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「現状分析と対抗戦略」討論欄

展望なき展望

2006/09/18 千坂史郎

 最近民衆の中から始まった運動がある。広く護憲を認める政党団体の共闘をはかる「平和の風」運動は、全国に広がる九条の会以上に、政党政治の迂路を打開しようと、政党を問わぬ政党人や市民団体、心ある個人が結集した運動である。岩波の「世界」は、編集長岡本厚自らもメンバーとなり、この運動を紹介している。その際に問題となっているのは、共闘を拒む日本共産党中央の対応である。

 今が剣が峰であることを承知しているかいないか。共産党は、憲法が改悪されても生き延びる団体となることを考えている、という批判にはくみしないけれども、いまこの時期を逃すと、完全にブッシュのアメリカのような社会に陥ってしまうだろう。イギリス・ブレア首相はついに引退した。ブッシュも次は共和党かどうか懸念しているかもしれない。そんな国際情勢のもとで、小泉亜流の政治家では、とても国際政治で名誉ある道義ある日本を建設できるわけがない。

 日本共産党は、戦後最大の岐路を迎えている。民衆のための党派になりうるか。党派の論理に埋没して党勢を衰弱させて消えていくか。私見によれば、その岐路は統一と共同の戦略を明示できるかどうかにかかっている。現在の日本において、「市民の風」が意見交換と議論のために公開したメーリングリストに加入して、毎日送られてくるメールを読んでいる。その数は、半端な数ではない。一日に、仕事帰りにパソコンをひらくと、数十通の市民の風のメールで読みきれないときもある。その議論は、実に活発な個性的見解が多い。

 自民党のインターネット広告対策を担い、総裁選では安倍晋三の広告を担当している世耕議員は、宣伝戦略のつぼを心得ている。それは、ナチスが大衆向けに心理戦を重視したときを連想させる。巨額の費用は大手広告代理店による前回の自民党圧勝の衆院選でも効果がためし済みである。そのような巨大なイメージ戦略に抗するには、規模は小さくとも、闊達な意見交換や議論の澎湃としたやりとりが野党側におき、国民がいまいちど無力感の呪縛から解放されねばならない。野党の日本共産党が、社民党とも連携し、民主党の反安倍政権の小澤一郎戦略をよく見極め、市民団体の動きにも胸襟をひらいて対応すること。それだけの大局的見地を持つ政治的度量の深さを発揮することが重要なのだ。それによって、閉塞から、しだいにねじれた国粋主義の熱狂によって、鬱積するやりきれなさを解消しはじめている国民の心理を、いまいちど正当な政治的回路の社会心理へと軌道修正させることが可能であるかもしれない。現に沖縄県知事選は、いったん分裂しながらも、ついに野党六党の共闘体制が樹立され、統一候補が決まった。沖縄に学び、真の展望を確立してきたいものである。