『日本未来の党』が結成された。事態の展開は急で情報も錯綜としているところがあるが、歓迎したい。
脱原発政策を掲げる少数野党の乱立では、それだけで『脱原発』という最大の争点が不明確になるし、小選挙区制の下では自・民の大政党に有利になるからである。
候補者の半数近くは政権与党のうまみを捨てて野党になった「国民の生活が第一」になると思われるので、嘉田新党の経験不足もかなりカバーされるであろう。
そこへいくと、橋下「維新」が石原人気を過大評価し、国民の反原発意識を軽んじ、日本の行く末を分ける脱原発政策を放棄したことは致命傷なのであり、大阪市長選で人気を博した橋下の政治センスの限界が露呈したということである。
言動の振幅が激しく、その政治スタンスが不明確であった橋下が極右の石原と組んだことは、総選挙での明確な判断材料を庶民に提供した点で国民にはプラスであった。
野田による突如の解散劇は「自爆解散」とか「話し合い解散」とか言われるが、私の見るところでは「身売り解散」である。そう名づける根拠は、野田がやりはじめた「純化」路線であり、鳩山がその最初の犠牲になった。政権与党の地位を保持しようとすれば、なりふりかまわず多数派工作をするはずであり、与党議員の離反は防ぐべきところなのであるが、野田は政権公約を踏み絵に離反者を募っている。
これは総選挙での大敗、野党転落を前提にした手法であり、その先には安倍政権との連立で与党としての地位を維持するという野田らしい計算があるであろう。あらかじめ、党内から不協和音が出ないようにしようというねらいで、民主党から松下政経塾党への衣替えというところである。
実際にも野田政権は「三党合意」という国会外での談合政治をすでに実行しており、その政策で見ても自民党とは大差がないのである。そのうえ、安倍政権になっても参議院は過半数を制する政党がなく、安倍政権は民主党の「協力」を求めざるを得ないという事情がある。
そして、石原「維新」である。石原「維新」の政治思想は安倍の珍奇な「アンシャン・レジームの打破」と同じである。原発の推進はもちろんのこと、天皇の元首化、集団的自衛権の承認、自衛隊の国防軍化、核兵器の保持、徴兵制と物騒な主張が目白押しで、その先には憲法の改悪が射程にある。
総選挙では、これら三党は票を争うものの、選挙後にその総議員数が議席の2/3を越えれば、尖閣騒動や”やらせっぽい”北朝鮮のミサイル発射事件などを口実に、一挙に大連立に進む可能性が高い。
大手マスコミが民主党政権成立以降、大政翼賛会どころか旧体制の先兵に変質しているだけに、この大連立への防波堤がきわめて低いことにも注意が必要である。
20年に及ぶ景気の低迷に加えて東日本大震災、福一の重大原発事故が重なり、日本の政治経済危機は本格化し、脱原発を中心とする国民の大衆運動も活発化してきた土俵のうえに、改めて”純化された”二つの政治路線が登場しつつあると見るべきであろう。
民主党政権は「アンシャン・レジーム」の反攻で新路線を確立できずに死滅したが、新路線の子として「国民の生活が第一」を産み落とした。
その赤子が『日本未来の党』という新しい産着をきて成長できるかどうかに総選挙の最大の焦点がある。嘉田新党は100議席が目標と言われているようだが、自公民プラス「維新」に320議席以上を与えてはならないのであるから、少なくとも160議席以上が必要だという厳しい現実がある。次の一手が求められている。
最後に共産党である。私の「共産党研究」は終わっているのであるが、今、要望したいことは、道祖神さんが「一般投稿欄」(11月24日付)で述べていることに尽きる。
共産党が目標とする18議席を取ったところで脱原発への実効あるプログラムが進むはずもなく、一人でも多くの脱原発派議員・候補者や脱原発政党との連携でそれらの議員を国会に送り込む選挙戦術が求められていることは素人でもわかることである。
共産党幹部も”実感”としてわからないはずはない。しかし、他の政策が違えば国政選挙共闘はできないとかいう馬鹿げた教条に相変わらず拘泥しており、実際にも連携しても受けるメリットはないと考えている。
そもそも、他の少数野党の動きに志位らは関心がない。嘉田新党が立ち上げと同時に「卒原発」だけではなく他に5項目の政策要綱を発表しているにも関わらず、翌28日のテレビインタビューでも志位は「脱原発以外は白紙委任では云々」と発言しているのであるから、この政策要綱を読んでいないわけである。
この怠慢ぶりや危機感の欠如には呆れるが、少数野党の乱立があれば「老舗」の価値が出てくるとか、あられもない素人のような願望を抱いている。
ドライな株式市場は安倍政権の成立を確定と見なして相場を押し上げている。そのリフレ政策を歓迎しているばかりでなく、原発推進の継続や消費税増税を財源とした公共事業支出の増大(軍事費増大を含む)をも既定路線として期待しているからである。
体制側がこういう認識で動いている時に、日本の進路を分ける重大な選挙戦であることがわからず、共産党幹部がお家の事情だけで全小選挙区立候補という選挙戦術を組み立てているようでは、国民にとってはますます不要な政党となる。幹部の夢想や皮算用に反して、じり貧は避けられないであろう。