櫻井智志さん、
私の「異論」への返信に感謝します。
ここは「現状分析と対抗戦略」について議論する場ですから、まず、現状分析
にかかわる事実関係について、私に認識不足があるようですので、櫻井さんが、
「中には、避難そのものを禁止する事態に出会い、裁判所に訴えて敗訴判決を受
けた住民さえいる」とお書きになったことについて、その事実が確認できるソー
スをお教え下さい。恥ずかしながら、私自身そのことを知りませんでした。想像
を絶することですが、事実とすれば、まずこのことを優先的に問題にしなければ
ならないでしょう。
その上で、櫻井さんの「返信」を読み、私たちの間に根本的な認識の違いはな いと思ったのですが、そうであるなら、最初の投稿のタイトルに「除染のイカサ マ」とある、この文言を撤回していただかなくてはなりません。この「除染のイ カサマ」論は、現在、ネット上だけでなく、汚染地域の一部町議会など、施策決 定の場でも主張されていることです。
そもそも私が問題にしたことは、櫻井さんが、「このような避難か除染かの二 元的問題の背景・・・」とお書きになったことにありました。私は、少なくとも 現在除染に取り組んでいる方々の間では、避難か除染かの二元的問題など存在し ないと考えています。多くの住民が汚染地域に留まっているところではもちろ ん、多くの住民が避難している地域においても、早く元のところに戻って来られ るように除染することは必要だろうと思います。
児玉龍彦東京大学アイソトープ総合センター長の2011年7月27日衆議院厚生労 働委員会における参考人説明は、多くの方がご覧になったと思います。下記のサ イトで文字おこしを読むことができます。 http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-626.html
このときの証言では、児玉氏の絶叫調の「演説」が取りざたされましたが、そ の内容は冷静・的確なものであったと思います。関係するポイントは、以下の点 にあると思います。
●子どもを守るために補償問題と避難の線引きの問題とは分けて考えるべき
●緊急避難的除染と恒久的除染をはっきり分けて考えるべき
●平均線量毎時1μのところでは10μ以上の線量が出てくるので、緊急避難的除染
としてはこうした場所を集中的にやるべき
●広範囲に汚染されているので、毎時2μシーベルトを0.5μシーベルト以下にする
のは非常に難しい(恒久的除染の課題)
児玉氏も述べておられるように、「恒久的除染」に幻想をいだくことはできま せんが、「避難」と絡めて議論されるべきは「緊急避難的除染」の方です。そし て、私も、今なお乳幼児・子供が留まっている地域の中にも、本来なら避難させ るべきところがあると考えています。だからといって避難を勧めるだけで、除染 の妨害をすることは許されないことです。それこそが「避難か除染かの二元」論 に陥っている訳です。現にそこに留まっている子供たちのために、除染は必要な のです。
そして、こうした「緊急避難的」施策はどうあるべきか、また、具体的にどう 実行すべきか等を議論することも、政治的課題たり得るだろうと思います。だか らこそ、「緊急避難的」施策について議論しようとするときに、日米関係云々に ついての持論を紛れ込ませることは避けなければならないと思います。火事場で 失火の原因について議論するようなもので、傍から聞く人はどう思うでしょう。 それはまた別にやるべきことです。
なお私が、「「ヒロシマ・ナガサキにつぐ第三の核被爆」というのも、失礼な がら、大変な認識不足だと思います」と書いたのは、「ヒロシマ・ナガサキ」だ けではないよという意味で書いたのですが、このたたびの返信にて、その真意に ついても理解しました。大方納得のできるものです。
一点だけ付記しておきますと、櫻井さんは「第五福竜丸は、太平洋で漁業中 に、アメリカの核実験に遭遇して、被曝した」と書かれましたが、このことを指 す「第五福竜丸(被曝)事件」という言い方があります。これは、1954年のビキ ニ環礁での水爆実験(キャッスル作戦)による被曝事件を、第五福竜丸だけの問 題へ矮小化しようとしたアメリカの隠蔽工作によって生み出された呼称です。
おそらくご存知のことと思いますが、このとき、第五福竜丸だけでなく、日本 のマグロ漁船1000隻以上が死の灰を浴びて被曝し、多くの方が癌で亡くなってい ます。第五福竜丸は静岡県の焼津港を母港としていたため、焼津港へ帰港した漁 船の被曝マグロは全て破棄されました。しかし、例えば高知県の漁船も270隻が 被曝し、多くの方が癌で亡くなっています。また、ロンゲラップ環礁を初めとし たマーシャル諸島の広範囲に死の灰が降り積もり、多くの島民が被曝し、そのた めに死亡しています。その実態に即して言えば、これは「ビキニ水爆(被曝)事 件」とでも呼ぶべきものです。
参考サイト:
高知新聞社『壊滅の海から』、『続壊滅の海から』
http://www.kochinews.co.jp/rensai04/kaimetsufr.htm
竹峰誠一郎『ビキニ水爆被災から50周年 核実験場とされたマーシャル諸島の今』
http://www.gensuikin.org/gnskn_nws/0402_4.htm
森住 卓『マーシャル諸島(ビキニ水爆実験)』
http://www.morizumi-pj.com/bikini/bikini.html