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「現状分析と対抗戦略」討論欄

小沢続投論は敵の”折り紙付き”だ。共産党は惨敗の危機にある。

2009/4/4 原仙作

1、はじめに
 共産党(jcp)執行部による小沢批判は相変わらず盛んで、今では記者会見で「こういう悪質なことはこれまでにない」(志位講演、「時事通信」配信、3月29日)とまでエスカレートしているようである。検察の異常な捜査=小沢秘書の逮捕劇をjcp浮上のチャンスとばかりに、事態を単純にとらえたjcp執行部の愚かさ、政治情勢認識の誤りがjcpを重大な危機に陥れている。
 その危機に夢にも気づかず、jcp浮上の機会とするべく、唯一政治献金にクリーンなjcpと訴える志位や小池晃の意気軒昂ぶりはドン・キホーテさながらであるが、悲喜劇を通り越して、日本の政治もjcpの運命も重大な局面に遭遇していると言うべきである。
 かつてマルクスは、重大な政治的な事件が起こるたびに、歴史という煉獄の炎で諸党派を試すと言っていたが、政権交代を前にした小沢秘書の逮捕劇もその一つであり、jcpもその業火にさらされている。

2、jcpの支持率はこの1ヵ月、増えていない
 jcp執行部のやり方(小沢批判一辺倒)は、一見して、jcpの支持率を上昇させる効果が少ないようにみえる。”漁夫の利”を手放しで喜び、はしゃぎまわっている様子がありありとわかり、国民の沈鬱な気分とはかけ離れているからである。
 まず、この間の世論調査を見てみよう。小沢秘書の起訴直後の調査を小沢秘書逮捕直後の調査と比較すると、jcpの支持率は、朝日新聞では3%と変わらずである。日経新聞の場合は4%から5%へと1%上昇(朝日も日経も小数点以下四捨五入の数字)、共同通信の調査では逆に3.3%から1.5%に半減している。
 各社とも1000人前後の回答者数であり、支持者数が少ないぶんだけjcpの支持率にはばらつきが見られるが、3社の増減率を平均するとjcpの支持率は横ばいないしは若干の減少傾向さえ示しているのである。
 jcpの政治情勢認識やその思惑からすれば、唯一政治献金にクリーンなjcpは大きく支持率を伸ばしそうなものだが、なぜ、思惑どおりにならないのか?

3、jcp支持者の大半は政権交代論者である(1)
 jcp支持者の政治意識の特徴をみると、比例はjcp、小選挙区は最有力野党候補(民主が中心となる)というように”戦略投票”をするような政権交代論者が多いのである。一昨年の参議院選直後に行われた党創立85周年記念講演で、志位が女性のメールを紹介したように、熱烈なjcp支持者でも”戦略投票”をしているほどである。
 彼らの政権交代論は小沢の政治資金問題があっても変わることはほとんどない。彼らの交代論は腐敗した万年与党である自民党政権を忌避する感情から生まれているのであって、民主党の魅力に基礎を置いているわけではないからである。
 その政権交代論者からみれば、志位らの小沢批判は政権交代に不利に働き、麻生政権に有利に作用すると判断されるのであって、支持者のjcp離れを促進する原因となる。jcpは自党の浮上作戦優先、党外の支持者は政権交代優先と、”政治戦略”の相違が明白となり、jcpの小沢批判は政権交代優先派を攻撃しているからである。
 「共同通信」の調査結果に表れたjcp支持者の半減はjcp離れの表れと見ることも可能である。参考までに「共同通信」の調査で社民党を見ると1.2%から2.2%へと1%のアップとなっており、jcp支持票が社民党へ流れていることを示唆している。

