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「現状分析と対抗戦略」討論欄

公的住宅の充実を!

2007/10/26 さとうしゅういち 30代 サ ラリードパーソン(連合組合員、社会市民連合事務局長、一応 民主党員)

 日本人が、豊かさを感じられない理由は何か?

 その、ひとつは公的な住宅政策の貧困です。住居費に多くの 費用を特に東京近郊の人は取られてしまうことです。

 昔から言われていたことは、全然改善していないと思います 。最近では、親の家から出ない人を「パラサイトシングル」な どと罵倒して、住宅問題を「個人の責任」にしてしまっている のですから事態が改善しないのは当然です。

 平成16年全国消費実態調査は以下のように伝えています。

http://www.stat.go.jp/data/zensho/2004/hutari/youyaku.htm

「●平均消費性向は住宅ローンのある世帯が74.0%。住宅ロー ンのない世帯が84.0%。平成11年と比べると,それぞれ0.6ポ イント,5.3ポイント上昇と住宅ローンのない世帯の上昇幅が 大きい。」

 ローン負担が人々の消費を押さえ込んでいる様子がわかりま す。ローンによる負担でそもそも消費が押さえ込まれてはいる が,伸び率まで押さえ込まれているのです。

以下のデータもあります。

http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2270.html

「次ぎに住宅費であるが、日本の住宅費は25.6%と、北欧の諸 国、すなわちスウェーデンの29.6%、デンマークの28.0%を除 くと最も高くなっている。もっとも欧米先進国では2割を超え る国が多く、途上国のタイが8.7%、インドが11.3%と1割前 後、あるいはスリランカが3.6%と小さいのと対照的となって いる。」

 たしかに私が訪問したノルウエーでも,住宅価格が高く,農 村地帯の「普通の別荘」に見える住宅が1億円します。しかし ,北欧の場合は教育費が無料である,介護などのせーー不ティ ネットもしっかりしている,などの要素が大きいので,住宅に その分,「金をかけられる」のです。

 そして,最近、またインフレ傾向の中、庶民の住宅事情に暗 雲が垂れこめてきました。

■過剰なマイホーム主義に苦しめられる日本人

 さて、日本では、過剰なマイホーム主義が人々を苦しめてい るのです。

 おそらく、これには、日本人を政治的におとなしい存在にし ようという意図もあったかも知れない。「人々はローンを抱え るとモノをいいにくくなる」と60年安保などを見せ付けられ「 革命」を恐れた自民党幹部は思った。このように私は、固い自 民党支持者の大学教授から本音をうかがったことがあります。

 また、大手企業も、若手には社宅を供給、ついで企業内で住 宅資金融資(公務員は共済組合、大手企業は企業内労組が担う 場合もあるが実質会社による企業内福祉)を通じマイホーム取 得を後押し。

 これは、従業員には有り難いようにみえたが、実は会社が労 働者を大人しくさせる政策だったともいえる。ローンを抱え、 また妻が専業主婦ないし低賃金という男性社員は管理されやす かった。

■パラサイトシングル、親との同居はやむなし

 今でも若者は親から独立しないと「パラサイトシングル」な どと批判されます。

 しかし、公共住宅政策が不十分な中ではやむをえないのでは ないか?

 むしろ親と同居し費用を浮かし、内需拡大に貢献しているの が彼ら彼女らではないのか?

■土地代が日本経済のブラックホールに

 住宅はたしかに重要な内需項目です。経済発展をひっぱてき ました。昨今の格差拡大で住宅を買いたくても買えない人が多 いのは問題です。

 しかし、小泉さんによる「改革」が始まる前からある,ここ 数十年の構造問題を指摘したい。住宅を買う場合日本では土地 代に多くが消えます。

 そして土地代を得た土地の売り主は、たいてい代金を溜め込 み消費しません。ご先祖様にいただいた金だから使えない、と いう日本人特有の感情はあるのでしょう。

 また、土地を大規模に売る人はたいていお金持ちですが、そ ういう人はもともとお金を溜め込みやすい。したがって,とく にバブル経済期以降は,住宅費用は内需拡大への波及効果は薄 い。

■住宅増やしてもゴーストタウン増やすだけ

 だいたい、人口はこれから減るのだから、下手に新たに独立 してもゴーストタウンが増えるだけです。現にニュータウンが オールドタウン、ゴーストタウンになりかかっている笑えない 実態が広島近郊でもあります。

 パラサイトシングルや,結婚してからも親と同居すること経 済合理性にも環境にもやさしく,大いに結構です。

 むろん,親の家を継げない人も多くいる。個人ごとにいろい ろな事情がある。足りない住宅は、どうするか?低所得者に対 しては,国や自治体がそれこそ,無料ないし廉価で住宅を貸せ ばよい。中間層に対しても廉価でそれなりの賃貸住宅はできな いか?

