからという問題認識ではなく、両
方とも同時に追求して行く課題だと思います。
こんなに切なく純粋に祖国を思い、夢に見、胸に描いていた 。その思いのたけを胸に帰国船に乗った。1955年12月14日の第 一船からその年の末までに三千人が、そして、翌60年には四万 九千が北へ向かった。毎週千人のペ-スである。嵐のような熱 狂が、在日朝鮮人社会に吹き荒れた。
中国共産党と金日成の力を借りて、民対派を追い落とし在日 朝鮮人運動の指導権を握った韓徳銖は1955年5月24日、民戦第6 回大会を開き、これを解散させた。翌25日在日朝鮮人総連合会 を結成し、韓徳銖は5人の議長団の一人におさまった。まだ民 対派との確執は続いており、彼の独裁体制が確立したわけでは ないが、流れは韓徳銖のほうに向いていた。
こうした状況の中、金日成と韓徳銖が着手したのが、帰国事 業である。
金日成と十分な根回しの末に1958年8月15日、韓徳銖は自分 の出身母体である朝鮮総連神奈川県川崎支部中留分会の一会員 に金日成宛の手紙を書かせた。
「日本での貧困と差別の生活を打ち切って、発展する社会主 義祖国に帰って、幸せな生活をおくりたい」
これに金日成は素早く反応する。一ヶ月後の9月8日の建国十 周年記念大会でこの希望を全面的に受け入れるとしてこう述べ た。
「朝鮮人民は、日本で生きる道を失い、祖国のふところに帰 ろうとするかれらの念願を熱烈に歓迎します。共和国政府は、 在日同胞が祖国に帰り、新しい生活を営めるよう全ての条件を 保障するでしょう。」
植民地にされ、亡国の悲哀をなめた在日朝鮮人にとって「祖 国」という言葉はなににもまして美しくやさしく力強く胸にひ びいた。われわれには、祖国があるのだ。しかも隆々発展する 社会主義の祖国が。
このとき南朝鮮は李承晩の独裁政治が続いていた。韓国政府 は、在日朝鮮人を棄民視していた。北側から「あなたは栄えあ る朝鮮民主主義人民共和国の誇り高い公民である」と呼びかけ られたとき、一世たちは感動にふるえた。
中略
韓徳銖は「日本革命に従属するのではなく、祖国に直結しよ う」と呼びかけた。当時の在日朝鮮人の気分にうまく合ったス ロ-ガンである。しかしこのスロ-ガンには大きな陰謀が隠され ていた。在日朝鮮人を一人でも多く帰国させ、北朝鮮の戦後復 旧活動に動員しようという魂胆がこめられていた。だますしか なかった。
そのために考えられたのが、、「地上の楽園」の虚偽宣伝で ある。
略
「教育はただ」「金日成総合大学で学べる」「モスクワ大学に 留学できる」という宣伝は貧しくて学校に行けない在日の青少 年の心をかきたてた。
略
「地上の楽園」とは似ても似つかわぬ貧しい祖国の姿を目撃 した関氏は帰国後、自分の見聞をまわりに伝え地上の楽園へ帰 るなどという甘い考えを捨て、自分らの力で泥まみれになって 祖国を建設するという覚悟を持たねば帰国する意味がないと訴 えた。
関氏に対し、総連の幹部は言った。
「帰国する者にそんなことしゃべっちゃ困るじゃないか。一 般帰国者は無知なんだ。それでいいんだ。なまじ本当のことを 知らせると、帰国者がなくなってしまうからな」
恐ろしい言葉である。総連の幹部は北が「地上の楽園」でな いことを知っていたのだ。知りつつだましたのだ。自分たちの 行っている美辞麗句の宣伝が虚偽である事を総連の一部の幹部 は十分承知していたのだ。善良な在日朝鮮人を大量におびき寄 せるためさまざまの虚偽の手を使って実行したのが帰国運動で あった。
略
「地上の楽園」は実は地獄だったのだ。帰国者とはその地獄 の囚人だったのだ。北朝鮮当局者にとってはそれは絶対に外部 に知られてはならない秘密だった。見ることもふれることもな らないタブ-だった。その秘密を私は知った。なにも知らない 天真爛漫さのゆえに私はその秘密をかいまみた。秘密を察知さ れたと知った北当局は、私を消そうとした。
略
無事に生きて戻ることのできた私は幸である。だが戻ってこ れない在日帰国者はどうなるのか。美しい鐘の音に引き寄せら れるようにだまされておびき寄せられたあの人たちは。「だま された」と思っても、もう逃げ出すことはできない。ガチャッ と鍵がかけられたように閉じ込められてしまったあの人たちは 。
だまされた者も悪いという意見もある。だがだます方がもっ と罪ではないか。青白い魅惑の光で虫を誘き寄せる誘蛾灯。飛 び込んで身を灼く側に非があるというのか。
略
「わが国に対する日本政府の敵視政策によって往来の道が閉ざ されている」
北朝鮮と総連の常套語である。確かに敵視政策はある。だが それによってもっとも利益を受けているのは、北朝鮮と総連で ある。帰国者が日本に戻ってこない限り地獄が暴露されないで すむからである。そして総連幹部たちは怒った帰国者の報復に あわなくてすむからである。
略
帰国者を送り出した日本国民も無関心ではいられない。金日 成と韓徳銖の陰謀であったことも、北朝鮮が地獄であることを 知らずに善意で協力したとはいえ、その後の結果に対してはし かるべき責任をとらなければならない。
萩原遼氏は、元赤旗平城特派員でです。そしてこの本の出版
は1998年11月30日です。
つまり、この本は萩原氏が共産党の党員だった時に書かれた
ものです。
確かに、帰国運動に対する日本政府と日赤の責任追求や抗議
は大きな問題です。しかし、北朝鮮当局や総連の陰謀も同時に
追求しないとこの問題の解決は難しいのではないでしょうか。