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「共産党の理論・政策・歴史」討論欄

国民はだまされている、でいいのか? 潤さんへ

2006/11/24 原 仙作

 全文を読んでいただいてありがとうございます。
 いろいろな論点が述べられていますが、あの投稿で私が問題 にした唯一の主題は、『共産党宣言』のドイツ語版序文にある 修正文(パリ・コミューンの総括)を不破がどのような仕方で 「改造」と解釈し直したのか、ということです。
 ですから、あの投稿への批判は、まずもって、この主題につ いての私の考察への批判であるべきです。不破を擁護するのな らば、まず不破の文献解釈の仕方とその解釈の結論を擁護する べきです。そこまでの議論では、私はレーニンの解釈が正しく 、不破の解釈はトリックを使った誤った解釈だと言っているの です。

 「だから、どうしろというのだ」というのは、あまりに 性急な議論です。その答えをあの投稿に求めても最初から答え は書いてないのです。古典の解釈問題から、一挙に現在の政治 情勢で共産党がとるべき政治姿勢、戦術をあれこれ議論できる はずもないのです。問題の次元がまったく違っています。です から、私が他の投稿で民主党とも選挙協力をしろと述べている ことを持ち出してきて、あの投稿のことをあれこれ言っても、 議論が混乱するばかりになります。

 そこで、潤さんの一番の関心事である「だから、どうし ろというのだ」ということ、こちらの方から考えてみることに しましょう。 潤さんは次のように述べています。

「今の情勢において重要なのは、他党派との協力共同を探るこ とも大事だが、共産党 自身の力を強めることが最も重視されなければならないと、私 は、思っている。」

 今の情勢においては共産党の力を強めることが最も大事だと 述べているわけですが、共産党の力を強めると言ってもいろい ろあります。①党員を増やすこと、②新聞を増やすこと、③多 くの大衆運動を進め、影響力をもてる大衆団体を増やすこと、④ 職場活動を強めること、⑤党員の理論的力量を高めること、⑥支 部の活動を活発にすること、⑦未結集党員をなくすこと、党費 未納をなくすこと、⑧市町村議会議席を増やすこと、⑨国会議席 を増やすことなどなど。
 これらのもののうち、①~⑧は、党の力量を強めることがその まま共産党の政策を実現させる力になり、議席を増やす力にも なりますから「自党第一主義」(仮にこう呼べば)で、その時 々の政治情勢や他党派の動向におかまいなくドンドン進めてい いということになります。どの政党もやっていることです。

 しかし、⑨だけは、ことは簡単ではありません。小選挙区 制のもとでは、非常に強く政治力学とでも呼ぶべき独特の政治 機能が働きます。共産党だけの選挙戦と他の野党とくむ場合の 選挙戦では、与党へ与える影響が違ってきます。小選挙区制の もとでは、野党が組んだ方がバラバラで戦うより与党の議席を 減らすことができます。与党としては野党がバラバラで戦って くれた方がありがたいということが生まれてきます。
 共産党の「自党第1主義」の選挙戦術が、小選挙区制のもと では中選挙区とはちがって、特別に強く、他のある党には有利 に、またある党には不利に働くのです。現在の自民党と民主党 の政権争いの下では自民党に有利に働いています。このような 政治力学の作用がありますから①~⑧の場合のように「自党第1 主義」でドンドン元気にというわけにはいかず、慎重に選挙戦 術を考えてみる必要が生じてきます。
 共産党の選挙戦術が他党派に及ぼす結果まで考慮にいれて選 挙戦術を考えなければならない必要性が生じてきます。「自党 第1主義」の選挙をやったら、自民党にいい思いをさせてしま ったという結果になるのでは、共産党が目指す政策の実現は遠 のいてしまい、何のための「自党第1主義」の選挙戦術だった のかということになります。

