投稿する トップページ ヘルプ

「現状分析と対抗戦略」討論欄

秋葉広島市長のロマンある政治姿勢と対照的な菅総理の後退的構想

2010/8/7 櫻井智志

 今年の広島デーはあまりに際だっていた。
 広島市長の秋葉忠利氏の「広島平和宣言」は、政治的構想力と現実的戦略を網羅して、感動的な宣言であった。

 一方、日本国を代表する立場の内閣総理大臣菅直人氏のあいさつは、通り一遍で改めて新聞に掲載された挨拶文を読んでも、この政治家はこの程度の市民運動家だったのかと、私の心の中で決定的な失望感を強くした。
 まだしも、国連事務総長で韓国のバン・キムン(潘基文)氏の挨拶には、自らが原爆投下時に一歳だったことから説き起こしている。

 菅総理は、

「今後は被爆者が非核特使として日本を代表し、国際的な場面で核兵器使用の悲惨さや非人道性、平和の大切さを世界に発信していただけるようにしたい。」

と述べた。菅氏は、国連軍縮特別総会で長崎の被爆者山口仙二氏の世界的なアピール演説も知らないとみた。

 また、秋葉市長が非核三原則の法制化を政府に期待したのに対して、非核三原則の堅持を誓った。
 国民は、知っている。非核三原則がアメリカ政府と自民党政権との間で「核密約」としてすでに公然と破棄されていた史実を。だから、秋葉市長は「非核三原則法制化」を求めたわけであるが、「堅持を誓う」とはいったいどのような政府の行政構想をもっているのか。

 さらに、秋葉氏が
「米国の核の傘から離脱し、非核三原則の法制化を要求し、核廃絶の実現を人類に課せられた責務」と訴えた。
 菅総理は、なんと
「国際社会は大規模な軍事力がまだまだ存在しており、大量破壊兵器拡散の現実もある。核抑止力は日本にとって引き続き必要だ」と述べた。

 秋葉市長には、明確な平和の外交政策の具体的提案がある。それは、国連を媒介として全世界的に広がっている核廃絶への国際的世論に、被爆国家としての日本が、平和運動の筆頭に立ち、全世界に訴えかけた具体的戦略である。
 それに対して菅総理の発言は、全く自民党政権当時と変わらぬばかりではない。平和記念式典に中国、ロシア、アメリカ、イギリス。フランスが注目し始めた式典での日本国代表としての挨拶である。

 あまりにお粗末であり、政権交代してもこのような総理では、今後も軍事抑止力としてアメリカの核の傘に依存して、国内には核秘密基地を温存し、沖縄には危険な基地をそのまま放置し続けるだろう。

 いま民主党内では、菅総理グループに対して、鳩山前総理と小沢前幹事長とのグループが、次の民主党代表選になんらかの対抗を企図しているようだ。
 民主党内がどうなるかは分からぬが、日本の民衆運動は、菅総理に対して、道義的・現実的・理想的で世界的な発信力のある秋葉市長の構想が提起された。このような道義ある戦略こそ、日本国民が依存し核廃絶を進めていく核心であろう。
 秋葉忠利氏は、広島市長に当選する前に国会議員であった。さらにその前にアメリカ国内の大学で教鞭をとり、准教授として、アメリカ国内から核廃絶の草の根の研究と発信とを蓄積されてこられた。
 このような賢人政治家が日本にもいる。いまは社民党の党籍から離れていると思うが、世界の核廃絶の高まりに呼応して、すべての革新勢力は、国民的視野に立って、核廃絶運動の前進をめざしたい。

 沖縄県知事選挙に向けて、社会大衆党と社民党、共産党は、統一候補として、宜野湾市の伊波洋一市長の擁立を決定した。参院選選挙区に候補を擁立できなかった民主党は、この統一候補には加わっていない。場合によっては、現在の仲井真知事を自民、公明とともに民主党が擁立することもありえよう。

 民主党が野党から与党になって、菅政権にかわってから、オタオタした動揺が目立つ。民主党内の動きによっては、民主党政権が自民党と大連立も組む危険性が出てきた。けれど、日本国民ばかりか国際世論も日本の政治の動きに注目していることだろう。圧倒的な改憲勢力の議員の議席があっても、国民や国際世論に依拠すれば道は必ず拓ける。
 そんな期待をもたせてくれた秋葉市長に感謝している。