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「現状分析と対抗戦略」討論欄

中川幹事長の地元から安倍政治を批判する

2006/10/21 さとうしゅういち 30代 社会市民連合幹事長・広島瀬戸内新聞経済部長(連合系労組組合員)

 安倍総理は、経済成長を優先させる政策をとることを表明しています。私の知っている、小泉さんに批判的だった人でも、「小泉さんは、財政再建を叫んで経済を成長させず、結局国の赤字(=国債残高)も300兆円増やしたが、安倍さんは、成長させてくれそうだ。」と期待する人もいます。

 たしかに、小泉さんと竹中さんの経済政策は、「回復」のかけ声とは裏腹に、雇用の99%を占める中小企業は依然良くない状況であり、財政状態も却って悪化した。「成長重視」を掲げる、安倍さん、彼の側近中の側近の中川幹事長に期待する気持ちもわからないではない。

 しかし、本当に安倍さんの政策は正しいのか?広島県内の市議や、企業経営者らに取材した結果は疑問でした。

 安倍さんは、設備の減価償却期間を短縮することを打ち出しました。これにより、設備投資により、法人税が以前より大幅に減免されるために、設備投資がしやすくなる、というのが安倍さんの主張です。

 また、安倍内閣初の経済財政諮問会議では、法人税率を引き下げるべきという要求が、経済界出身議員から出たと言うことです。(13日付各紙ネット版、翌朝朝刊より)。

 しかし、これは、まず、中小企業の多くにとってはありがたくはない。多くの中小企業はそんなに儲かっていないか赤字でひいひいです。そもそも法人税も納めていないのに、「減税」されても、意味はない。

 そして、そもそも設備投資さえできない企業もある。広島県中部のある伝統ある天ぷらやさんは、償却期間切れの機械でもなんとか操業して、おいしい半平は、評判でした。しかし、設備を更新することは無理である。このてんぷらやさんは、区画整理で移転せざるを得なかったとき、廃業を余儀なくされました。その機械は動かせば使い物にならないからです。

 ここまで極端でなくても、「時代に追いつくために設備投資はするけど、素材の値上がりもあって、従業員のボーナスにも事欠く」などの声が多い。

 それを裏付けるように、2001年からの3年間で全国の企業数は470万から410万に激減しました。(2006年版中小企業白書)。

 竹中金融担当大臣(当時)が、「生産性の低い企業から生産性の高い企業にお金を移せば景気が回復する」という理論で不良債権処理加速化を行ったことも追い打ちをかけています。これでは、結局、大手企業に勤める正社員と、多くの中小企業労働者の格差も広がるばかりです。

(その「勝ち組」でさえも、今年の春闘でも基本給は上がらず、ボーナスで調整されるだけが多く、長時間労働にも負われて本当に「勝ち」かどうかは疑わしい。)

 広島でもその例外ではありません。ただ、広島が違うのは、とくに東広島を中心に、大手企業の誘致に成功していることです。しかし、多くの税金をたとえば東広島市は投入している結果です。
http://www.janjan.jp/area/0608/0608260115/1.php

 一応の税収などの成果は上がっている。しかし、増えた雇用は非正規雇用でした。筆者の取材中も、フリーター風の男性多数が、ぞろぞろと、大手半導体工場行きの会社専用バスに西条駅前から乗るのを目撃しました。これが今後、10年、20年と持続可能かと言われれば大変、疑問です。

 これを全国化しようと言うのが、実は安倍政治ではないか。実は、東広島市は、安倍さんの側近中の側近、中川幹事長のお膝元です。経済通を自称する中川さんが、そういう経済政策を経済が得意とは言えない、安倍さんに教えている(筆者も総選挙中に、中川さんがそういう政策をビラなどで訴えているのをよく知っています)のでしょう。

 今後も、地方交付税や地方の公共事業が絞られる可能性はある。法人税減税の財源捻出のためにです(安倍さんは消費税増税に消極的なため)。そうなると、ますます自治体は大企業誘致頼みに走るでしょう。あるいは、庶民の所得税を増税しかねない。既に小泉政権下で法人税は1.4兆円減り、所得税は3.9兆円増税になっている(14日朝日新聞朝刊)のに追い討ちをかける形です。