 そこで、?の場合は、他党との協力も視野に入れず、「自 党第一主義」で全小選挙区立候補戦術でいくというだけでいい のかどうかが慎重に検討されなければなりません。その検討に あたってポイントとなるのは二つあるでしょう。どちらが自党 の議席を増やせるのかということと、どちらのほうが自党の政 策を実現しやすいのかということです。
 ここまでくれば、その決定にあたっては、現在の政治情勢や 各党の戦力を考慮しなければなりません。現在の政治情勢は教 育基本法の改正案や防衛庁の国防省への格上げ問題、国民投票 法案などで争われており、全野党の国会内共闘も行われていま すが、安倍総理が5年をメドに改憲を実現したいと言っている ように、ゆくゆくは改憲問題が政治情勢の中心問題になってく るはずです。来年の参議院選と次の総選挙が勝負所になります 。
 そこで政治情勢の最重要問題になってくる改憲問題に焦点を あてて、共産党の採るべき選挙戦術を具体的に考えてみなけれ ばなりません。改憲問題では共産党は改憲阻止になりますから 、どちらの戦術が議席を増やし改憲阻止に役立つかを検討して みなければならないはずです。

 まず、単独で戦う場合です。共産党は、来年の参議院選 では単独で、全小選挙区に立候補させて1議席増をめざしてい るわけです。改選5議席を6議席にしようとしている。1議席 は増えるかも知れないが、改憲を阻止するのに有効かというと 、現実にはほとんど有効性が認められない。仮に自民党から1 議席奪っても111から110議席へ減るだけです。これでは 1議席増やしたものの改憲の推進力である自民党にほとんど打 撃をあたえることができず、改憲阻止にもほとんど有効性がな いということです。選挙に負けずに健闘したというだけのこと です。
 先日の衆議院補選神奈川16区では昨年の総選挙比で得票数 が55%減(各党の中で最高)となっていることを考えれば、 1議席増どころか東京選挙区の議席を失い1議席減と予想する 方が現実的な情勢になっています。投票率が下がれば、堅い基 礎票を持つ共産票の減少が一番少ないはずなのに一番多くなっ ているという、これまでには見られなかった現象が起きている のです。

 昨年の総選挙では共産党は改選議席を守ったものの巨大 与党が生まれ、今では国民投票法案が国会に上程されている有 様です。自民党の大勝を小泉がうまかったとか、マスコミが応 援したからだとか、あるいは民主党がだらしがないからだと言 って済ますわけにはいかず、共産党を含めて野党各党がそれぞ れに反省しないわけにはいかないでしょう。自民党の大勝で、 現実に、共産党が望まない改憲の動きがドンドン強まってきて いるのですから、次の選挙ではそうはさせない共産党なりの工 夫が必要になっているといえるでしょう。
 同じ選挙戦術で2000年以降、5回の国政選挙で共産党は 議席を増やしていないのです。この事実はその原因をよく考え てみなければならないことを教えています。「国民は決して馬 鹿ではない。必ず見破る日が来る。」という潤さんの信念には 敬意を表しますが、信念だけでは選挙戦に勝利することはでき ません。敗北の原因を明らかにし、それを是正する選挙戦の方 法を考えてみなければならないのです。

 そこで、今度は、他の野党と組む場合を考えてみましょ う。主力の民主党が全野党の協力を主張しているので、これに 協力する場合です。この場合は民主党を中心に1人区、2人区 で自民党を20議席ほど減らすことができる可能性が出てきま す。
 この可能性が実現すれば自民党を参議院で過半数割れに追い 込むことができるうえに改憲を公約にした安倍政権を退陣に追 い込む可能性さえ生まれてきます。参議院で自民党が過半数割 れを起こすと、もう、法案はほとんど成立しなくなりますから 、解散総選挙の日程がいやでも早くなってきます。今度は巨大 与党を激減させるチャンスがやってくるわけです。
 全野党の選挙協力ですから、共産党も他の野党の協力を得て 3、4人区で1議席程度は当選させられるかも知れません。現 職の緒方の議席を東京選挙区で確保できる可能性も高くなるで しょう。2000年以降、議席を減らし増やすことのできなか った選挙戦術を変えるのですから、共産党の評価が多少とも見 直され、比例区の得票も増える可能性も出てくるでしょう。
 共産党の議席を増やすという点でも、改憲阻止に有効かどう かという点でも、野党の選挙協力の方が単独で戦うより数段す ぐれているということになるのじゃありませんか? 

