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「現状分析と対抗戦略」討論欄

大きく過半数を割った菅政権と対抗運動

2010/7/18 櫻井智志

 原仙作氏の論考『菅の変節があるにしても菅政権に過半数を与えるべきであ る』は、参院選の趨勢を展望して、よりベターである選択肢とその根拠を示され た。しかしながら、参院選は原氏が最も危惧した最悪の事態となった。自民党が 第一党となり、「みんなの党」は公明党を抜く10議席の当選を得た。

 原氏は次のように述べている。

「菅政権が参議院で過半数を取れなければ、法案は一本も通らず短命政権と化 し、政治状況は混迷を深め、死にかけた自民党が息を吹き返すばかりか、「みん なの党」のようなあやしげな政党が暗躍し、魑魅魍魎の政界再編が進行し、結果 として官僚主導の政治は盤石なものになる。」

 まさに、自民党は比較第一党となり、他の野党にも呼びかけ、参院議長を我が ものとして、さらには次の衆院総選挙によって、ねじれ状態を逆に旧体制を新た な装いを施して蘇らせようとしている。

 日本共産党は改選議席の4を3に減らした。注目の東京選挙区では激戦の末 に、「みんなの党」新人に惜敗して、切り札とも言えた小池晃氏は落選して、国 会議員の資格さえも一時的に失った。原氏は、「改選議席4が5に増えたところ で政治状況は国民にとって一歩でもましなものになると予想できるほどの議席数 ではないし、政治状況のこの混迷に手を貸してきた共産党の対応を政権交代派の 国民は見ている。ましてや、国民諸階層の大衆運動の急務を訴えたところで参議 院選には間に合わない。」と述べている。

 私は、別の見方をしている。大衆運動のひとつに「『平和への結集』をめざす 市民の風」という団体がある。この団体は、会員ではないが、私も賛助者として 発足以来ずっと見守ってきたのでよく知っている。次々に国会から護憲派議員が 失われていく中で、共産党や社民党など平和と護憲をめざす政党や団体の共同統 一候補を擁立することによって、国会での護憲派議員を増加させつつ、単なる選 挙運動だけでなく、市民運動、住民運動などの社会運動を促進させ推進していこ うとする性格をもっている。実は今回の参院選で、「『平和の結集』をめざす市 民の風」に属する個人から動きが見られた。私もそうだが、数人が小池晃さんを 応援する運動に参加した。

 共産党非共産党を問わず、東京選挙区から、小池晃氏を平和共同候補として擁 立していこうとする運動が巻き起こった。この運動は、「小池晃さんを応援する 市民勝手連Q」を結成して、インターネットでメーリングリストとホームページ とをリンクさせ、現実の選挙運動とも関わらせて推進されていった。それに連動 していくつかのインターネット上での平和共同候補としての擁立運動のサイトが 立ち上げられた。そのメンバーは、村岡到氏や岡本磐男氏、吉田万三氏、末次啓 介氏らである。

 原氏は、「ましてや、国民諸階層の大衆運動の急務を訴えたところで参院選に は間に合わない」とされていたが、現実には参院選を目前に、実際には2009 年12月に準備会が発足して、それは選挙直前には一定数のインターネットでの 影響も一部の関心ある人々には注目されていたのである。

 菅政権に参議院の過半数を与えることで、混迷する政治状況を単純明瞭なもの に整理すること(敵の範囲を狭め敵を明確にすること)はできなかった。菅政権 は過半数割れでしてしまった。今後の政局は暗闇状態での権謀術策が渦巻き、国 民へのマスコミを悪用した世論操作はさらに巧妙なものになっていくだろう。九 月の民主党代表選も注目されるが、先手をうつように小沢一郎氏への検察審査会 による恫喝を伴って、同じ民主党内の前原国土相は、国会の政治審に小沢氏は出 席すべきだとさえ公言している。おそらく中期的には、自民党からいくつかの新 党が分裂していったように、民主党も分割され政界は再編成されるという言説も 出ている。

 社会民主連合は、社会党右翼の江田三郎氏をリーダーとしていたが、その社民 連から出てきた菅直人氏が総理大臣になったこの時代。新たに社会運動、市民運 動の中から圧倒的な小数議席政党にさらに転落した社民党や共産党を傍目に見な がら、なんとかしなくてはいけないだろうとするミニ運動がマスコミにも報道さ れずにあちらこちらで胎動している。その頂点を沖縄県民の反基地全島闘争をモ デルとするかのように、この「革新冬の時代」にこれで引き下がってたまるか! とする意識は水面下に充満している。それを応援する国会議員も、おしつぶす議 員もいよう。そんなこととは無関係に、戦後65年。21世紀の民主主義運動 は、網の目のように支配された国民総監視体制の中からじわじわとアメーバのよ うに胎動していることを予感する。