日本社会は平和的な志向が強い国民性を持っている。しかし、これは長所であると同時に弱点となっている。オープンな公開の討論・競争で意見や利害の対立・葛藤を克服する事が苦手な民族となっている。「付和雷同」「事なかれ主義」「根回し経営」「談合」「肩書社会」。公開の議論、平和的な戦い、公正な競争で、問題の解決を計るのが、苦手な民族になってしまった。公正で公開の議論を通じて、「合意と真実」に到達する、と言う作業に苦手な民族となっている。
こうした、日本社会の遅れた構造は日本の左翼運動に端的に現れた。全共闘運動に現れた内ゲバは、その象徴的な姿である。意見の相違を暴力と忠誠心で克服する性向の表現である。地方の首長選挙が、いまだに、自社公民対共産という対決図式がまかり通っているのも、対立・葛藤を嫌う国民性を表現している。全世界の社会主義運動の中でほとんど破産した「民主集中制論」をいまだに維持しているのも、この国民性の表出である。
筆坂氏が自分の意見を公開すれば、それは「裏切り」であり、「脱落」であるとなる。これは、党中央の「神聖」化した官僚的な利益への裏切りであり、この利益に隷従すべき党員の義務からの脱落に過ぎない。階級の民主的な利益を裏切っているのは党中央であり、本来の民主的な社会主義運動から脱落しているのは党中央である。
筆坂氏の意見に全面的に賛成する訳ではないが、この本を読んだからと言って、共産党を嫌いになる者は、それほど多くはないだろう。なぜなら、今日までの共産党の異端者排除の歴史が、彼の議論をすでに証明済みである。むしろ、国民が求めているのは、こうした共産党の秘密主義・非公開主義の改革である。党中央に意見の相違があるのは当たり前であり、その相違が無いとしたら、党中央は思考停止状態にある事を意味している。筆坂氏はこの当たり前の事実を公開した訳である。この当たり前の事実を知って安心した支持者も数多くいるのじゃないかと考えるべきだ。意見の違いを公開したら、「裏切り・脱落」となったら、この党の未来は北朝鮮の金正日体制と同じ運命しか待ち受けていない。
かつて、芝田進午氏は共産党の自主独立路線を高く評価し、同時にこの自主独立は、組織の原則であるべきじゃなく、一人一人の党員の原則であるべきだと語った。こうした芝田氏の考えは、どのように解釈しようと民主集中制論とは両立しない。党や党派の枠組みを超えた自由で民主的な討論と運動なしには、左翼の再生と統一は有り得ない。ペンネーム「レオン・トロツキー」の「レオン」はライオンの略称だそうである。羊は何百頭集まってもライオンには勝てない。社会主義は労働者階級を奴隷階級から開放し、人間をライオンにする思想である。民主集中制論は、人間をライオンではなく、再び羊にする組織論である。民主集中制の下では、ライオンは一匹以上は産まれないし、例え、存在できたとしても、羊の皮をかぶっていなければ存在できない。
我々、日本人は、この国で何らかの変革と言うものを目指すなら、この国の過去の偉人達が、新しい時代を目指して、どのように成功したか?、どのように失敗したか?教訓として考える事は、極めて重要である。明治維新は素晴らしい革命であった。この革命を主導したのは、長州藩の「群雄割拠」である。長州藩は左右に分かれて激しいイデオロギー論争を繰り返した。この長州藩の対立・葛藤が日本全土を揺り動かした。この時代のイデオロギーや対立図式を今日の日本にそのまま適用しても、何も産まれない。しかし、ルネッサンスの時代において見られるように、群雄が割拠する時代こそ、新しい時代が創造される時代である。党や党派の枠組みを超えて群雄が割拠し、公開で公平な討論を開始することによって、新しい社会主義運動を創造出来る。
明治維新においては、例え雄藩であったとしても、200余あるうちの2つの藩でしかなかった長州藩と薩摩藩の同盟が、日本全土を揺り動かし、新時代を切り開いた。統一というものが、かくも大きな政治的威力をこの国では発揮した。薩長の同盟が、薩長土肥となり、全国の雄藩を引き付けた。何よりも、この同盟は、日本の変革を願う全国の下級武士と豪農・商人を励まし、日本全土で変革への嵐を惹起した。世界にも類例のない「えいじゃないか」という大祭典は、こうした嵐の中から産まれた人間開放の叫びである。何でも統一すれば良い、と言う訳じゃないが、過去のシガラミをあげつらって、馬鹿馬鹿しい喧嘩を繰り返す左翼の姿は、日本の変革を願う国民を極めて萎縮させている。国民のためではなく、自分のための戦い、これが国民を左翼嫌いにしている最大の原因である。
カオス理論によれば、人間世界の未来は予測不可能である。ちょっとした人間の羽ばたきで、人類はどこに向かうか解らない、と言う。人類は何十回も自殺できる軍事力を抱えている。この軍事倉庫が、蝶の羽ばたきでいつ爆発するか誰も解らない。地球環境問題も同じである。どんな学者も、技術者も解決の糸口を見え出せないでいる。他方では、大量の飢餓人口を抱えている。北朝鮮の軍事優先経済と同じような世界構造で、今日の人類は生きている。緊急の改革が必要な国は、北朝鮮の国民だけじゃない。この国は世界第二の経済大国である。それにふさわしい国際的役割と責任が求められている。広範な国民の要求に根差した左翼の統一、これはこの国の、緊急の課題である。
えいじゃないか!、えいじゃないか!!、えいじゃないか!!!
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