4、jcp支持者の大半は政権交代論者である(2)
 また、jcp支持者以外からjcpに投じられる票はこれまでの世論調査では他党支持者より無党派層のものが多いのであるが、この無党派層でもjcpに来る票は政権交代論者が多数派なのである。
 というのは、小沢秘書の逮捕以前の調査である2月7、8日の「共同通信」の世論調査では民主党中心の政権を支持する割合が55.3%と過半数を越えていたからである。自・公支持者が3割程度あるから、自・公支持者以外の7割の国民のうち、その8割近くが政権交代支持者なのである。jcpに投じられる無党派層の大半が政権交代論者と見なしうる根拠がここにある。
 実に、自・公支持者以外の8割近くが政権交代支持であるという事実の持つ意味は非常に大きい。日本の政治史上、画期的なことが起きているという事実を押さえておくことが、今回の国策捜査への対処法を考える上で最も基本とするべきことなのである。
 2007年の参議院選の場合で言えば、比例票440万のうち、8.6%(約100万票)が無党派層からのもの(5中総)であった。そして彼らにあっても、政権交代の必要性は小沢事件のあるなしにかかわらない。彼らの場合にも、jcpの小沢批判は政権交代にマイナスに働くと複雑な気持ちで受け止められているのであって、ここにもjcp離れの芽があることになる。

5、民主党支持率の減少分は自民へ回帰している
 世論調査の民主党の支持率でみても、小沢秘書逮捕直後と起訴直後では民主党の支持率はほぼ維持されている。朝日では22%から20%へ、日経では35%から30%へ、共同通信では27.4から28.4%へ1%増えている。民主党のこの間の若干の減少分はjcpに流れたわけではなく、自民党支持の増加となっている。自民党の支持率は朝日では5%増の27%、日経では1%減の33%、共同通信では1.1%増の29.7%となっている。自民党の増加分は旧自民党支持層で民主党へ流れた有権者の自民回帰とでも把握していいであろう。

6、世論調査が教えるjcpの危機
 いずれにしても、jcpの小沢批判キャンペーンで民主党に流れた旧jcp支持層がjcp支持に回帰しているという兆候は見られず、jcp支持の増加はほとんどないのが世論調査が教える現状である。検察の捜査は民主党に打撃を与え自民党に有利に作用したという結果が調査に現れており、jcpの小沢批判は捜査の政治的影響を促進するだけで、支持者増大に結びついているわけではない。
 世論調査に現れたこれらの事実は、小沢批判一辺倒のjcpが重大な危機に際会していることを教えている。第一は、その批判がjcpの支持率増加には結びついていないこと、第二はjcp支持者の政権交代優先論に冷水を浴びせjcp離れを引き起こす原因をみずから作っていること、第三は、jcpの批判が検察の異常な捜査(国策捜査=政権の暴挙)の応援団となってしまっていることである。
 小沢秘書逮捕という政治劇の展開次第だが、国民の検察批判が高まることになれば、jcp執行部の今回の”方針”、すなわち、国策捜査に便乗した「確かな野党」路線の復活は07年の参議院選以上の打撃をjcpに与えることになる。

7、小沢秘書の逮捕・起訴は国策捜査である
 では、国民の検察批判が今後、盛んになるかどうか、その可能性を検討してみよう。第一は今回の小沢秘書の逮捕劇の真相はどこにあるのかということである。
 今回の小沢秘書の逮捕・起訴という検察の捜査は、政治資金規正法によるこれまでの捜査の常識を覆す”異常なもの”であることが検察OBらの発言でも明確になっている。政治資金規正法による立件は「裏献金」、すなわち献金隠しが通常であり、政治団体の寄付であろうが企業献金であろうが、政治団体からの寄付の出所が企業であるかどうかを寄付を受領する政治家が認識していたかどうか(今回の検察が主張する容疑)も含めて、政治資金収支報告書に記載のある「表献金」は立件してこなかったのである。だから、これまでの検察の立件基準からすれば、小沢への西松からの献金は問題にならなかった。立件対象献金額も3500万円と、従来の目安1億円からはほど遠い。
 「表献金」まで立件すると、捜査の公平性(法の下の平等)という要請からすれば、政権側にある有力政治家(二階だけに限らない)を軒並み立件しなければならず、また、自民党の資金管理団体「国民政治協会」に流れる経団連会員企業の献金29億円(07年度)の中にある”ひも付き献金”(特定の政治家あての献金)も”迂回献金”、虚偽記載として捜査・立件しなければならないことになる。
 そういうわけで、検察の物理的な捜査能力ばかりでなく、自民党全体が大混乱に陥るという政治判断などにより、「表献金」は立件しないという政治資金規正法の運用を検察はおこなってきたのである。この従来の運用を東京地検特捜部はみずから踏み破っている。
 また、立件の時期が問題で、衆議院選間近で政権交代が現実味を帯びてきている時期に、政治的影響があまりにも大きくなることが確実に予想できる時期に行っている。この時期の選択も検察の捜査の政治的中立性という社会的要請を踏み破っている。
 検察の三重のルール破り、すなわち、政治資金規正法による立件・運用ルール、捜査の公平性というルール、政治的中立性というルールを検察みずからが踏み破っているという”異常”捜査が今回の特徴なのであって、この異常捜査を政権交代を妨害する政治的ねらいをもった”国策捜査”と言わずに一体何と呼ぶのか。
 東京地検特捜部の「青年将校化」というような議論も奇をてらった”木を見て森を見ない”話であって、国策捜査説の一変種にすぎない。

