投稿する トップページ ヘルプ

「現状分析と対抗戦略」討論欄

村上ファンドと格差社会

2006/06/13 音重子 30代 給与生活者(連合系労組役員、社会市民連合代表幹事)

 先週は村上ファンド事件がマスコミを騒がせました。

 皆様も御承知のとおり、村上容疑者はインサイダー取引の容疑です。 インサイダー取引とは、「株価の変動に影響を与える内部情報を得て、 取引により利益を上げようとすること」と、定義できると思います。

 しかし、村上ファンドのような大きな資金を動かして、株価を吊り上げる ファンドの行為とは「インサイダーまくり」なのではないか?否、村上ファンド に留まらない。他のファンドもそうです。

 どういうことか。例えば村上ファンドが、ある会社の株を大量に買います。 それを嗅ぎつけた一般投資家も、村上に続けと、わっと、群がるかも しれません。上がったところで、村上は株を売却する。(一挙に売ると ばれて、暴落するので少しづつかもしれない。)。

 そもそも、村上ファンド自身が株を買うこと自体が「株価に影響を 与える内部情報」ではないでしょうか?今回はホリエモンが株を買う という情報を知っていたからお縄、となっただけです。

 情報の非対称性がある中では、実は、市場原理主義者の言う状況は 成り立たない。公正な市場などできっこないのです。あるいは、別の 言葉でいえば、プライステイカー(市場で決まった価格を受け入れるしかない人。 小口投資家)しかいない状況を暗黙に想定している、アダムスミス的な 市場原理主義は破綻している。大口の取引を認める限りは、そうなのです。

 政府は、無責任に「貯蓄から投資へ」などと煽り立てるべきでは なかった。株式市場とは、大口取引を抜本的に規制するなどの 措置を取らない限りにおいて、「株式市場はインサイダーまくりの 不公平な場だ。それでもあなたはやりますか?」くらいのことを 言わないと無責任です。

 さて、村上ファンドのような人がぼろ儲けしたからといって、どうなるのでしょう? 「成功者を妬むな」などと、総理は言っています。これは暴論です。 ただ、感情論の応酬では不毛です。

 なぜ、いけないか?それは、ズバリ申し上げれば「村上容疑者と その部下が、儲けた金をある程度使い果たすほど豪遊しないから」なのです。

 もし、村上容疑者とその部下が、儲けた金で豪遊しブランド品を 買い漁れば、実体経済にお金が還流します。それにより、モノは売れ、 雇用も生み出されます。失業者も多少は救われるでしょう。

 しかし、村上容疑者は、儲けた金は、更なる投機に使いつづけた。 ここが問題です。そもそも、村上容疑者の金の出所は、投機市場に 流れ込んだお金です。投機市場になぜ大量にお金が流れ込んだか?

 それは実体経済からお金が引き上げられたからです。小泉政府の 経済政策のおさらいをしましょう。

 小泉政府は、中小企業から、お金を引き上げるという貸出政策を 銀行に取らせました。いわゆる不良債権処理です。

 また、労働の規制緩和を行い、リストラを加速。非正規雇用を 増やした。女性では過半数、若者でも半数近くがパート、派遣、 請負などです。かくて、賃金は引き下げられた。一部企業は それにより儲けたが、しかし、国内の景気が伸び悩んでいたために、 投資は国内ではあまりしなかった。結果としてお金がだぶついて しまった。国は国で、社会保障を抑制したり、公共投資を カットしたりして財政を引きしめ、これが、不況を招き、 余計に、お金が行き場を失った。

 行き場を失ったお金がアメリカに行き、投機による原油の値上がり を招いたり、村上ファンドなどに逆流して、おお暴れしている わけです。ここが問題の本質です。

 村上容疑者がいくら豪遊に励んでも、なかなか実体経済の貨幣不足を 埋めるのは難しい。豪遊している隙に大損しかねないので、無理でしょう。

 現実問題、だから、一人にお金が集中するような政策はNGなのです。 一人一人の所得を上げ、それにより、それぞれが、成熟社会に ふさわしい、「質の高い消費生活」をしていただくことが、人口減少 社会にも突入した日本の採るべき道です。それにより、そのうち、 あるいは、フランスのように出生率が回復するかもしれない。 (ただし、少子化対策などと言って大上段に振りかぶる必要はない。) ただでさえ、人口減少で経済への需要不足になりかねないのに、村上容疑者 のような人が独り占めしたのでは、ますます事態は悪化するのです。

 国際競争力がどうのこうのというが、それなりの所得がある人は少々 高くても、環境や労働条件に配慮した商品の購入という意識をもちえる。 そこに活路を見出したい。日本人の意識は高いが、所得が低下して 実行できないだけの人も多いと思います。

 政府・大蔵省(財務省)は、少子化で日本経済は駄目になる、財政も駄目になる、 だから、増税だ、歳出削減だと国民を脅し、今も脅しています。そして、 中央官僚による統制を強め、交付金カットなどで地方を締め上げている。 その結末が、村上ファンド事件でもある。政府が、お金を借りて使うことは 合理的なのです。ただ、使い方が問題なだけです。官による独善的な 決定ではなく、民主的制御に基づく財政支出をしていけば良いのです。 「公」を市民が作っていかねばならない。口で言うのは簡単だが 市民も勉強しなければいけない。

 そして、もう一つは、お金持ちに対して増税してよい。財産所得の 分離課税などナンセンスです。総合課税でよい。

 一方で、堅実に実業に設備投資する企業には、補助金を出せばよい。 労働条件、男女共同参画などを満たす企業には優先的に公共事業や 業務委託を発注すればよい。

 あるいは、地域で市民が環境や福祉などの市民的事業 にお金を融資するような仕組みを作るのも良い(市民バンク)。 そうなると、ある種の生産手段の社会化、市場経済を活かした社会主義と いうことにもなります。スターリン主義的中央集権とは反対の民主的・ 分権的経済システムです。

 ともかく、今、我々がすべきは「貯蓄から投資」「官から民へ」ではなく、 「投機から実業へ」「官から公へ」の改革こそ進めねばならないのです。