法政大学の五十嵐教授が10/5の転成仁語で北朝鮮の核実験について触れていたので、転載します。
金正日から安部新首相への「就任祝い」
「北」の国から、早速、安部新首相への「就任祝い」が届いたようです。北朝鮮外務省による「今後、安全性が徹底的に保証された核実験を行うことになる」との声明のことです。
今日から始まった衆院予算委員会で答弁に立った安部さんは、官僚が用意したメモを見ることもなく、元気一杯、次のように答えました。「北朝鮮がこうした行為を続けていけば、今よりさらに厳しい状況になっていくことを理解させるためにも、国連の場でしっかりとした議論がなされなければならない」と・・・・・。
北朝鮮の核実験は、全く愚かなことです。金正日の暴走であり、このような愚行は許されません。国際社会による厳しい批判と外交的な働きかけで、何とか実行を思いとどまらせる必要があるでしょう。
ただし、核の開発と実験は、北朝鮮だけでなく、どこの国のものでも批判されなければなりません。北朝鮮やイランは悪くて、アメリカやロシア、中国などの核実験は許されるなどというダブルスタンダードを認めてはなりません。
核開発は、どこの国であれ、認められないと言うべきです。北朝鮮政府がどのような言い訳をしようと、核実験には正当性がなく、中止させなければなりません。
北朝鮮の核実験が愚かしいには、それによって最も被害を被る可能性があるのは自国の国民だからです。実験すれば、さらなる厳しい制裁が科せられ、輸出入や経済活動、ひいては国民生活に大きなマイナスをもたらすことになるでしょう。
もし、失敗すれば大変な悲劇が起きます。成功しても放射能の飛散による周辺住民の被害は免れません。
地殻や地下水にも、何らかの影響を及ぼす可能性があります。風向きによっては、韓国や日本にも放射能被害が及ぶかもしれません。
さらに大きな懸念は、これが戦争に結びついてしまうのではないかという心配があることです。この間の経緯を見れば、互いの行動が次第にエスカレートしてきていることが分かります。
北朝鮮は「日朝平壌宣言」で拉致問題などについての責任を認めましたが、日本は納得しませんでした。へそを曲げた北朝鮮は6カ国協議を去ります。
これに対してアメリカは金融制裁を行い、北朝鮮はミサイル発射によって答えました。国連は非難決議を上げ、日本政府は制裁処置を発動したというのが、これまでの経過です。
もし、核実験がなされれば、安部首相が明言したように、国連での制裁決議など「今よりもさらに厳しい状況になっていくことを理解させるため」の処置がとられるでしょう。その決議の中に、もし、「武力の行使を含む」という一文が入ることにでもなれば、大変なことになります。戦争という容易ならざる事態に直面する可能性が生まれるわけですから・・・・。
拙著「戦後政治の実像」(小学館、2003年)でもこのHPでも何度も書いてきたように、アメリカは1994年に北朝鮮の核施設を爆撃する計画を立てていました。戦争の準備は、10年以上も前からやっているわけです。
これを支援し協力するため、日本も「新ガイドラインの作製」「周辺事態法」「武力攻撃事態法」「国民保護法」と、着々と戦争への準備を重ねてきました。在日米軍基地の再編を機に、この体制が一段と強化されようとしているこの時点での、今回の事件です。
いよいよ、これまでの準備が役に立つときがきたと張り切っている人がいるかもしれません。しかし、それは、北朝鮮や韓国、日本の国民にとって、巨大な悲劇をもたらすことになるでしょう。
戦争にまで発展させてはなりません。なんとしても、交渉で解決するべきです。
戦争になれば、いずれの当事国においても、大きな被害が出ることは明らかです。爆弾は、戦争に反対した人の上にも賛成した人の上にも、等しく降って来るのです。
北朝鮮が爆撃されれば、今も生存している可能性のある拉致被害者やその家族も、同様に被害に遭うでしょう。拉致されて異国に連れ去られた悲劇の上に戦争の犠牲となるような悲劇を重ねてはなりません。今日、42歳の誕生日を迎えたであろう横田めぐみさんに、そのような悲劇を味あわせても良いのでしょうか。
ギリギリと締め上げれば、普通の人なら「参りました」というでしょう。でも、金正日は「普通の人」なのでしょうか。
かえって逆効果になり、問題の解決を遅らせてきたというのが、これまでの経過でした。厳しい制裁を行っても、「今よりもさらに厳しい状況になっていくことを理解」できるのか。それが心配です。
金正日が危機を創り出すことによって相手側の譲歩を引き出そうとしていることは明らかですが、だからといって、その危機をさらにエスカレートさせるような対応をすべきだとは思われません。
北朝鮮は、アメリカとの直接対話を求めています。日本が仲介してその場を設定するということはできないのでしょうか。
会って話を聞くことすら拒否するというアメリカの対応には、大きな問題があるように思われます。体制の維持を保障し、国際社会に復帰させた上で、拉致問題や核開発などの様々な問題の解決を図るという道もあるでしょう。
体制維持の確約によって対外的緊張が弛緩すれば、金正日体制への依存や凝集力が低下し、かえって体制崩壊が早まるという可能性もあります。このような逆説的プロセスを理解できないのであれば、政治家をやっている資格はありません。
逆に、対外的な緊張が激化すればするほど、政権担当者に頼ろうとする気持ちが強まるのは、どこの国でも同じです。金正日体制を支えているのがこのような緊張の存在であるとすれば、日本においても同様の効果を狙おうとする誘惑があるかもしれません。
金正日によって送られた「核実験声明」というプレゼントを活用して、対外的緊張を高め、国民の目を外に向け、政権基盤の安定を図ろうなどと、よもや安部さんは考えていないでしょうね。そのような思考は、金正日やブッシュ米大統領と同じ地平に立つことを意味するのですから・・・・。
日本の首相なのですから、軍事力によってではなく交渉力によって、問題の解決にあたっていただきたいものです。安部首相には、何としても戦争へのエスカレートを避けるために、日本国憲法の趣旨にのっとって行動していただきたいと願うに切なるものがあります。
「北朝鮮は、アメリカとの」から「資格はありません」までは必ずしも同意できる内容ではないのですが、NPT(核拡散防止条約)の問題点も指摘されているので全文転載してみました。
NPTが日本で批准されたのは、70年安保闘争の頃で、当時核戦争の危険性が減ると宣伝されましたが、アメリカを中心とする核保有国の核独占を固定化する不平等条約で、何ら核戦争の抑止は繋がらないという指摘がなされていた。
イスラエル、インド、イラン、イラク、北朝鮮に対する核疑惑の対応を見れば、それが正しかったことは明らかだ。また、この条約が、核保有国の核軍縮にも役に立たなかった。アメリカの自国の都合で常に変わる核問題の対応が変わらない限り、核保有の問題は何回でも繰り返されるだろう。イスラエルの核保有疑惑がある限り、中東で。アメリカによる核攻撃の可能性がある限り、その対象となる可能性のある国で。