最近になって、10/26付北朝鮮問題欄への kazuoさんの投稿中の、次のような 記述に気づきました。遅すぎるかも知れませんが、私が一般的知識として知るところ を、少しご紹介します。
> 北朝鮮の金正日は、中国の唐家セン国務委員と会談した際、6カ国協議への復帰 の条件としてアメリカによる金融制裁の解除を求めたと伝えられているが、アメリカ は北朝鮮に対する金融制裁は、マネーロンダリングという不法行為に対するアメリカ の国内法による発動であり、核問題とは無関係だとして拒否したという。アメリカ国 内法の適用というのがイマイチ分からない。
これは、貿易決済の基軸通貨として、依然として米国通貨であるドルが支配的に使
われていることによる結果です。
kazuoさんは、上記投稿の中で北朝鮮の財政規模等を「円」単位で表示されていま
したが、輸出入の決済は、通常「米ドル建て」で行われています。
例えば、日本企業Aとタイ企業Bとの間の「米ドル建て(以下、単に「ドル」とし
ます)」の輸出入決済は、日・タイ国内のそれぞれの取引銀行(Aについて甲銀行、
Bについて乙銀行とします)口座から、(為替交換を経て)ドルを送金することに
よって行われています。しかし、日本もタイも、ドルが内国に流通している通貨では
ありませんから、現物としてのドル貨幣を甲乙間で運搬しても意味がありませんし、
甲乙両銀行が、取引高に相当する現物としてのドル貨幣を所持しているわけでもあり
ません。
そこでこの決済は、甲乙両銀行が、ドルが内国通貨であるアメリカ合衆国国内の銀
行(丙銀行とします)とそれぞれ「コルレス契約」を締結して、甲乙両銀行の口座
を、丙銀行の中に開設し、その口座宛の送金により丙銀行内の甲乙二つの口座間の残
高を付け替えすることによって行っています。世界各国の銀行間で、このようなコル
レス契約が結ばれており、ドルはその中で事実上「基軸通貨」となっていることによ
り、アメリカの金融を通じた経済支配力が維持されているわけです。
アメリカ政府(財務省)は、北朝鮮の輸出入取引のコルレス決済窓口銀行(上例に
おける甲乙銀行に相当)が、例のマカオにある「バンコ・デルタ・アジア」であり、
当該銀行にある「朝光貿易」(上例におけるAやBに相当)口座を通じて、北朝鮮が
偽造紙幣のマネー・ロンダリングや大量破壊兵器取引の決済をしていることを突きと
めたのです。
そこで、アメリカの国内諸銀行(上例で丙銀行に相当)にある「バンコ・デルタ・
アジア」のコルレス口座を、「国内法の適用」によって閉鎖し、付け替え決済業務を
停止させたのです。通常の内国金融機関に対する監督権限の行使になります。
もし外国取引決済が「円建て」で行われている場合、例えば、偽造一万円紙幣の流 通化に関していえば、日本の主権(通貨高権)行使として、当然に同じ措置が可能で す。具体的には、円コルレス契約を締結している国内銀行に対する関係で、「監督」 としての総理大臣による一部業務の停止命令(銀行法26条)等を行うことによると思 われます。もっとも、そんな「強制」的方法に至る前に、国内銀行は「行政指導」の レベルで業務停止に応じるでしょうが…。すべて「国内法の適用」で行えるのです。
これは、現北朝鮮政権にとって、相当のダメージを与えているようです。それで、 米朝二国間交渉だとか、金融制裁解除が六か国協議復帰の前提条件だとかいっている のだと思います。
先日の「報道ステーション」で、黄長燁氏とともに亡命した金?徳氏が言っていた のですが、「現政権は、『制裁によって餓死するとしても、いまの国内食糧生産力に 見合うだけの国民が生き残ればよい』という発想をするだけだ」ということです。し かし、政権担当者も、国内で生産できないものについては、こんな悠長なことは言っ ていられないわけです。それで、「経済制裁よりも金融制裁」の解除を望んでいるの ではないかと思っています。
冬の寒さをジワジワと感じられる季節になり、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国) では、民衆がもっと厳しい寒さに襲われているでしょう。
古くなりますが、「しんぶん赤旗」10月13日(金)付の第6面には、「時事」のクレ
ジットで、7月の大水害の被害が深刻な上に、核実験への国際包囲網の強化から、こ
の冬の北朝鮮の飢餓が深刻化し、1990年代半ばの飢餓時代に似た状況が生まれつつあ
るという、専門家の指摘があったと、報道しています。しかも、中国はすでに、脱北
者の入国に備えて国境警備を強化しているというおまけつきです。食料・医薬品・燃
料の人道支援は緊急を要すると思われます。
もちろんこのことにより、もしかすると、極めて早い時期に社会変動が起きるかも
しれません。それは、「庶民が多く餓死すれば、今度は庶民も黙ってはいないだろ
う」ということでしょう。庶民を幸せにするためにこそ「社会変動」が必要であるの
に、「早く社会変動を起こさせるためには、庶民にたくさん餓死してもらわなければ
…」ということになるのです。一歩間違えば、「より早く、より迅速に多量の庶民を
餓死させる方法はないか」という議論まで、出てきかねません。
同日付の別の記事では、「ジュネーブ=時事」のクレジットで、国連のイゲランド 人道問題調整官が、「核実験実施に対する制裁措置が議論される場合でも、あらゆる 人道支援に影響を与えないよう」語り、「北朝鮮でこの冬に餓死者や凍死者が出るよ うな事態は避けるべきだとした上で、各国に人道援助を引き続き実施するよう呼び掛 け」たとあります。その「人道援助」の申し出が、同日付のさらに別の記事で、国連 世界食糧計画(WFP)のジャンピエール・ドマルジェリ平壌事務所長により、まだ 目標の10%しか集まっていないと訴えられているのです。そして、11月16日(木)の APEC外相非公式朝食会の席上、「北朝鮮の住民の飢餓と人道状況に留意する」意 見が表明されたと、日本外務省が明らかにしたと報じられています(「赤旗」11月17 日(金)付第7面)。1か月経っても、何も事態が改善される方向に向っていないとい うことでしょう。
たしかに、国連安保理決議1718は、核兵器関連物資や資金・人物と、贅沢品の
移転に制裁対象を限定し、日常食糧や医薬品等を除外していますが、それは「関係諸
国が決定」する権限を留保しているものであり(決議第9項柱書)、その認定手続の
期間を含めて、いわば各国の裁量でどうにでもなりうるものです。さらに、「国連安
保理決議1718の趣旨によりいっそう協力するため」と称して、日本のように「追
加制裁」を便乗的に決めることだって、大っぴらにできる大義名分を、1718は与
えました。
それに易々と、日本共産党が「乗って」しまったことは、安倍政権に不当に誘導さ
れている国民世論向けの「バスに乗り遅れない」パフォーマンスとしてはよかったか
も知れませんが、これら一連の問題に対する根本的態度として考えると、非常に残念
に思っています。