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「現状分析と対抗戦略」討論欄

政権交代でどこまで進む?日本のジェンダー平等

2009/11/20 さとうしゅういち 30代 サラリードパーソン(連合組合員、民主党員、社会市民連合)

 ご承知のとおり,2009年8月30日執行の第45回衆議院総選挙 の結果,民主党が圧勝し,政権交代が実現しました。この政権 交代は,日本の遅れているといわれるジェンダー平等にどのよ うな影響を与えるのでしょうか?総選挙による成果と,今後の 課題を検証します。

■「現行憲法下最大」の女性議員率を更新
 今回の総選挙の結果,女性議員数は54人(前回2005年が43人) 。8.9%から11.25%に増えました。民主党40人(小選挙区21 ,比例代表19),自民党8人(小選挙区2,比例代表6),公明 党3人(比例代表3),共産党1人(比例代表1),社民党2( 小選挙区1,比例代表1)。11.25%はお隣の韓国の13.6%に比 べるとまだ少ないですが,過去最高には違いありません。
 歴史を振り返れば,女性参政権が実現した最初の選挙である1946 年衆院議員総選挙で当選した39人という数字が,2005年総選挙 までは,過去の女性議員の最高数でした。皮肉にも,封建的な 側面を強く残している大日本帝国憲法下(1946年)の到達点のほ うが,男女平等を定めた日本国憲法下のそれよりも進んでいる 状況が59年も続いていたのです。

■「自民・官僚・世襲・(男性の)エライ人ばかり」からチェ ンジの流れ
 今回の総選挙結果の背景には積年の自民党政治への不満が爆 発したといえます。ただ,その中でも以下のようなことが言え るのではないでしょうか?
 国でも地方でも,「自民・官僚・世襲・エライ人(お金持ち) の(とくに年配者の男性)」ばかりで意思決定を牛耳ってきた ことへの弊害をなんとなく人々が実感しているのではないか? わたしは,ここ数年,北は秋田から西は山口にいたるまでの, ほぼ全ての都道府県に足を運び,旅先で選挙事情を取材し,こ のように実感しています。
 今年4月,兵庫県宝塚市の出直し市長選挙では,社民党を離 党して完全無所属となった元衆院議員の中川ともこさんが同市 初の女性市長に当選しました。同市では,自民系の男性市長( 一人は元自民党衆院議員)が二代連続汚職で逮捕された後を受 け,「無党派・女性」がウケた,といえます。
 千葉市では,2009年4月,前市長が収賄で逮捕されたことに 伴う出直し市長選(6月)で,31歳の熊谷俊人さんが民主党など の推薦を受け,自公や連合千葉も相乗りした60代の官僚出身の 元副市長を破りました。同市では,戦後ほぼ一貫して(地元名 門の)千葉高校卒・東大法学部卒・官僚出身の男性市幹部が自 公と労組の相乗りで政権を維持していました。一方で,「金権 千葉」ともいわれる悪名高き状況があったのです。これが崩れ ました。
 こうした「自民・官僚・世襲・エライ人(お金持ち)の(とく に年配者の男性)」ばかりからのチェンジに,総選挙では民主 党がうまく乗った,ともいえます。

■「女性重視」の小沢戦略が的中
 小沢一郎さん(2009年5月からは選挙担当の代表代行,現幹 事長)は民主党の代表に就任して以降,女性候補の擁立に努力 してきました。2007年参院選でも,女性候補を大量に当選させ ,同選挙での改選議員に占める女性比率が2割を超える原動力 となりました。このときは,東京,埼玉,神奈川,愛知の大都 市圏だけでなく,新潟,福島,宮城の二人区,山形,岡山,島 根,香川,沖縄の一人区も女性の当選者を出しました(推薦含 む)。
 2009年衆院選でもその勢いを維持し,都会でも地方でも圧勝 しました。地方によっては,女性を擁立することにまだまだ抵 抗があります。「ほうっておくと」どうしても候補者は男性ば かりになってしまいがちです。そこを小沢さんの強い指導力で 変えたともいえます。
 ちなみに2005年総選挙についていえば,小泉純一郎さんが, いわゆる郵政民営化反対組に対して,佐藤ゆかりさん,西村京 子さん,稲田朋美さんら,女性の「刺客」を多数擁立しました 。その結果,「自民党政治の元で既得権をむさぼってきた(イ メージが強い)田舎の年配男性」を叩く正義の味方のイメージ をかもし出し,小泉さんの圧勝につながった面はあります。そ れを今回は民主党がやり返した,といえなくもないでしょう。