 だが、これはいつまで持続可能かはわからない。全国の自治体が安倍(実際は中川)政治、東広島型の政治をやりだせばどうか?大手企業は笑いが止まらないでしょう。

 しかし、労働者を使い捨てにするので、消費が伸びず、内需は増えない。長期的には、使い捨てにされた若者は、家庭も持てず少子化も進むであろう。所得税増税が、消費に水をかける。そういう中で、経済の需要が低迷する。そうすると、企業の投資もそのうち頭打ちになる。少ない投資を多くの自治体が、税金を投入して奪い合い、結局余りお互い成果が上がらず共倒れ、下手をすれば第二、第三の夕張市を生みかねない。

 小泉さんと言い、安倍さんと言い、結局、「国際競争力を上げないと日本が沈没する」「財政が危ない」と人々を脅し、小泉さんは、不良債権処理加速化と公共投資カットなど緊縮財政を主張した。安倍さんは強硬な財政再建路線は掲げないことはまだマシに見えるが実際は、持続可能性の少ない「東広島型政治」を全国化する。路線は大して変わりません。

 日本経済の問題点は、需要不足であるのに、間違った処方箋で症状を悪化させる。小泉さんの処方箋を、反核平和運動をしているような高学歴の人の一部まで信じ込んでしまっている。「このままではだめだ」と言うのはよいが、その方向が、小泉・安倍的な経済政策を後押しする方向になってしまっている。

 そんな風潮につけ込んで、社会の荒廃を、若者の「無気力」やフェミニズムのせいにして教育基本法「改正」や復古的女性議員を使ってのジェンダーバッシングに走っているのが小泉さん以降の自民党の本質です。

 需要不足の大きな原因は格差(貨幣の偏在)である。大手企業にこれ以上お金が貯まっても、それが投資に回るかと言えば、内需が不足している以上は回らない。

 大手企業が銀行に預けたお金は、融資に回るかと言えば、金融庁の厳しい指導と預貯金の決済性預金へのシフトにより、中小企業に貸しにくい。むしろ、換金性の高い国債やアメリカの債券、あるいは、村上ファンド的な投機に回る可能性が高い。そうした構図の中で儲けたお金持ちも、儲けたほどは豪遊することは物理的に不可能です。しかも、99%の人を雇う中小企業が四苦八苦では消費も伸びるわけがない。

 この構図をあらためない限りは日本経済の浮揚は難しい。

 日本は名目GDPはこの10年間でほぼ横ばいですが、EUは、約1.4倍になっています。そのEU諸国は、日本よりも税負担は高いが、しかし、ちゃんと日本企業は商売をしています。そこに市場があって儲かれば、少々税金が高くても、企業はいるのです。
http://www.janjan.jp/government/0607/0607288683/1.php

 政府は、安心して、格差是正に踏み込むべきである。「再チャレンジ」など小手先ではない対策を求めます。「チャレンジ」など大仰なことをしなくても、「それなりにまじめに働けば、暮らせる社会」で何が悪いということを言いたい。否、昔のほうが、開業率ははるかに高かった。景気を良くしさえすれば、チャレンジする人も増えるのです。

 労働者にきちんと人間らしい暮らしを保障すること。法人税率は下げずに、むしろ中小企業に手厚い投資補助金や、地域経済浮揚に役立つ公共投資を行うこと。社会保障を充実させること。その代わり、投機を中心とした所得税課税は強化すればよい。安倍さんが行おうとする法人税減税は、景気が良くなった場合に、税収の上昇が鈍くなり、財政再建にもマイナスです。

 国民新党を除く野党やリベラル知識人らの中にも、公共投資アレルギーは依然根強いが、東京の大手企業ではなく、地域の企業を潤わすようなものならむしろ積極的にすべきであろう。ステレオタイプな旧来自民党政治批判、公務員批判から脱却して、正面から「効率的で大きな政府」を言わないと骨太ではなく、安倍さんに対抗できない、ひいては、憲法「改正」の動きにも対抗できないと思います。