8、今回の国策捜査はわかりやすい
 今回の小沢秘書の逮捕劇の真相は”国策捜査”ということにある。したがって、この逮捕劇は麻生政権が仕組んだ政治犯罪とみるべきなのである。検察もまた国家権力機構の一部であり、政権交代という現実性を前に、政権からの独立という検察の正義の拠り所を放棄したものなのである。
 検察が国策捜査で野党第一党の党首の政治生命を絶ち、政権交代を妨害できるということになると議会制民主主義は成り立たず、腐敗した万年与党が出現することになる。かくも重大な民主主義の危機なのであるから、国策捜査批判は国民の間で盛んになる有力な根拠をもっている。
 しかも、検察の異常捜査ぶりは、説明すれば国民誰もが理解できるわかりやすさがある。その意味では政権交代派が効果的な工夫を凝らす”知恵”と熱意さえあれば、政権の危機を促進する材料に転換することも十分可能である。

9、政権交代論はすでに国民の多数派である
 検察批判を盛んにできるかどうかを測る第二のものさしは、国民の間にある政権交代論の強さの程度である。「共同通信」の2月の世論調査では55.3%が政権交代に賛成であったことをみると、この現象は戦後政治史の一大画期とみるべきものである。すでに述べたが、この数字は自・公支持者以外の8割の国民の声と読み替えるべきなのだ。
 国民の政治意識の内部では、すでに政権交代が行われており半世紀にわたる自民党政治の終焉が生じているからである。政権交代派は自信を持っていい。それほどの事態であるからこそ、政権側の常道ともいうべき禁じ手=国策捜査という反動的暴挙も誘発されたのである。

10、政権交代論の経済的背景(1)
 この55.3%の政権交代支持率の経済的背景をさぐると次のようになる。
①、バブル崩壊後の1994年以降の低金利政策で失われた庶民の預貯金の利子の損失197兆円(1993年利子率基準、福井日銀総裁(当時)の参議院・財政金融委員会発言、2007年3月22日)、この損失分のほとんどが借り入れ主体となる企業の利子負担の軽減分となる。
②、1989年以来の消費税総額が213兆円、法人3税の減税総額182兆円(ともに「赤旗」2009年2月15日付)となっている。
③、小泉政権成立以降の2002年から2007年までの定額減税の廃止等による庶民増税額約50兆円(「赤旗」2009年2月20日付)となっている。
④、厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」(平成18年)によれば、一世帯平均の年間所得金額は1996年の661万円から2005年には563万円と約100万円の減収となっている。減少率は実に14.8%になる。同「毎月勤労統計調査」では、従業員5人以上の事業所の賃金は2001年の26万3882円から07年の24万9755円となっており、減少率5.4%である。正規労働者層でも賃金の減少が進んでいる。
 他方で、労働生産性については、財団法人・日本生産性本部の調査(「労働生産性の国際比較」2007年版)では、実質労働生産性の伸び率が2001年~2005年平均で1.8%と先進7カ国中の第2位になっている。この間、仕事の能率は上がったが賃金は増えておらず、労働分配率も下がり続けていることになる。

