ご紹介するのは自衛隊専門紙「朝雲」の名物コラムです。
朝雲寸言2006/7/20付
戦争を止めさせるには、制裁、報復といった心理的、物理的強制か、または利益誘導という手段がある。北朝鮮をめぐって国際社会はここ数年、制裁か利益誘導かで議論してきた。今回の国連安保理決議は、「次は制裁」という一種の脅しを含んだ強い警告となったが、北朝鮮は、直ちにその受け入れを拒否した。
まして、「戦争」が長い歴史的怨念に基づくものであれば、多少の脅しや利益誘導で片づくものではない。小泉総理が中東訪問時に示した「平和と繁栄の回廊」構想は、日本を仲介に当事者の話し合いによる和平と経済復興の道筋を探る「利益誘導」型の和平プランだ。
だが、総理がイスラエルを訪問している最中に、同国によるレバノンへの攻撃が始まった。これを日本外交の甘さとか失敗というのはたやすいが、戦いであれ和平であれ、成功するには理性とタイミングが要る。
タイミングが悪くとも、和平を訴え続けることは無駄ではない。
サミットでも、世界のリーダーがこぞって中東、北朝鮮への懸念と自制を訴えた。だが、理性はしょせん、局外者の理性であって、怨念に凝り固まった当事者には通じない。
「義理がすたればこの世は闇」というが、理性が沈黙すれば世界が闇となる。
理性の声は明白だ。ミサイルによって利益は受られない、テロが勝利することはない、そして、テロに「戦争」をもってこたえるだけではテロはなくせない。
中東での和平の呼びかけはうまくいかなかったけれど、
>タイミングが悪くとも、和平を訴え続けることは無駄ではない。
そうそう、和平努力の失敗を笑ってはいけない。
失敗しても、和平意志を伝達し続けることです。
>だが、理性はしょせん、局外者の理性であって、怨念に凝り固まった当事者には通じない。
そのあたりが頭の痛い所です、本当に。
>(そうであっても)理性が沈黙すれば世界が闇となる。
そう、うまくいかなくても、裏切られても、あきらめてしまったらそこでおしまいだ。
>理性の声は明白だ。ミサイルによって利益は受られない、テロが勝利することはない。
>そして、テロに「戦争」をもってこたえるだけではテロはなくせない。
そのとおりっ!
自衛隊の中で語られているジョークに、「自衛隊は日本最大の反戦団体だ」というのがあります。
自衛隊は自分たちの存在意義を「抑止力」、つまり戦争を起こさせないことが目的だと言っているからです。
志方俊郎元陸将補の持論ですが、「戦わなければならなくなったら、その時点で自衛隊の任務は半分失敗したようなもの」だと。
全面戦争して勝てるほどの軍備は必要ないが、「手出しをしても無駄だぞ。攻めてきたらヒドイ目に遭わせるぞ。」と言える程度の実力を持って、侵略意図を未然にくじく。しっかり防備を固めることで相手国に侵略意図を起こさせないこと。戦わなくてもすむ(強面の)環境づくりが自衛隊の任務だと。
そうすると近隣国との無用の対立を回避し、敵愾心をやたらとあおらないようにするのが政治の役割ということになります。
両輪あいまって、確実な安全保障が得られる。
これが保守のよく言う「普通の国」の安全保障観です。
それなのに憲法第九条をもつわが国で、近頃その役割が逆転しているのは異常としか言えません。
日米両軍の圧倒的なプレゼンスを背景に、政治家の発言の勇ましいことといったら。実力部隊からの方がよほど冷静かつ理性的な発言が聞こえてきます。
経済バブルのときは、経済的に行け行けドンドンの勇ましい発言が相次ぎ、バブルが弾けてからその主張がいかに空虚だったかが暴露されました。今はそうすると軍事バブルの時代なのでしょうか。
軍事を知らず、戦争を知らない政治家は危険です。
他の人は知りませんが、私は軍事について学べば学ぶほど、憲法第九条の大切さをひしひしと感じます。