 ①~⑧の場合ではなく、⑨の国政選挙の場合、潤さんが言う 「今の情勢において重要なのは、他党派との協力共同を探るこ とも大事だが、共産党自身の力を強めることが最も重視されな ければならない」と言うのは間違いではありませんか? ①~⑧ までにあてはめる場合はただしい。しかし、⑨にあてはめると 間違いになると私は思うのです。
 「他の野党との協力共同を探ること」と「共産党自身の力を 強めること」とは矛盾するものではありません。①~⑧の共産党 自身の力を強めることを最も重視しながら、国政では他党派と の協力共同を探ることも可能なはずです。⑨の場合は、あれか これかではなく、「他の野党との協力共同を探る」ほうが単独 で議席を増やすことより、改憲阻止に有効で、重要なのではあ りませんか? 議席の点でも、むしろ、他の野党と協力した方 が増える可能性が高い。
 「だから、どうしろというのだ」ということへの私の回答が これです。

 このように言うと、いや、自民党と民主党は「同じ穴の むじな」なのだから、どっかで手を結んで大連立でもして改憲 を通しちゃうよという返事が返ってくることが共産党員には多 いのです。つまり、そうした選挙協力しても結局無駄だから、 独自に議席を増やした方が「かたい」というのです。
 しかし、大連立はひとつの可能性にすぎません。そうなるか もしれないし、ならないかもしれない。どうなるかわからない 可能性を大連立になると決めつけて、現在の戦術を決めるのは 間違いです。現在の現実から出発して戦術を考えるべきです。
 小沢民主党は政権を目指しており、そのために全野党共闘も 呼びかけている。この事実からすれば、自民党と大連立して改 憲を通す可能性は少なく、仮に小沢民主党が第1党になれば、 野党の連立政権になるのであって、改憲の第1推進力・自民党 は下野となり、改憲日程は大幅に狂う可能性の方が高いのです 。
 また、双方が伯仲すれば争いは激化し、容易に妥協しにくく なります。民主党にしてみれば、政権に手が届きそうになって いるのに何で与党に助け船を出す必要があるのかということに なります。昨年の郵政民営化法案では、解散になると言われな がら、民主党はみずからも郵政民営化に賛成でありながら、自 民案を否決する態度を貫いています。だから、基本政策が同じ だからと言って、そう簡単には大連立にはならないのです。

 あるいは、また、民主党と選挙協力するのは基本政策が 違うからできないとか、「右翼社民」政党とどうして選挙協力 ができるのかという議論も共産党員からでてきます。
 弱小政党が単独では自分のめざす政策を実現できないからこ そ、他党との協力で、少しでも自分のめざす方向へ政治を変え 政策実現に肉薄する必要があるわけです。少しでも良くなった 、変わったと言える実績を少しずつでも作り出す必要がありま す。

 目の前に改憲の危機がひたひたと押し寄せてきているの ですから、それこそ「猫の手」でも借りるべきでしょう。私に 言わせれば、「社民」だろうが、「右翼社民」だろうが、「右 翼」だろうが、誰であろうと、改憲阻止に有効ならば助けを借 ります。なぜ、それで悪いのでしょう? 
 そうした工夫をせずに、当選するあてもない候補を全国に立 て「共産党が伸びれば日本が良くなる」と言い続けても、いつ までたっても良くなる気配がないのでは、国民はもう共産党の 言い分には耳を貸さなくなります。共産党の言い分を聞いてい ては、さっぱり政治が変わらないから、ここは民主党に投票し て、とにかく政権交代を起こそうというのが、有権者の大きな 流れになっているのです。

 潤さんは「国民は決して馬鹿ではない。必ず見破る日が 来る。」と述べていますが、この言葉の意味をよく考えたこと があるでしょうか? この言葉は、将来、国民はだまされてい ることを見破る日が必ず来るが、現在は、国民はだまされてお り馬鹿だとも言っているのですよ。
 だから、この信念の表明と、現実の共産党の実践、戦術への 無反省がワンセットになってしまうのです。信念の表明はいい のですが、なぜ正しいはずの共産党が5回も連続して国政選挙 で議席を減らす一方で増やせないのか、その原因を考えてみる 必要があるのではありませんか? 
 国民はだまされていると、議席を増やせない原因を国民に押 しつけているだけでいいのですか? 改憲の危機はひたひたと 押し寄せてきているのですよ。
 どうか、議席を増やせない原因を他者に押しつけずに、自分 の方にも原因の一端があるのではないかと考えて、共産党の選 挙戦術などをいろいろな側面から再検討してみてくれませんか 。