11、政権交代論の経済的背景(2)
⑤、国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、給与所得が年間200万円以下が1032万人(2007年度)、総務省の労働力調査(2008年10~12月期)をみると「非正規労働者」数が1796万人で全労働者に占める割合は34.6%となっている。
 非正規労働者の人数と割合をここ20年の期間で見ると、1990年の817万人(非正規)/3452万人(正規)=19.1%、1995年の1001万人/3779万人=20.9%、2000年の1273万人/3630万人=25.9%、2005年の1591万人/3333万人=32.3%、2008年の1796万人/3390万人=34.6%となっている。
 1990年頃までは20%前後で安定して非正規労働者の割合がバブル崩壊後に増え始め、2000年以降に急増し10年足らずで10%近くも増加している。④で述べた一世帯平均の所得が14.6%も落ち込んでいる理由のひとつは、世帯に低賃金の非正規労働者を抱える世帯比率が増えているからである。
 ⑥、ゼロ金利─円安─輸入品価格上昇という経済関係で庶民が失った所得は膨大であり、逆に円安で大企業の輸出品は低価格に抑えられて輸出競争力が増すことになった。輸出主導型の経済構造がいつまでも変わらないどころか、逆に強化されて世界恐慌という事態が波及する中で、先進国中、日本のGDPは最も落ち込みが激しくなっている。
 長期にわたるゼロ金利政策は、海外のヘッジ・ファンドなどが利用するところとなり、いわゆる「キャリートレード」として日本の国富がアメリカに流れることになり、ハイリスク・ハイリターンの投資に回されサブプライム・ローンや株式市場、原油相場等に投じられ、アメリカの株バブルや住宅バブルの大きな要因となったことはよく知られている。今ではそれらの崩壊によって金融恐慌、世界恐慌として日本にも逆流し、自動車産業の急減産が始まり、すそ野にある中小部品工業は仕事を失い「派遣切り」が横行、失業率の増加、新卒採用の抑制と、不況に突入する事態になっている。

12、政権交代は今でも実現可能である
 これらの経済指標をみると、バブル期の経済への打撃から回復するために、自民党政府はGDP(約500兆円)に匹敵するほどの巨費を庶民の懐からむしり取り、なおかつ非正規という雇用形態を急増させて賃金を抑え、そうしてその巨費を大企業の復活政策に投入したのである。 
 この極端な大企業偏重の金融・財政・経済政策のために、庶民生活は全体として苦境に陥りつつあることが政権交代論が多数派となった経済的背景である。それにくわえて、医療制度や介護制度などの社会福祉制度の財源カットで制度を荒廃させ、社会のセーフティ・ネットを破壊したこと、また、年金記録の乱脈管理や政府要人のスキャンダル等、政府と官僚の、総じて国家機構全体の腐敗が国民の目にさらされたことが政権交代論をさらに押し上げているのである。
 今では大企業と国家機構の周辺で生活する者以外は、皆、自民党政治の被害者なのであって、その被害はあまねく日本全土に広がっている。かくて、政権交代論は小沢秘書の逮捕・起訴程度の”でっち上げ”では覆し得ないほどの堅固さを持っていると見て良いであろう。
 小沢秘書の逮捕程度で政権と官僚の巨悪事を帳消しにすることはできない。1対100の取引をする馬鹿はjcpの不破や志位ら執行部以外にはいないであろう。

13、再び、小沢続投か否かについて
 しかし、相手には第4の権力とも言うべき大手マスコミがついており、麻生政権の走狗となって反小沢キャンペーンを繰り広げていることを重視しなければならないだろう。小沢逮捕劇の犯罪をいかに国民に理解してもらうか、その工夫が政権交代を実現する前段の国民的課題となって浮上している。
 しかし、その国民的課題に触れる前に、なお解決しておかなければならないことがある。それは政権交代派内の意見の分裂である。民主党内の意見の分裂でもある。それは小沢続投支持か、それとも更迭かという問題である。民主党の幹事会では続投と決定しているのだが、党内が結束できておらず、ネット上では学者、知識人、評論家が軒並み好き勝手な議論で、更迭論を振りまいている。専門領域を除いては誰もが素人であり、その知名度だけで彼らの意見を尊重する必要はない。
 この問題を解決しておかないと、政権交代派は常にふらつき国民の信頼を得ることはできない。
 さて、更迭派の主張は次のようなものである。 ①、世論は小沢辞任が大多数であること、②、世論に抗して続投すれば、民主党から票が逃げるおそれがあること、③、続投すれば、選挙の争点が不当逮捕か否かとなり、景気回復や年金問題等、主要な国民的政治課題が吹き飛んでしまう。これでは選挙の争点が矮小化され、相手の弱点を見逃がすことになり、敵の思うつぼだ、④、強大な権力を持つ検察に立ち向かって勝てるはずはなく、しかも相手にはマスコミがついている。検察の”清掃”は政権を取ってからやればいい、というようなことである。

