かれは日本人の「朝鮮訪問記」や「朝鮮訪問談」を熱心に読んだり聞いたりした。日本人なら第三者的立場で、客観的に共和国のことを書いたり、言ったりするだろうから信用できる。そう思い寺尾五郎氏の「38度線の北」、何人かの訪朝日本人記者が書いた「北朝鮮の記録」など何冊かの本を読みあさった。「北朝鮮の記録」の筆者のひとりに「嶋元謙朗」という読売新聞の記者もいたはずだ、とH君はいった。
H君によると、寺尾、嶋元氏らは、その本を通じて共和国は「発展している」ばかりか、夢と希望に満ちた「未来の国」だ、と強調した。それらの本は、在日朝鮮人が読めば、誰でも共和国に帰りたくなるように叙述されていた。共和国は、日本のような差別や不平等のかけらもない、平等が完全に実現された社会であり、就職の心配はいうまでもなく、学校には学力があり、入りたいと希望しさえすれば、誰でも行けると書かれていた。
寺尾、嶋元氏らは、日本の各地で催された「訪朝講演会」であなた方の祖国は、一人でも多くの「社会主義建設の担い手」を要求しているといって、私たちの帰国熱をあおった。このような講演会の一つで、寺尾五郎氏は「私はあなた方の祖国、朝鮮民主主義共和国がうらやましい」と語り、「現在の日本人は夢と希望を託して懸命に働ける場がない」といって、私たちをおおいに喜ばせた。私たちは「テラオ」と「シマモト」らが書いたり、しゃべったりしたことに血わき肉おどらせ、拍手喝采した。(凍土の共和国)
この寺尾五郎の「38度線の北」という本は、新日本出版から出版されている。
共産党と新日本出版の関係から見て、共産党に大きな責任があるのは、確かだと思います。その後、寺尾五郎は、中国共産党盲従分子として、除名されたと記憶しています。また、この本も絶版されています。しかし後に、別の理由で除名、絶版していても、それでこのような本を出版していた責任が、軽減されとは思えません。
帰国運動に関しては、萩原遼氏の「北朝鮮に消えた友と私の物語」(文芸春秋発行)が参考になると思います。最近の萩原遼氏の著作は、民族主義的傾向が強く、余り、参考になるとは思えませんが、この本は参考になると思います。
ただ、共産党と朝鮮労働党=朝鮮総連とは、公然対立の前からも部分的には、摩擦があったように思えます。例えば1965年か1966年朝鮮高校で、朝鮮高校との交流会を行った時、中核派が、介入してきたので、排除を要求したのに対し、朝鮮高校側が応じなかったため、その後、開かれなくなりました。また、新日和見主義事件の時、当初は朝鮮労働党の介入を疑っていたようです。また、金日成の誕生日の貢物を、旧社会党は贈ったのに、共産党は贈っていません。
しかし、1996年の党関係正常化以後の不破指導部の対応は、でたらめとしか言い様がありません。