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「現状分析と対抗戦略」討論欄

京都の良識が橋下ブームの背景を突く

2011/2/25 櫻井 智志

京都で府立大学総長や龍谷大学教授をつとめ、以前に京都市長選にも民主主義派として立候補、善戦したかたが広原盛明氏である。 その広原さんが、なぜ大阪府、大阪市と空前の橋下ブームが起きているのか、以下のように執筆されている。注目すべきは、朝日新聞をはじめとした大新聞の動きである。

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 この2週間余り、「大阪市職員アンケート調査」をめぐる一連の報道のなかで明らかになったのは、橋下市長が思想調査など国民権利の「破壊者」としてマスメディアから批判されるのではなく、逆に政権交代で行き詰まった国政の政局を打開する「改革者」として評価されるという驚くべき事実だった。
 この間の経緯を追ってみると、橋下市長が全職員を対象に政治活動や組合活動に関する「アンケート調査」の実施を表明したのは2月9日、回答期限は1週間後の16日だった。この「アンケート調査」をめぐって大阪市労連が「思想・信条の自由を侵害し、組合運営に介入する不当労働行為だ」として大阪府労働委員会に救済を申し立てたのが13日、続く14日から16日にかけて、「アンケート調査は違憲そのものの思想調査に他ならず、即刻中止を求める」との会長声明が大阪・東京両弁護士会および日弁連から相次いで出された。そして急速に高まる世論の批判の中で、特別顧問の野村弁護士が「調査は当面は凍結する」と記者会見をしたのが17日のことである。
 このように2月9日から17日までの間は、「橋下アンケート調査」をめぐって世論が沸騰したにもかかわらず、マスメディア各紙はほとんどこの話題を取り上げようとせず「ダンマリ」を決め込んでいた。本来ならば、今回の東京・大阪弁護士会および日弁連の会長声明の内容は、各紙とも1面トップに掲げてもおかしくないほどの重要な意味を持つものだ。ところが各紙の取り扱いは片隅のベタ記事に近いもので、これらの声明はほとんど無視されたといってよい。その一方、「アンケート調査」が世論の反撃で“凍結”に追い込まれるに及んで、事態を無視できなくなった18日の紙面から漸く本格的な報道が始まったのである。
 しかしこれに輪をかけてもっと驚いたことには、この間の各紙の論説が「アンケート調査」問題などを全く度外視して、「橋下改革者論」「橋下賛美論」に終始していたことだ。これを掲載順に紹介すると、まず朝日新聞が2月12日に「オピニオン欄」の全面を使って、「インタビュー、覚悟を求める政治」という提灯記事を掲載したのが始まりだ。このインタビューが行われた2月9日は、橋下市長がちょうど「アンケート調査」の実施を表明した当日のことだった。だがインタビューの中のどこを探してもそんな記事は見つからない。
 しかも念が入ったことに、朝日はその後の2月15日、タイトルを見るだけでも恥ずかしい『橋下徹さま、ぜひ第2Rを』という論説をインタビュアー(政治部次長)の写真・署名入りで掲載した。その内容たるや「言われっぱなしでは意味がないが、不毛な論争にはしたくない」との口実で橋下氏に対する一切の批判を避けたことを自ら正当化し、それに乗じておとなしく出た橋下市長を「あえて自分を小さく見えるのは本当の自信がなければできない。橋下氏は首相を狙うのか。(略)橋下さん、第2ラウンドはいかがですか?」と天まで持ち上げる始末だ。
 次は、2月19日の『橋下さんに感謝しよう』という、これまた朝日と同様に恥ずかしい毎日新聞の論説だ。論説委員長自らの執筆とあってどんなことを書くか注目したが、何のことはない。他紙の「橋下改革者論」を紹介する形で16日付の「既成政党への挑戦状」という自社の主張を自画自賛し、「この論が届いたか。16日早速自民党内から対立一辺倒でいいのか、という批判が出てきた。民主党内にも政権与党としてふがいなさを反省する声が聞こえてきた。橋下人気が既成政党の覺醒と正常化につながるのであれば、むしろ感謝しなければならない」とまで言い切っているのである。
 さらに、翌日の2月20日の日経新聞の論説、『シュンペータ―に学ぼう』は、毎日と同じく論説委員長の執筆でタイトルは経済紙向けだが、内容は「民自で「新結合」へ動くとき」との見出しにあるように、「橋下新党」の国政進出を梃子にして政界再編と保守大連立政党の結成を迫るものになっている。つまり「民主、自民両党を市場重視か、再配分重視か、という経済的な対立軸で、新結合をする政党再編ができればすっきりする」というものだ。
 日経は、そのうえご丁寧にも政党再編の3段階シナリオまで言及している。第1段階は、民自両党の話し合いで消費税増税にもとづく「社会保障と税の一体改革』を合意する。第2段階は、消費税増税を前提にした総選挙で与野党の議席を争う。第3段階は、選挙後に参院も含めた「市場重視か、再配分重視か」の対立軸で政党再編をする、という保守大連立政党への政治シナリオだ。
 これら一連の「橋下アンケート調査」に関する記事や論説を通してわかることは、マスメディアが橋下市長を「改革者」として持ち上げ、大阪維新の会・橋下新党を国政の膠着状態を打開する「手駒」として利用しようとしていることだ。つまり、第1に「橋下新党」を「改革者」に仕立てることで、民主・自民両党に裏切られた国民の怒りをガス抜きし、世論の支持が革新政党に向かうのを阻止する。第2に「橋下新党」の脅威を煽ることで民主・自民両党に妥協を迫り、当面の政権運営を軌道に乗せる。第3にこれらのいずれもが成功しないときは、「橋下新党」を突破口に保守大連立政権樹立へと一挙に政局を転換させる、という3つの目的のためだ。
 このように、いまやマスメディアは挙って橋下市長を「改革者」に仕立て上げ、その勢いを利用して民主、自民両党の政党再編を後押ししようとしている。そのことが「橋下新党」への追い風となり、国政進出への期待となって、世論調査を押し上げているわけだ。
 最近の世論調査を見ると、(1)朝日新聞世論調査(2月11、12両日)では「大阪維新の会が国会で影響力を持つような議席を取ってほしい」54%、(2)産経新聞・FNN合同世論調査(同上)では「大阪維新の会の国政進出を期待する」65%、「石原新党には期待しない」47%、(3)共同通信世論調査(2月18、19両日)では「大阪維新の会の国政進出について期待する」61%、「石原新党には期待しない」69%、(4)大阪府民対象の朝日新聞・朝日放送合同調査(同上)では「橋下市政を評価する」70%、「橋下市長の政治手法を評価する」67%、「首相公選制に賛成」72%、「民主、自民以外の政党中心の政権に交代賛成」44%などとなっている。
 このままでいけば空恐ろしい気もするが、その一方、マスメディアのなかにも最近になって少し変化の兆しが表れていることにも注意したい。過日、大阪市内で「反ハシズム」を標榜する大阪府・大阪市の関係者、ジャーナリスト、各分野の研究者などが一堂に集まって「橋下市政をどうみるか」という懇談会が持たれた。その席上で異口同音に出た意見は、「橋下報道をこのまま垂れ流しにしてはいけない」というものであり、そのためには「われわれももっと批判的な情報を発信する必要がある」というものだった。「政治の世界は一寸先が闇」というが、この先が「闇」のままで推移させないためにも、私も及ばずながら微力を尽くしたいと思う。
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 このように、まともな世論をマスコミの外側から、私たちが発言していくことでもわずかな効果はあるだろう。失望せずに、広げていきたいと考える。