14、日本は『太政官制』の国、権力の中枢は官僚機構にある
 ひとつひとつ反論していると、長文になりすぎるので根本問題から解きほぐしていこう。それは④の理由である。確かに検察は強大な権力なのだが、小沢をはずして新しい”玉”を押し立てるという対抗策を駆使して政権を取り、その後になってから犯罪の血盟をした検察を”清掃”できるのか、と逆質問をすることにしよう。このように問題を立て替えることで解決の糸口をつかむことができる。
 答えはこの国の権力の所在がどこにあるのかということにある。小沢更迭論を主張する議論はすべて、この権力の所在について明確な見解を持っていない。そこから好き勝手な論拠を貼り合わせてくることになる。今は亡き司馬遼太郎の言葉を拝借すれば、日本は『太政官制』の国である。すなわち、権力の中枢は官僚機構が握っており、官僚支配の政治が自民党政治の本質なのである。
 司馬のこの見方は戦後の国家の成り立ちをみればわかりやすい。戦前は、名ばかりの立憲君主制と言うのも恥ずかしいほどの天皇専制の国家であり、政党政治はその”飾り物”にすぎず、”朕が股肱”の官僚機構が実際の国家統治の担い手であった。戦後は政界、財界の重鎮は一度はパージされたが、官僚機構だけはそっくりそのまま戦後の国家機構へと横滑りして収まっているのである。しかも、この官僚機構は人事権を握って離さず、連綿として自己統治の聖域に身を置いている。

15、小沢続投論は敵の折り紙つきだ 
 つまり、政権交代が起きて自民党が下野しても、国家権力の中枢は下野しておらず、民主党は官僚機構という敵の本陣へパラシュート降下するに等しいのである。だから、犯罪の血盟をした検察を”清掃”する前に新政権がスキャンダルで検察に倒されることになる。
 すなわち、新政権は検察によるスキャンダル攻撃を軽々と突破するほどの有権者の堅い支持を、政権に就く前に確保していなければ、犯罪に手を染めた検察を”清掃”できないのである。これが答えである。
 国策捜査を柳に風とばかりに受け流すべく、マスコミによって作られた世論に迎合して小沢降ろしをやれば、仮に政権についても、官僚機構の反対する政策は一切実現できなくなるであろう。新政権の自民党化である。官僚機構の反対を押し切ろうとすれば、未だ”清掃”に手を付けられない検察が独自に国策捜査を発動して新政権をスキャンダルまみれにすることになる。
 だから、今回の小沢秘書逮捕事件は民主党が新政権につき、国民の求める政策を実行するためには避けて通れない試練なのである。マスコミに影響された世論を変えることで逆に堅い支持に打ち固めることができた場合にだけ、この試練を突破できるのであり、その場合にだけ、官僚機構はさしあたり白旗を掲げて新政権の進駐に城門を開けるのである。
 その意味では、国策捜査の発動は官僚機構が身の危険を感じたことの証であり、小沢民主党が”敵”として認知された”合格証書”でもある。①から③の点は工夫して突破する以外にない問題である。敵こそ真の敵を見破るものと言うべきで、半世紀にわたりこの国を支配してきた百戦錬磨、権謀術数の官僚機構が見定めた”敵”であるから、小沢続投論は折り紙付きの合格証書を得ているというべきであろう。小沢続投論で事態を切り開くべし。