■ 「社民主義化」した民主党を象徴する女性議員たち
 ただし,今回の民主党の女性議員は,今まで光が当たらなか ったような層の出身者が多くいます。北海道比例区では,個人 でも加入できる労組の役員の女性が当選しています。また,平 和関係NGO代表や元薬害原告(福田えりこさん),非正規労働者 など多士済々です。
 また,彼女らの選挙活動もユニークなものでした。秋田3区 で当選した女性新人・京野公子さんは,選挙応援の弁士に,就 職難に直面する女子大生や派遣切りにあった男性を起用しまし た。派遣切りにあった男性は,「2008年に12月に『派遣 切り』にあったとき、何かを変える為に努力をしないといけな い、と感じた」と失業当時を振り返り,「民主党のマニフェス トを読んで、何か自分がやる(べき)ことがあるだろうと思っ た。そこで、京野さんの手伝いをしようと思い」政治活動を手 伝うことになったそうです。そのうちに,「政治に対して無関 心だったのが恥ずかしい」と思うようになりました。
 自民党政治の元では,企業中心のセーフティネットが,男性 正社員・世帯主には適用されてきました。しかし,多くの女性 は夫に養われることを前提に,排除されてきたのです。それが ,ここ10数年はさらに,非正規雇用の広がりにより,この応援 弁士になった方のように,男性でも排除される人が大量に出る ことになってしまったのです。会社が面倒を見るから。家族が 面倒を見るから。そういう前提で,日本の住宅や失業者支援な どのシステムは欧州に比べても手薄でした。
 企業や家族に頼れない。それがゆえに声を上げられない。そ ういう人の痛切な思いも「企業支援より家計支援を」(これ自 体はある意味共産党の模倣ですが)と訴えた民主党を押し上げ ました。民主党が2006年の小沢代表就任以降,社会民主主義色 を強めた,という声はよく伺います。その流れを象徴している のが今回初当選した女性議員たちです。
 党幹部のベテラン議員はかつて自由民主党,日本社会党,民 社党などに所属し,それぞれの党派の体質を良くも悪くも残し ている人も多くおられます。しかし,新人の女性や若手の議員 は(例外はもちろんありますが),「現在の」社会民主主義的な マニフェストを「額面どおり」受け取り,そしてそれを有権者 に訴えてきた人が多いのです。
 実際,今回の政権交代の結果,自民党政権下で進まなかった 女性差別撤廃条約の選択議定書は批准へ向けて前進しそうです 。また,貧困問題関連では,前政権で廃止された生活保護の母 子加算は満額復活となりました。

■ 閣僚比率や税財政など課題多く
 しかし,課題もあります。 第一に,女性閣僚は,麻生政権と 同じく2人です。小泉政  権の5人と比べれば半分以下です。 法務大臣の千葉景子さんと,消費者・少子化・男女共同参画担 当大臣の福島瑞穂さんです。法務大臣の千葉さんは弁護士で専 門分野ということはあります。しかし,「消費者・少子化・男 女共同参画だから女性」というのは疑問です。
 ノルウェーは,男女平等が進んだ国で,日本と同時期に総選 挙を行いました。今回,男性が男女平等担当大臣になりました 。本当に男女平等なら,逆に男性もこの分野に進出する,とい うことです。日本でも従来女性が主に担った介護を男性家族が 担う例も多いのですから,男性議員が奮起することが期待され ます。一方で,農業従事者の過半数は女性です。農村風景を見 ても,田畑で作業しているのはほとんど年配女性です。地方選 出の女性議員が増え,政務官には山形選出の女性議員が就任し ていますので,今後に期待します。
 また,新政権の目玉である「行政刷新会議」は,11人中,女 性議員がひとりもいません。
 また,私の知人の女性地方議員は、大泉博子議員が小沢幹事 長の指示によって仕分けチームから引き上げさせられたことを 「元官僚の経験からしっかりこの役割を果たせると楽しみにし ていたのですが」と残念そうです。新人議員を除外して,代わ りに入った民間出身仕分け人に女性は数人しかいません。
 また,男性も女性も暮らしやすい社会にするには,企業に依 存していたセーフティネットを社会全体で支えるようにするし なければなりません。そうなると,今よりは「効率的」で「大 きな政府」にしなければなりません。ところが,現政権でも藤 井裕久財務大臣,平野博文官房長官らが,歳出削減に固執して いるのは考え物です。民主党全体として国民新党や社民党など 他の与党や共産党に倣う形で「余裕がある人から順にもっと税 負担を頂く」方向性をはっきりさせるべきです。野党第一党の 自民党が主張する「消費税率引き上げ」には抵抗が激しいので ,結局,「消費税率引き上げ」以外の歳出増加策を考えないと 歳出削減にならざるをえないのです。この悪循環から脱すべき です。

■「今後が楽しみ」な状況に
 以上の課題はあるとはいえ,全体としてみれば「状況が良く なる可能性がでてきた」といえるでしょう。「旧政権ではお願 いに行っても無駄というあきらめ観があり,運動もマンネリ化 していた。新政権では運動しだいで実現できることも多くなっ た」という声が,女性労働運動関係者の間でも広くあります。 今回,数が増えた女性議員がいかに力をつけていくか。それを 運動がどう支えるか?今後が楽しみです。
(さとうしゅういち 女性と政治キャンペーン広島,みんなで 新しい広島県をつくる会)