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「現状分析と対抗戦略」討論欄

いつか来た道ーーー浜口総理から軍国主義・小泉総理から安倍総理

2006/09/22 さとうしゅういち 30代 社会市民連合副代表・広島瀬戸内新聞経済部長(連合系労組組合員)

 いつか来た道。18日は満州事変勃発65周年でした。

 小泉政権が退陣し、安倍官房長官が週明けにも総理という情勢の中で考えたいことです。

 小泉総理は、浜口総理に似ていると思います。というより、小泉総理は構造改革を同じように強行した浜口総理に自らをなぞらえていました。

 小泉総理は、不良債権処理加速化を強行。結果は、本来つぶれなくてもよい企業を多くつぶしてしまった。最近の「景気回復」も「株価上昇」も「構造改革」のおかげでは毛頭ない。「回復」は、巨額の為替介入(ドル買い円売り)と、金融緩和によるものです。金融が緩和されても、銀行は、あまり国内企業には貸さずにアメリカや欧州などの海外の債券を買った。おかげで、円は2004年以降、対ドル、ユーロで、次第に安くなっていった。それにより、一部の輸出企業は救われました。

 それに、労働の規制緩和による、非正規雇用拡大が可能になり、労働力の使い捨てが大きく広がった。それを反映して、2004年までは一本道で雇用者報酬は激減しました。むろん、低金利のおかげで銀行が助かったのは言うまでもありません。

 また、日本人が海外の債券を買ったのと引き換えに円を得たアメリカ人が大挙して2003年夏以降とみに日本の株や土地を買占め、東京を中心にバブルを起こしたのです。これは、2003年6月のりそな銀行への公的資金投入が発火点でした。いわば、それまでは、日本の株を不況で暴落させておいて、この公的資金投入をきっかけに、「バブルのスイッチ」をオンにした。外資が群がり、安値だった日本株を拾い、その後の株価上昇につながった。決して構造改革のおかげではなく、従来型の公的資金投入こそが、株価回復の原動力だったのです。中小企業を苦しめておいて、外資を儲けさせるためには湯水のごとくお金を使う。そんないい加減な経済政策だったのです。

 副作用も大きい。内需があまり伸びない中で、円安に振れてきた。とくに対ユーロでの下落が著しい。そうした中で原油価格上昇とのダブルパンチで、輸入原材料が値上がりしている。それが、価格転嫁のしにくい中小零細企業と、そこで働く労働者を直撃し、ひいては「ワーキングプア」を増やす背景となっています。もちろん、マスコミでも最近は盛んに取り上げているように労働の規制緩和に伴う貧困層の拡大も著しいわけです。

 一方の浜口総理は、配下の井上準之助蔵相(竹中大臣に相当)に指示して金解禁を断行。
 これは、いわば、円を実力よりも高いレートで、ドルに固定するというものでした。それに備えて、中小企業の整理などを断行することをあわせて実施。しかし、それは当然、大デフレを招きました。そして、一部の銀行が円の切り下げを見越してドル買いでぼろもうけ。右翼に反発を買いましたが、とにかく、一部の金融資本の利益になったという意味では、小泉改革と酷似しています。

 浜口総理は、軍縮も断行したために、右翼の凶弾に倒れます。その後、人々は、もはや中国を侵略する以外に活路はないと思い込んでしまいます。
 また、浜口時代に「挙国一致」の雰囲気がかもし出され、お上に逆らいにくい雰囲気となっていた。こうしたことが、結局その後の軍国主義につながり、最終的には、悲劇的戦争に突入したのです。

 小泉総理は、靖国に参拝すること、中国・韓国との緊張を高めることで、保守的な人々、また本来構造改革で苦しんでいるはずの若者などの不満を逸らしました。
 竹中大臣は、小泉さんが辞めることが確定した時点でそそくさと政界引退を表明し、矛先を避けようとしているように見えます。巧妙に、自分たちが狙われるのを避けたという点で、小泉さんは浜口総理より狡猾と言えます。
 竹中辞任については、以下の記事が秀逸。 http://mewrun7.exblog.jp/4174970

安倍総裁の危険性

 そして、安倍さんです。安倍さんの経済政策は、小泉さんよりマシだと評価する人もいます。しかし違うと思う。誰があとを継ぐにしても、小泉さんの無茶苦茶を後始末するには現実問題、路線修正するしかない。そもそも、これだけ人口の高齢化が進み、子育てへの支援なども課題となる中で「小さな政府」や「官から民」へがそううまくいくはずはなかったのです。どれもそれなりに官の役割を拡大せざるをえないはなしです。誰がやっても、そうなる話です。いつかは無理が来るのです。

 だから、安倍さんを評価するのは間違いだと私は思います。

 安倍さんのやろうとすることを突き詰めると内政的には「国家社会主義」です。言い換えれば中国や北朝鮮のような政治的な体制。一方、経済面は、小泉路線の修正はしてくるでしょう。
 それが良く見えてしまうとすると、大変な落とし穴にはまることになります。本質的には対米従属、戦争協力への流れは変わらない。靖国や従軍慰安婦などの歴史認識で、当然アメリカとの軋轢は出てきますが、アメリカとしても、安倍さんがアメリカの敷いた路線から逸脱しない限りは大目に見るでしょう。

戦前の反省に立ち野党奮起を

 ただ、やはり、野党側が考えなければならないのは、どうして戦前、あんなことになったのかへの反省です。やはり、軍部の中国侵略に活路を求める国家ビジョンへの対抗が弱かったことです。今も、人々が安倍さんにすがりつくような情勢にしてはいけない。

 きちんと、根本から、安心してくらせる社会のためにはどうすれば良いか?

 上っ面ではなく、根源的に小さな政府というものがナンセンスではないかということを突いていかねばならない。微修正ではなく根本的転換を迫らねばならない。

 「官から民へ」は間違いであり「官から公へ」=(公共サービスに市民による民主的なコントロールを反映させたものにする)こそ正しいのではないか?その上で、教条的な護憲とか、増税反対ではなく、政府のあり方、それを実現する税制のあり方を議論し示していくべきではないかと思います。

 例えば、もっと税金を累進課税にする一方で年金は思い切って保証し、医療や教育も無料に近くするとか、そういう方向。各種控除については、サラリーマン増税反対と教条的に言う前に、低所得者に有利な、手当て制度に切り替える(育児手当て、介護手当て、家事労働手当てなど)。

 経済で言えば、財界の法人税率減税論に対して、中小企業に手厚い投資への補助金を対案として提示する。

 環境か、経済かの不毛な議論ではなく、環境を改善しつつ経済も改善するような道を考えていく。資源・エネルギーの投入を減らしながら、経済の質を高めていくなど、いろいろネタはあります。

 そして、公共サービスをよりよくするという意味では、女性の政治参加の促進、ずばり言ってしまえばクオータ制を野党が正面から掲げるべきではないかと思います。

 教条主義的反対では一定の議席は得られるでしょうが、安倍政権を倒すには力不足ではないかと思います。そして、今、安倍政権を倒しておかねば、国民を大変な不幸に巻き込むことになりかねない。