16、マスコミを上まわるキャンペーン網を
 以上のような検討から、国策捜査批判の炎を燃え上がらせることは十分可能である。国策捜査を不問にして政権交代を主張することはできないところへと事態は進んできている。国策捜査の発動によって政治情勢は大きく変化し、今では政治対抗が政府与党対民主党から政府与党対政権交代派国民へと発展しつつある。国策捜査の暴挙が国民の政治関心を掻き立て、国民を政治に引き寄せている。
 検察の暴挙は両刃の剣であり、政治に引き寄せられている国民をマスコミの反小沢キャンペーンに抗して、いかに結集するかが政権交代派勢力の焦眉の具体的政治課題となってきている。
 まず、政権交代派の積極的国民はインターネットを始めとして、あらゆる表現手段を用いて大手マスコミを上まわるキャンペーン網を作り上げることが必要であろう。工夫するべきは、いかにして全国的ネット網を張り巡らすかであり、そこに流す”コンテンツ”、内容である。
 国策捜査の暴挙を官僚の浪費や年金不祥事、医療制度荒廃など、政権と官僚の腐敗政治と同根のものとして、腐敗政治の現れとして、国民の関心に沿うような説明を工夫しなければならない。国策捜査─自民党政権の腐敗─消えた年金等の相互関係をわかりやすく、一言でイメージの湧くような説明をどう考案するか?

17、民主党議員は小沢続投で結束せよ
 民主党は、小沢続投を幹事会で決定しながら、見るところ内部の結束が不安定である。凌雲会の前原一派などは、最近の世論調査の結果に扇動されて小沢降ろしの蠢動を見せているが、政策の違いがあっても、政権目前で党内分裂を晒すような愚は避けるべきだろう。内部闘争は政権を取ってからやるべきで、そうでなければ、落ち目となって解体する民主党内の政策論争など意味がなかろうじゃないか。
 民主党議員はどの派閥に属そうが、今は小沢続投の決定を地元にもって帰り、有権者に積極的に説明し理解を求めるべきだ。国策捜査の非をはっきりと説明せよ。それ以外にマスコミの反小沢、反民主キャンペーンを打ち破る決定打はないのである。地元の支持者を説得せよ。そうすれば、今の世論は大きく変わる。
 洞ヶ峠を決め込むような国会議員の言動は、自分を取り巻く事態を理解していない証拠である。民主党の風頼みの人気に乗って当選してきた身の程を考えてみるべきだろう。風がなくなれば、どこかに風を探しに行こうとするのが洞ヶ峠派なのであるが、もはや、民主党に風は吹かない。大手マスコミはすべて「大本営」の傘下に入ったからである。国策捜査の発動とは”そういうこと”なのだ。
 つまり、みずからの行動で、地元の有権者を説得し支持を調達することでしか当選への道は開けないのである。マスコミに影響された地元の有権者の反対論に耳を傾け、熱心に誠意を持って説得することが民主党の政治家の仕事の第一歩である。

18、共産党とはいかなる存在か?
 さて、こうなるとjcpとはいかなる存在であるのか? 民主党が国策捜査の試練を乗り越えた時、jcpは壊滅の危機を迎えることは間違いのないことなのである。国策捜査がばらまいた小沢の献金問題に飛びつくことで、政権交代がjcp活躍の条件からjcp壊滅の条件に変わってしまった。
 その政治図式思考ゆえに、政治情勢を具体的にみることができない不破や志位らの政治方針は、国策捜査という政権最大の犯罪を不問に付すことで、jcpを麻生政権の応援団にしてしまったのである。壊滅の危機を迎えないわけにはいかない。国民の多数派は政権交代論なのである。前述の「共同通信」の世論調査はその予兆となっていると見るべきであろう。
 国策捜査がばらまいた材料で、しばらく引っ込めていた「確かな野党」路線を復活させるのだから、07年の参議院選で味わった惨敗もまた復活するのである。不破や志位らの唯一の願いは、今では民主党が国策捜査で内紛を惹起し分裂・解体の状況に陥り、政権交代が吹っ飛ぶことであろう。
 政権交代の起こらないことがjcpの利益にかなうという不幸な身の上にjcpを引き連れていったのは不破や志位の責任である。せいぜい、小沢の金権政治と騒いで党と自分らの墓穴を掘ることである。言い訳のできないjcpの惨状を作り出すことが不破や志位らの党指導者としての最後の役割である。
 戦前最後の中央委員会も”スパイ狩り”で党を壊滅させてしまったが、いつもこの党の指導者は党が壊滅状態になるまで、その誤りがわからず是正もできないのである。