実は、私は『マオ』を読んでおりません。
従い、本来、正義味方様の『マオ』への書評に意見を述べる資格はありません。
それ故、適任の方が反論若しくは疑問を呈することを待っていたのですが、誰も出てこないので、資格がないことを承知の上で、一言申し上げます。
正義味方様は『マオ』を積極的に評価され、「今回ベールの一端がはがれた思いがする」と、新事実の発掘や新解釈の登場があったように言われています。
マスメディアやインターネットでもさまざまなジャーナリストや中国研究者がおおむね大きく評価しているようです。
ところが、よく見ると、評価だけでなく強烈に否定する意見もあるのです。
私が見た範囲では、最も強い否定は矢吹晋氏の書評です(http://www25.big.or.jp/~yabuki/2006/ya-mao.pdf)。
他に、大沢武彦氏のブログ『多余的話』では、矢吹晋氏を引用しつつ『マオ』に疑問を投げるやり取りがあります(http://d.hatena.ne.jp/takeosa75/。特に『マオ』の書評は、http://d.hatena.ne.jp/takeosa75/searchdiary?word=%2a%5b%a1%d8%a5%de%a5%aa%a1%d9%bd%f1%c9%be%5dにあります。)。
これらを読むと、『マオ』には重大な欠陥があると思われます。
是非一度これらの書評・批判を読んでいただきたいと思います。
矢吹氏の書評曰く、
> 最も基本的な文献を二つ挙げよう。(『毛沢東集』と『毛沢東伝1949~1976』を挙げる。――本田注)‥‥張戎はこの両者を全く無視している。プロならば、ここを見ただけで、書かれたものの水準が分かるのである。張戎の無知はどうしようもないが、このように最も基本的な文献を知らないで、毛沢東を論じようとするのは、そもそも間違いである。
> 今回の『マオ・誰も知らなかった毛沢東』は、「数百人をインタビューして」、「膨大な文献目録」を付しているのは、その「実証性」を売物にしたいためである。「資料に基づく新たな現代史解釈」なるものを売物にしたいためである。現に日本のほとんどの大学教授はこれを「歴史書」と受け止め、やれ「衝撃だ」とか、やれ「現代史の書き換えが必要だ」と大新聞等で大合唱を続けているのが、その証左である。
これらの間違った情報に誘導されて、普通の読者は、「虚実皮膜」というよりは、「虚ありて実なし」の偽作をあたかも史的真実として読む恐れが強い。‥‥
今回の『マオ』は、明らかに失敗作である。‥‥この欠陥商品を中国現代史に疎い素人教授たち(たとえば青木昌彦、加藤千洋、松原隆一郎、国分良成、天児慧など)が大新聞の書評などでもてはやすので、私のところにも真偽の問い合わせが少なくない。大迷惑だ。
初めに断っておくが、毛沢東の「神格化」否定や虚像破壊に対して、私は反対ではない。毛沢東個人崇拝が現代中国史を彩る悲劇の核心であることは明らかだ。しかし「神格化」を否定して単に「悪魔化」しただけでは、悲劇を克服することにはならない。毛沢東を「スターリンよりもレーニンよりも悪い梟雄」と見るだけの視点から、強引に通説を否定した『マオ』は、遺憾ながら三文小説の域を出ない。「新説の論拠」がまるで示されていないので信憑性が問われる。
無知・偽作・失敗作・欠陥商品・三文小説と、矢吹氏はまるで張戎夫妻に恨みでもあるかのように非難し、自分と同じように非難しない他の専門家をもボロクソに書いています。これ以上引用しませんが、具体的に細かく反論されています。
特に、張戎夫妻の判断・新説の論拠が示されていないこと、示されているように見えても非常にあいまいで確認できないこと、などを批判されています。
それに比べ、大沢武彦氏は、そこまで激烈ではないのですが、個々の「事実」は新たな発見があったが、それをどう解釈するか、また「事実」をどう繋げていくか、という点で重大な問題があり、『マオ』は信頼できない、とされています。
私はそもそも『マオ』を読んでいませんし、もちろんそこまで断定できません。
ただ、私が感じる重大な疑問は、張戎夫妻がいうほど無知・無能な毛沢東が、10億もの民衆を約30年も騙し、権力独裁を続けることは不可能ではないか?ということです。
また、民族独立・搾取からの解放を掲げて勇敢に戦い、勝利したはずの中国革命が、なぜ自国民を大量に殺戮する事態に堕したのか? 毛沢東の個人的資質に還元したのでは、何の教訓も引き出すことが出来ません(日本共産党にとっても益にならない)。
もちろん私も、毛の経済に対する無知などの重大な欠陥や、その結果引き起こされた大躍進・文革などの悲劇を重大視します。
しかし、毛を全面否定することにも非常に違和感を感じます。
読んでもいない私の違和感はともかく、専門家から強烈な批判が出ているということを、正義味方様を始めこの本を読まれた方にも知っていただきたく、投稿いたします。
以上