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「現状分析と対抗戦略」討論欄

「たちあがれ日本」と連立を打診した菅政権の危険な野望

2010/12/24 櫻井智志

 政局は流動的であるから、決定されたわけではない。しかしながら、よりによって 保守党の中でも時代錯誤とも言える改憲や軍国主義に近い「たちあがれ日本」に、連 立を呼びかけるとは。

 この状況になって、菅直人総理の実際的素顔がようやく透けて見えてきた。菅氏が 総理になった頃に、渡辺治氏だったろうか、発言してきたことが現実のものとなって きた。その発言とは、菅氏は、長期政権を望む野望をもっているという趣旨である。 そのためなら、どのような政策も選択肢に入れて、ともかくも政権延命のためのあら ゆる手段を講ずるし、政策や政治理念ではなくて、第一に権力意志を固守し続けるだ ろう。このように受け取れる発言と覚えている。

 菅氏は、社会民主連合を政治生命の第一歩としているが、私は同時期に、社民連 は、右翼社会民主主義であるととらえていた。社会党と共産党などの共闘を妨害する 右翼社公民路線、というとらえかたである。あれから時代は変わったし、市川房枝さ んの応援団として溌剌とした菅直人さんには、一定の共鳴感を覚えてもいた。ただ、 市川房枝さんの周辺にいた人々からは、陽性の菅さんが権力主義者的な側面をもつこ とも指摘されていた。厚生大臣となってからの相次ぐ活躍を知る私たちには、総理に なってからの変貌は信じがたい失望であった。

 小沢一郎氏を政治的に切り捨てていくことと引き替えに、菅政権を延命させる密約 が政界の水面下でなされていたと解釈したら、うがちすぎであろうか。

 これから、政界はどうなるのであろうか。仮に「たちあがれ日本」が連立を受容し たとしたら、平沼代表や石原慎太郎応援団長などの軍事大国路線に政権は引きずられ ていくことも予想される。与謝野馨氏のような合理主義者もいるから、一概に全面否 定はできないが、政権交代した頃の民主党政権は見る影もなくなる。さらに、もし連 立が成立しなくとも、公明党やみんなの党などとの連立でなく、いきなり「たちあが れ日本」に政権の一翼を要請した事実自体が、菅政権の政策の方向性に大きな反動的 な方向性を与えるだろう。

 菅政権になってから、政権交代した頃の鳩山・小沢政権は大きく後退した。
 外交安保路線は、東アジア共同体構想から遠ざかり、日米同盟重視に強く傾いてい る。内政でも後退が続いた。八ツ場ダム中止政策は、ずるずるとなし崩しにされてい る。環境エネルギー政策でも後退が続いている。総選挙で公約した環境エネルギー政 策は経済産業省の主導で次々に骨抜きにされている。
 このような政策全般の菅直人氏の偉大なる(?!)転向は、もはや自民党政権でも 果たし得なかった政策をも次々に実施しえるだろう。憲法を改定するくらいの防衛問 題の転換さえ粛々と進めている菅政権は、もしかしたら、そんなことなどほんの序の 口で、政界の改憲潮流の大同団結を推進して、長期延命政権を展開していくのではあ るまいか。政治的理念は皆無で、権力意志だけは強固ならば、それは日本に新たな時 代をもたらす。私は、ワイマール憲法下でドイツ帝國をつくりあげたアドルフ・ヒッ トラーの再来をイメージする。そんなことが杞憂に収まるために、菅政権を厳しく監 視する必要がある。同時に、民主・自民大連立構想の勢力にも油断はできない。  選ぶべき政党や政治勢力が沈滞していても、前述の政治的な危険潮流にアンチ勢力 である政治家は必ず存在する。これから先にある岐路に、せめて非軍事大国主義に近 い側を選びたい。
 仕掛けられたかのような中国漁船問題、朝鮮半島武力衝突、米日軍事演習とあいつ いできな臭くなってきた政治情勢は、日本の政治を親軍国主義に傾けている。中国や ロシアを肯定して韓国やアメリカを非難する、という問題ではない。あいついでめま ぐるしく変わる軍事的問題の報道によく吟味してよく考え、報道されないニュースの 隅々を拾いながら、世界情勢のひとつひとつの全体像を自らの思考で考え続けたい。 歴史の教訓は、戦前の日中戦争の開始の謀略やベトナム戦争北爆のきっかけとなった トンキン湾事件の謀略があった。現在、再び仕掛けられた謀略がないという保証は、 ない。