 広原氏の論考を読み、かつては進歩派のシンボルと思われてきた朝日新聞や毎日新聞の驚くべき変貌である。これだけ橋下氏のちょうちん持ちになれば、国民の意識変化は誘導されていくことだろう。
 橋下徹という人物自身の特異性がクローズアップされているけれども、国民に対するジャーナリズムやマスコミ、さらには大学教授などの知識人のスタンスが「怪物橋下徹」をつくりあげている。背景には、広原氏が言うように、政界と連動したマスコミの政界操作戦略が見え隠れする。

 ここさざ波通信でも、橋下氏が政治にたけている、政治家の実力があると一面においては評価すべきと言う論客がいらっしゃる。私もそうかなあと思ったが、やはりその考えはまちがっている。橋下氏の政治力ではない。政治的構造が橋下氏を「政治家」として押し上げていると見るべきだろう。「大阪都」構想にしても、派手なアドバルーンをぶちあげても、その中身の十分な見通しなどを持ってはいない。世論や左翼陣営の反応を見ながら、後をフォローする陣営が控えている。橋下氏の役割は、マスコミの前面に出て、国民の前で派手なピエロとして立ち回ることだ。財界人堺屋太一のような見えているブレーンもいるし、あくまで裏の操り師もいる。

 日本共産党や社民党が国会の議席をあいついで減少させている。そこに政党論もとびだしているか゛、その画期をなすのは小選挙区制施行である。中曽根康弘が総理在任中に国鉄を分割民営化した。それが労働組合全体の弱体化をもたらした。小選挙区制もそうだ。比例区では健闘しても、小選挙区ではすべての社共代議士は議席をうしなった。小選挙区事態の反動性を見抜いて対応策を出さずに、共産党批判だけを反復してもただの仲間内の議論にしかならない。外を見抜くことだ。

 左翼に対してばかりではなく、マスコミ戦略によって徹底的な国民世論の誘導を行い、策謀的政治を貫いていく。そのことの一端を広原盛明氏は実証的に明確化した。このような分析ひとつも行わないで、内部分裂していて、ファシズム政治を阻止はできない。石原慎太郎、橋下徹、中田宏、野田総理、前原副総理・・・・・すべての保守勢力が、憲法改悪を貫いて、日本軍国主義復権の邪道を大手を振って歩き始めている。労働三権さえ踏みにじる東京・大阪の首長の実態とその大見得に手を振って歓喜する東京や大阪の住民たち。背筋が寒くなる時代に入ってしまった。