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「北朝鮮問題」討論欄

チアン・ユンの「マオ」の世界と北朝鮮。

2006/05/01 正義味方 50代 会社員

 チアン・ユンの「マオ」上下巻を読んだ。膨大な聞きと り、証言を基にした労作で、3点の感想を述べたい。

第一:共産党・社会主義政権のプロパガンダの活用の徹底ぶり 、すなわち世界を欺く巧みさに驚かされる。それに騙された日 本の民主諸党派は多い。今回ベ-ルの一端がはがれた思いがす る。文化大革命時については、日本共産党が当時、真正面から 批判を展開した(所謂10.10論文)。政権をとる前の「紅軍は 大衆から針一本とってはならぬことが周知された」と知らされ 、つまり世界に類例のない倫理性の高い、軍隊と宣伝されてき た。

 実態は180度違い、人民大衆から、収奪、略奪の限りを尽 くしたことが克明に述べられている。次に整風運動。整風とは 、純粋さを維持する正しい運動のように伝えられてきたが、本 質は、政敵を抹殺すること。反右派闘争~文化大革命に至る流 れは、「解放前の延安」から既に始まっている。策略、謀略、 密告、落とし入れ、批判集会、拷問、反革命の烙印等ありとあ らゆる手段を駆使して、反対するものを貶め、排除・抹殺する 。文化大革命がその集大成となっている。

 さらに、人民公社については、共産主義への過渡期のより進 んだ形態と考える一部の民主諸党派が当時、日本のマスコミの 中にもいて、礼賛記事を書いていた。しかし、実態は強制収容 所。毛沢東による収奪管理の道具以外何者でもなかった。論よ り証拠。毛沢東後は、跡形もなく消えた。

第二:共産党・社会主義政権の本質問題に関連して。「為人民 服務」の看板が、北京中南海の入り口に今もかかっている。こ れほど欺いた看板もない。中国共産党ほど、徹底的に大衆から 収奪をした政権党は他に例を見ない。生産物を農民から巻き上 げ、それを元手に、武器の輸入(原潜、核開発)にあてる、い わゆる「飢餓輸出」を長期に継続し、数千万の餓死者を生み出 した。

 日本でも明治以前は「百姓は生かさず殺さず」で、高額の年 貢に痛みつけられた時期があったが、毛沢東のそれは、その程 度のなまやさしいものではなく、「生かさず(餓死)」を平然 と徹底した。人民大衆からの収奪による富の再配分は紛れもな く「軍拡」に使われ、戦争推進の潜在力確保がすべてに優先し てきた。その軍は人民弾圧(チベット等)の道具である。文革 の混乱を収拾するために、毛沢東思想宣伝隊と言う名の軍隊が 投入された。

 2度の天安門事件の弾圧にも軍が登場する。このように、「 軍事優先国家」は人民の犠牲の上に成り立っている。「マオ」 の中にでてくるが、国民党や日本占領下ではまだ食えたと。一 体全体、何のための革命だったのか?自分の首を絞める革命だ ったのか?その点を毛沢東は、人一倍よく知っており、武力と 恐怖で押さえ込んだ。チアン・ユンは、毛沢東の専制恐怖政治 の犠牲になり、命を落とした人民の数を平時で7000万人と結ん でいる。そこには、「自由・平等・博愛」の理念のかけらもな い。つまり、毛沢東の中国の内実は、人民大衆にとって清朝以 下の恐怖の王朝に変わったことである。

 恐怖政治の裏側にある、人民大衆からの収奪による特権は、 専任料理人、別荘、ハ-レム(北朝鮮では喜び組)、幹部専用 病院等々。この傾向は、中朝共産党政権の共通項といえる。今 、中国では幹部(官僚)の特権が物凄い。このままでは国をお かしくするとまで言われる。人民大衆からの収奪による富の幹 部への再配分の歴史を総括・清算しない限り、今後もずっと続 く。

第三:昨年の反日デモに、センチメンタルな反応を示した人も いる。「マオ」の中に触れられているが、政敵(国)に対して 、官製のデモをかけて脅すのは、中国共産党のお家芸である。 文革時代は、西側のメディアの監視が強くなかったこともあり 、もっと過激に破壊活動が行われている。官製なので、鶴の一 声で直ぐ止まる。無法体質が継続していることの証明であろう 。

 さて、毛以降の施政は、毛沢東は「晩年に過ちを起こした」 程度にとどめ、本質を覆いかぶせたまま今日まで続いている。 今中国では、農民暴動が凄い。300人規模以上のものが年間、 8万件とされ、規模の小さいものを含めると100万件以上とも 言われる。徹底した報道管制によって、情報流出を必死に防い でいる。悪しき毛時代の治世を引きずっているものと嘆かわし い。

 「マオ」の巻末に、世界のインタビュ-リストが掲載されて いる。残念なことに、中国大陸を除きとなっている。中国大陸 で何時の日か「マオ」が翻訳され、多くの大衆が真実を知り、 それが民主化の原動力になることを願う。

 更に、中国が真の民主化にいたるには、○天安門の毛沢東肖 像画が引きずりおろされること○天安門広場の毛主席記念堂が なくなること○これ等が真の人民大衆の意思で遂行されること 。これ等のプロセスが不可決と確信する。

 さて、北朝鮮は、親亀小亀の関係宜しく、すべからく毛沢東 の真似をしている。「先軍政治」と呼称は変わっているが、軍 拡勢力であることは共通項。中国は8億(60年代)の人口大国 で、かつ国土も広く、収奪しても多少の復元力は残されていた が、北朝鮮は人民収奪の結果、経済は壊滅した。人民大衆から 絞れるものは何も無くなり、「軍事力」の維持のために、非合 法の世界(覚醒剤、ニセドル等々)に手を出す以外選択肢がな くなった。

 その非合法自体が、今締め出され体制の危機を迎えている。 人民大衆からすると、今の北朝鮮は基本的食料や、生存の自由 すらない、毛沢東の暗黒時代と同じ状況に置かれている。北朝 鮮が真の民主化にいたるには、最も影響力の大きい中国の民主 化がカギを握っているような気がする。