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「現状分析と対抗戦略」討論欄

民主党連立政権の評価

2010/3/20 櫻井智志

 民主党と社民党、国民党の連立政権は、国民の期待をになって誕生した。 その背景には、あいつぐ自民党・公明党政権の国民の窮乏に対する無策への 怒りや憤りと、新国家主義とでも呼べるような憲法改悪に向けての急速な 策動への国民の不安とがあった。
 その点では、民主党政権は国民の期待に応えるいくつかの肯定的方向性 を示すことができた。派遣切り捨て問題に対する湯浅誠氏の起用に見られ る一定の対応。千葉法相による死刑執行への慎重な対応。憲法改悪の動き も民主党政権誕生以来、活発さは鳴りを潜めた。

 しかし、その一方で、沖縄県民の犠牲の上に成り立っていた戦後の米軍 基地の占領と極論しても不自然ではないアメリカ従属的同盟路線は、社民 党の健闘をもってしても、食い止めることはできそうもない様相を呈し始 めている。連立路線内の力関係は、社民党が徐々に追い詰められるのと引 き替えに国民新党の勢いが増して、民主党はその力関係を反映して、次第 に右寄り路線へと軌道をとりはじめた。
 アメリカ政府と米軍の言うとおりになるのなら、対米従属路線の自公政 権とほとんど変わりはない。沖縄の県民は、期待した現政権が自公政権に ほぼ等しい基地移転政策を決断したなら、怒りと失望感の大きさは想像す るにあまりあるものとなるだろう。

 また、民主党は従来、三つの異なる勢力の共存と言われてきた。民主党 内部での意見の相違が、閣僚にも及び、相異なる見解が飛び出す場面が続 き、それをひとつの政策としてまとめあげていくリーダーシップが十分に は発揮されずにきている。
 それに呼応するように、池田大作氏の創価学会証人喚問問題を避けて勢 力を温存させる宿命を帯びた公明党は、このところ民主党に擦り寄りはじ めてきた。このことは、以前の社会党・公明党・民主党のいわゆる社公民 路線の実績を背景にもつだけに、今後政局の展開の流れに呼応して、公明 党の与党下入りも十分予測される。そのときには政権政党の組み替えがな され、社民党が切り捨てられる事態も考えられる。
 そんな矢先、厳しい追及にあった社民党の福島代表は、「閣僚としては自 衛隊は合憲と認識している」という趣旨の驚くべき後退発言を国会の場で 行った。このことは、社会党当時に村山委員長が自民・社会・新党さきが けの連立政権の首班として首相を務めた当時を回想せざるを得ない。ずる ずると村山総理は、自民党に対応して、右より政策を受動的に選択するよ うに追い詰められていく。そのことは、国民の幻滅を誘い、戦後の国会で 三分の一を占めていた憲法改悪阻止を可能とする議席をほとんど失ってい く事態へと連なっていった。
 一方で自民党内部でも、離党者が続き、「みんなの党」が意外な注目を集 め、参院選では大化けしうる勢いをもっている。保守勢力が政権から離れ はしたが、民主党が右傾化していくと、自民党の政権返り咲きがなくとも、 民主党がアメリカ政府・米軍の意向のままに動く勢力へと変質しうる危険 も考えられる。
 小沢一郎氏や鳩山首相らの考えには、対米従属から中国をはじめアジア の諸国との関係改善を模索している節がうかがえる。この取り組みを私は 好感をもってきた。冷戦が終結した現代では、米軍基地問題も、「移転」 どころかはっきりと「基地撤去」を政権は打ち出すべきだ。それが国外と か沖縄県外とか言っている内に、県内での基地引っ越しでは、なんら自公 政権と変わらない外交政策である。
 この背景には、司直とマスコミの絶妙な連携で小沢・鳩山失墜の策謀とで も言えるような追い落とし策が功を奏し、鳩山・小沢両氏の外交戦略が封じ 込められてきた経緯がある。このことは肝に銘じておきたい。

 さて、民主党連立政権の評価と銘打った私見をまとめる。流動的な現在の 政局のもとで後追いで物言いは避けたい。国民から歓迎された今の政権が、 マスコミによる国民の支持率はかなり低下している。しかし、そのような数 値から演繹するのではなく、今の情勢のなかで、国民とりわけ庶民層である 私たちにとって、雇用と生活とを安定させるためにも、日本国の護憲軍縮路 線こそがそれらの課題の解決とも連動している。右からの連立政権変質を見 逃さず、大きなはじめの一歩を、真に継承させていく政権内外の勢力を応援 していきたい。