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「現状分析と対抗戦略」討論欄

「ママは大臣・パパ育児」を今読む

2006/07/30 音 重子 30代 給与生活者(連合系労組役員、社会市民連合代表幹事)

 三井マリ子さんの「ママは大臣・パパ育児――ヨーロッパをゆさぶる男女平等の政治」(明石書店)を読みました。著者の必死の現地取材に基づいた、1995年の著作ですが、今でも通用する問題提起がなされていると感じました。

 EUでは、その前身の前身のECC発足時から男女同一賃金をローマ条約で規定。公正な競争条件を設定するという文脈でもあるそうです。そして、女性が議会に少ないことを「民主主義の赤字」と規定しこれをなくせという運動を、EU機関である男女平等機会局でキャンペーンを行っている。日本でいえば、内閣府が総選挙のとき「女性議員を増やしましょう」と呼びかけているようなものです。こうした女性議員を増やそうという動きの背景にあるのが、条約批准に国民投票が必要なこと。女性の視点がないままの条約では通用しない。EUによって、せっかく築き上げられた福祉を削られてはたまらないという女性の思いを無視は出来ない。そういうこともあります。EU議会には女性の権利委員会がある。

 各国レベルでは、それぞれ特色ある男女平等、とくに政治への女性進出促進政策を取っていることが紹介されています。男の顔を女の顔に取り替えたベルギーのポスター。同国は警察でのセクハラ問題の解決などにも成果を挙げている。

 そして、デンマークでは、若干26歳の女性党首。この背景も実は単なる男女平等というだけでなく民主主義の徹底という理念があるのだと感じました。まず、若者が政治に参加しやすい環境がある。政党の青年部が盛ん。中高生でも政治活動は当たり前。件の党首は、大蔵官僚とのかけもち。それが可能な勤務時間体制。そして、国会議員に当選しても、その後は、職場に戻れる。なぜなら、みんなに奉仕する役目だから。立候補したら職場を辞めないといけない今の日本とは大違いである。

 その代わり、欧州では、欧州議員でも威張ることはなく、一般人と同じように一人で飛行機に乗るし、普通のタクシーを利用する。地方議員はほとんどボランティアです。自治がしっかりしている。

 ノルウエーでも、一般の人が、EU加盟の是非について気軽に参加し立場を明らかにして運動している。凄いことです。そして、この本のタイトルである、「ママは大臣、パパ育児」が起きた。もちろん、収入も保証されているからできることです。

 全体を通じて感じたのは、民主主義の分野でも、生活点でも生産点でも、使い勝手の良い制度設計を心がけている。そのことが結果として女性の地位向上をもたらしている。そこが根底的な日本との違いだと思います。日本は世界でもっとも理想的な憲法を持ちながらそれを活かす制度設計が出来ていないのです。

 日本は、雇用形態の多様化を呼号しながら、実際は、企業が労働力を使い捨てにするためです。その弊害が、各企業で士気低下、人材育成の遅れなど、噴出しています。人々から選択肢を奪うまねをしておいて、少々児童手当を増やすことや、小泉さんや安倍さんに従順な女性議員を増やすことが男女共同参画、少子化対策などという日本はまさに羊頭狗肉です。

 本書が出た1995年から、日本は長期のマクロ経済低迷、地域経済の崩壊、そして格差拡大に直撃されました。あるべき改革は、老若男女ともに、自由に人生を送れる社会への改革であったはずだ。それが、何故か、「失業する自由」「フリーターに甘んじる自由」しかないような社会にしてしまった。どこで我々は間違えたのか?

 お上に少しでも異を唱えることがいかにもおかしいような風土があり、それがむしろ、強まっている。旧来あった批判勢力の野党・労組でさえ、今度は小泉さんによって「抵抗勢力」に仕立て上げられ、それに若者や女性が多く溜飲を下げてしまっている。古いものをぶっ壊すように見えて実は単なる権威主義なのではないでしょうか?憲法「改正」の国民投票法案も、ノルウエーでのEU加盟の是非の投票とは違い、極めて国民の自由を縛る内容となっており、民主主義とは似てもつかぬものです。

 野党側も、女性を大事にしている姿勢は見せるが、中央集権的な組織体質、公開での議論が起きにくい組織体質などがある。本書にもあった、フィンランドの社民党女性部長が造反して保守だが女性で人権感覚が優れている候補を推した、ような状況とは、大違いです。

 保革どちらにしても権威主義的色彩が濃い。それを根底から是正していかねばならないでしょう。

 今、この本は、今再び、皆さんにも是非一度目を通していただきたいと思います。そのうえで、どういう経済政策、財政政策などを採るべきかも含め、総合的な議論を起こしていきたいものです。
http://www009.upp.so-net.ne.jp/mariko-m
三井マリ子さんWeB