 空いている国有地や公有地などいくらでもあります。そこに 賃貸住宅を建てればよい。あるいは空き家を国が買い上げるな り,斡旋しても良い。地域によっては「空き家NPO」などもあ りますが,公的なサポートも必要です。

 私が思うに,「日本人が金を吸い取られる」二大ブラックホ ールは,「土地代」と,日本の大手企業が輸出代金で買って持 ち続ける「アメリカ国債」です。

 この二つは日本人が稼いでも稼いでも豊かにならないゆえん です。

 これらのお金がきちんと世の中に出回ったら、景気も回復し 、財政赤字などすぐ減ります。

 そのためには、住宅政策の充実も必須です。

■地方主権の徹底を

 そもそも、みなさんもご存知と思いますが、東京の地価が高 いのは、異常な東京への人口の集中があります。

 その根本は地方に地域でお金が循環する地場産業を育てるこ とに不熱心だったためです。国が公共事業のための起債を地方 交付税で面倒を見る政策を取ったために、東京の大手企業ばか りが儲かるような大型事業を優先したのです。

 その結果、若い者は東京に出る。親と切り離される。核家族 状態で、仕事も子育てもせざるを得ない。地方で、親との同居 率が高い地方圏のほうが、女性も仕事につく率が高いし出生率 が高いの派良く知られています。私の地元の人でも、フルタイ ムで働いたら子どもの相手までは出来ても、火事までは十分出 来ないから親に頼ってしまう、と女性も男性も言います。東京 では仕事はあるが、男女共同参画度も出生率も低いことを、先 般の日本女性会議で学びました。

 だから、地方に産業を興し、分散して住むようにする。親と 住むことも選択肢として選びやすくする。もちろん、先ほど述 べたような廉価な賃貸住宅を供給するのも、子育て支援を充実 させるのも当然です。

 本当に、本腰を入れた、総合的、多角的なアプローチが必要 です。

 地方に産業を興すには、もう、地方に財源と、それから、権 限を思い切って渡すしかないと思います。そしてその地域その 地域にあった政策を取っていけば良いのです。

 地方分散は東京人のためでもあるのです。そのこと自体は、 (私は他の政策は賛成できないものが多いが)石原慎太郎さん でさえもよく理解しているのです。だから、関東地方知事会も 、減らされた地方交付税の復元を求めているのです。大問題な のは、庶民感覚のない国政の自民党政治家でしょう。

■国民生活復興のため焦眉の急

 くどいようですが,2001年以降,小泉さんが内需を押さえ込 んだ。このために,企業やお金持ちの余剰資金が投機に流れた 。日銀の低金利に便乗し,円を低コストで得たアメリカ人や中 国人も日本の土地を買い占めた。そのことで,地価がまた上が っている。

 「ブラックホール」はさらに巨大化しています。そうではな く,住宅政策を見直し,内需を抜本的に拡大する(国民の暮ら しを豊かにする)議論をすべきです。

 生活の三要素として衣食住と言うとおり、「住」も大事です 。「食」がいま、食品の安全問題や価格急騰で、危うくなりつ つある。住も危うい。本気になって政治家は取り組むべきです 。

 ただ、二世、三世で、しかも庶民感覚がかけている議員が多 くなった自民党にそれが可能とは私は思いません。自分たちは 、親から継いだ地盤や家屋敷に載っているのに、庶民をえらそ うに批判しています。

 とくにネオコン的な議員の方々は、核家族化して他に頼れな い若い人々に「子どもをもっと産め」「女性は家に」などと叫 ぶだけで、何の有効な解決策も持ちえていません。低所得の過 程で今、子どもをたくさん産んだ上に女性が働かなかったら下 手をすれば一家で飢え死にしてしまうでしょうに。もちろん、 だからこそ、自民党は参院選で「KO負け」したのです。

 野党が私はきちんと取り組むべきだと思います。もちろん福 田さんも住宅政策は掲げておられますが、今の自民党の構造の 中でどれだけのことができるか疑問です。世論を喚起するとと もに、きちんと福田さんに、生活復興のための住宅政策を強い ていくことを期待します。