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「現状分析と対抗戦略」討論欄

いまこそ政治的「勝ち癖」つけたい日本人

2007/10/19 さとうしゅういち 30代 連 合組合員、社会市民連合事務局長、一応民主党員

 日本人は、

 1、政治家や行政が、「庶民にとって不利益に見える」こと を強行しようとするとき、「それなりに」反対運動を熱心にや ると思います。

 あるいは、

 2、「庶民の利益になること」を制度化しようというとき、 結構熱心にやるとおもいます。

 あるいは

 3、「庶民の味方になりそうな政治家」を当選させることに は、とくに地方自治体レベルでは結構熱心にやります。

 日本の民主主義はそう馬鹿にしたものではないのです。

 1の例は、1960年安保反対闘争。1980年代末の売上 税反対闘争。21世紀に入っても、イラク派兵反対闘争などは 「それなりに」盛り上がった。

 2の例で言えば、男女雇用機会均等法(女性たちは「雇用平 等法」)を求めた70年代後半以降の闘争。90年代には、高 齢化が進む中、介護の社会化を求めた闘争。

 3の例で言えば、70年代の革新自治体、90年代以降の改 革派の首長(田中康夫さん、秋葉忠利さん、橋本大二郎さん、 浅野史郎さんら)を選択するなど、「当時としてはそれなりの 選択」を国民はしてきました。

 ところが、「結果」が出てしまうと、その「既成事実」に対 して、とたんに日本人は賛否や、その改良についての議論しな くなってしまう悪癖があるように思います。

 「良い結果」が出たときは、「慢心」してしまい、「悪い結 果」のときは、「しょうがない」ですませてしまう。別に一般 国民だけでなく、左翼やリベラルと呼ばれる人たちの「えらい 人」にもそういう傾向が強くあるのです。左翼やリベラルの人 も、地道にやっている人も多くおられるが、一方で、スローガ ンを空虚に掲げ、アリバイ的な運動に終始してしまっている例 も散見されました。

 「しょうがない」発言の久間防衛大臣は、実は少なくない日 本人の悪癖を代表しているに過ぎないとも思えるのです(むろ ん、庶民の酒場での与太話ならともかく、国務大臣がそれでは 困るのですが)。

 1に対して、政府や政治家が法案や行政行為を強行してしま ったら、運動が下火になるという例はよくあります。多くの国 民はリベラル派も含めて関心を失い、あきらめる。左翼政党も アリバイ的に綱領などに「**反対」は掲げても、本音はあき らめてしまう。「コアの当事者や支援者」だけが孤軍奮闘、と いうケースも結構あります。

 2についても、たいてい、政府が譲歩しながら、実際は不十 分な法律にしてしまう。「均等法」などは良い例です。コース 別人事は是認され、抱き合わせの労基法改悪で有期雇用なども 活用されるようになり、男女役割分担が温存される元凶を残し ました。しかし、労働組合なども、口先とは裏腹に取り組みは 遅れ、労働者の分断は進み、いまや、非正規雇用が広がる状況 になってしまったのです。介護でも、結局、コムスン事件や、 介護の過酷な労働実態が明らかになるまで問題は放置されまし た。

 3については、せっかくいい知事、いい市長を選んでも、選 挙以外では、市民の動きが鈍く、市長が孤立してしまう、とい うケースが結構あります。官僚や、ヤクザまがいの議会議員ら のによりいびられ、孤独を余儀なくされる首長も多いのです。 私自身もえらそうなことは言えず、秋葉広島市長に対して、も っと支えるべきなのに、自分自身何も出来ていないと自責の念 にかられていました。

 1-3の結果、経済・外交での「アメリカへの従属」と、内 政での「強きを助け弱きをくじく」政治が進行したのです。

■参院選後の政局が覆す「既成事実」

 しかし、このたびの参院選後の政治の動きは、ことの賛否は 別として、「既成事実」をひっくり返すということができるん だ」ということを日本人が学ぶ絶好の機会になったのではない でしょうか? 「政治的白星」をいくつか挙げているからです 。

 与野党逆転の参議院。自民党は野党の同意なしに法律は通せ ない。さりとて野党第一党の民主党も国民新党や社民、共産の 直接、間接の協力がなければ、国会運営も次期総選挙もうまく いかない。

 絶妙の状況です。

 まず、そうした中で、「テロ対策特別措置法」が、期限切れ 確実で、自衛隊が撤収しなければならなくなる。政府は、新法 案を17日閣議決定しましたが、絶対に間に合いません。

 これにより、11月1日から、国会の力で自衛隊を撤収させ た、初めての例が実現するのです。軍事面では新ガイドライン が制定されてからのこの10年間、対米従属の一途をたどりま したが、初めて「国会の力」で、「対米従属」が後退するので す。

 そして、今や、国際協力のあり方をめぐり、

 1、アメリカ従属&後方支援を戦争ではないと言い張る自民 党
 2、国連中心で、とりあえずは、民生支援中心の民主党

 という選択肢ができています。

 そして、民主党を、残りの野党3党(国民新党、社民党、共 産党)が、叱咤激励するという構図になっているのです。

 むろん、福田政府も、生き残りのため、農業では余剰米の買 い上げ、障害者自立「支援」法抜本見直し、後期高齢者医療制 度見直しなどを、打ち出さざるを得なくなりました。たとえ、 それが、ネオコンを温存する意図であっても、「国民生活にと っての白星」です。

 農業切捨て、障害者いじめ、高齢者いじめという「既成事実 」がひっくりかえりつつあります。

 「しょうがない」とあきらめていた人々を覚醒するのではな いでしょうか?

■野党は「下からの視点」で自民党との違いを

 もちろん、野党は慢心してはいけない。それはもちろん、な いとはおもいます。自民党に対して、違いを押し出していくべ きです。

 同じように緊縮財政をやめる方向では一緒であっても、自民 党と野党の違いは何か?

 自民党のそれは「えらい人」が、対米従属政策をそうはいっ ても緩やかにでも進めるため、自民党が生き残る必要がある。 そのためには与党からの「恩恵」として、「バラマキ」を行う 。こういうことではないでしょうか?

 一方、あるべき野党の政策は、そうではなく、「権利の保障 」としての福祉なり社会保障なり、地域政策です。そして、国 民と政府が情報公開と参加により、課題意識を共有し、緊張関 係の中でつくっていくということを重視していかねばならない と思います。

 あるいは、人々が参加することで、個人個人の事情を大事に したセーフティネットをつくっていくということが可能になる 。そういう方向での政策ではないでしょうか?

■国民が「勝ち癖」をつけるチャンス

 国民も、もちろん、少々、福田さんがソフトだからと言って 、油断してはいけない。一方、野党に対しては腰砕けにならな いよう叱咤激励が必要である。

 政治家にどんどん物申していくべきです。今は、国民こそが 「キャスティングボート」を握っているのですから。

 最後に日本国憲法の条文を掲げます。

 日本国憲法

 第12条
 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努 力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、こ れを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のために これを利用する責任を負ふ。

 今までの日本人の少なくない部分が、左翼リベラルも含 め、往々にして「負け犬根性」、言い換えれば星野監督が就任 する前の阪神タイガースのような根性が染み付いてはいなかっ たか?それではだめだ、ということに、とくに地方の有権者が かなり気がついた(実際は、2003年衆院選ごろから「地方 の反乱」が起きていました)のが、先の参院選であるわけです 。

 昔は経済一流、政治三流といわれたが、政治三流では経済( 暮らし)もどんどんだめになるということが、分かってきたの です。

 昔の革命家のように、あまり成功の見込みがないことでも、 突き進んでガンガンやれということを、多くの人々に要求する のはあまりに酷です。それでは人々はついてこないし、ご本人 たちも「ドンキホーテ」になりかねない。

 そうではなく、これからは、多くの人が、少しでも政治にお ける「勝ち癖」(=投票に行ったり、政治家に何か言えば、暮 らしが少しでも変えられるということを知ること)をつけて、 自信を取り戻していくのが近道ではないか、と思います。

 「白星は良い薬」です。

 今こそ、「勝ち癖」をつけるチャンスです。