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「現状分析と対抗戦略」討論欄

「日本未来の党」分党の背景と安倍「改憲隠し」政権との闘い

2012/12/29 櫻井智志

 脱原発の勢力の統一した受け皿と期待されていた「日本未来の党」は、総選挙で惨敗した。選挙前に60議席台あったけれど、わずか9議席に激減した。
 滋賀県知事嘉田由紀子氏は、懸命に健闘した。けれど私は、「小沢一郎さんをうまくつかいこなせないようでは。」の結党時の発言にひっかかるものを感じていた。選挙後、9議席の内7議席は、「国民の生活が第一」から合流した小沢氏サイドの議員である。小沢氏サイドの議員から、小沢氏を無役のままでほおっておくことに強い反発が出たのは、小沢氏を支持する議員達の当然の感情であろう。
 選挙前にも、比例区の順位名簿を小沢氏が熟考して完成したものを、前日に飯田哲也副代表が検討しなおしたために、名簿提出が遅れてぎりぎりの 提出となった。
 結局、嘉田代表は、小沢一郎氏を表に出さずに顧問格のようにおき、水面下から政治力を発揮してもらおうという考えをなされたのであろう。

 優れた政治家として滋賀県知事の職務を遂行して、環境問題などにも成果をあげた嘉田氏の考え方に問題点があったのかなかったのかを吟味したい。
 孫崎享氏は、2012月12月19日、総選挙のすぐ直後に、「小沢一郎は何故米国に潰されたかーウォルフレン」というまとまったツイッターを述べている。私は色平哲郎氏がメーリングリストにご投稿した文章によって、はじめて小沢氏とアメリカ、ウォルフレンの関連について知った。

孫崎氏の発言を先に紹介させていただく。

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 私は16日、約3時間半ウォルフレンと話し合った。彼は24年3月『人物破壊―誰が小沢一郎を殺すのか』というタイトルの本を角川文庫で出した。
 すでに大手新聞が『人物破壊―誰が小沢一郎を殺すのか』の広告も扱わないことは、ブログに書いた。
 この本の表紙は次のように書いている。
人物破壊
「標的を暗殺する代わりに、対象が世間的な評判や人物像に致命的な打撃を与えて表舞台から永久に抹殺する手法。政界や学会でライバルを出し抜く際にもちられ、欧米諸国ではしばしば使われる表現である」
 ウォルフレンはこの人物破壊は日本が一番ひどいのでないかと述べていた。人物 破壊は英語でcharacter assasination。彼の本をみてみよう。
「狙いを定めた人物の世評を貶める。不快で野蛮なやり方である。いわば殺人の代用方式である。
 小沢氏の政治的生命を抹殺するためにもちいられたのは日本の伝統的な手法、スキャンダルだった。スキャンダルを成功させるには、検察と新聞の協力が不可欠である。
 小沢氏の人物破壊キャンペーンでは世界のあらゆる国々の政治世界でも目にすることができないものである。これほど長期にわたり延々と繰り広げられてきた例はほかにない。
 とりわけ重要なことはキャンペーンが日本の主だった新聞紙上で広く展開されてきたことにある。」
私(孫崎氏のこと)は小沢氏の人物破壊キャンペーンと米国との結びつきを聴いた。
「いつから米国は反小沢発言を始めましたか?」「1994年 ごろには顕著になっています。この時期米国側はABO(anybody but Ozawa)と言っていました」「なぜ小沢氏はそんなに狙われたのでしょうか」「多分、そこは小沢さんでも十分わからないのでないでしょうか。
 小沢氏は極端に明らかな反米発言をしているわけでない。(注:本年小沢氏と約30分間会談した外交に強い人物は小沢氏は米国批判に極めて慎重であるとの印象を述べている)。
 日本は今、米国の保護国、植民地の状況にあるのが実体でしょう。米国はこの状況を壊したくない。小沢氏は日本の改革を目指している。それは結局日本の保護国、植民地的存在を危うくすることにつながる。それを一番危惧したのだと思います」
 米国が小沢氏に最も危惧したのは個別政策ではなく、日本全体の独自路線の喪失を回復することにあるとしたら、小沢氏はそこまで気 づかなかった可能性はあるかもしれない。
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さらに、孫崎氏は、「安倍政権の支持基盤は実は決して高くない」とも述べている。こちらは、要約して紹介したい。

============================ 孫崎氏は言う。
総選挙で自民党は大勝した。合計480議席中、自民294、民主57、維新54、公明31、みんな18、未来9、共産8、社民2、大地2である。しかし、得票率をみれば、意外に低い。
 とくに、小選挙区(全300議席)では自民の議席占有率は79%であるが、得票率は43%である(12月17日日経新聞夕刊)。国民の意思が正確に反映されたなら、本来は小選挙区での自民党の獲得数は294の代わりに129である。
 つまり、国民の意思が正確に反映されたなら、自民党の獲得数は294の代わりに186で、全議席の39%となる。
 現時点、国民の自民党支持は27.62%である。実質、27 .62%の支持しかおさめていない政党が、60%の支持を得た政党として行動する。大変なギャップがある。
 つまり、自民党が自己の政策を強引に進める時には30%弱の人しか支持しない可能性がある。
 これに加え、今回の得票率は60%である。40%の人は積極的自民党の支持者ではない。これを考慮すると確たる自民党支持は国民全体の16%である。
 国民全体の16%しか確実な積極的支持をえていない政党が60%の支持を得たとして行動するから、強引な政策を遂行すればすぐに足元が揺らぐ。TPP、消費税増税、集団的自衛権、原発再稼働、自民党は緊急に実施しようとする政策がいくつかある。
 もし、大手メディアが正確な世論調査をするなら、多くの人の予想に反して、安 倍不信の数字が出る可能性は決して低くない。国民の行き先は既存政党ではない。残念ながらこれを集める可能性のある未来の党は惨敗した。この部分がどうなるか。しっかりした基盤が作れなければ、国民の不満は行き場所がなく、不満だけが渦巻くこととなる。
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 孫崎氏自身も、「未来の党」に期待を寄せていることがわかる。嘉田代表は、小沢一郎氏に対する「人物破壊」攻撃政策をやはり正確に把握していないと思われる。かつて、若干40才台で自民党幹事長の要職についた小沢氏の姿は、その発言と併せて傲慢なイメージを国民に植え付けた。その後に小沢氏が変わってからも、自民党の要職を捨てて党外に出て、新進党や自由党を経て民主党に加わって、民主党連立政権を成し遂げた頃から、意図的な「人物破壊」政策は、検察とマスコミとによって、露骨きわまりないものとなった。その凄まじさは、ウォルフレンも知り得た事例の中でも凄惨なネガティブ・キャンペーンであった。
 いま日本未来の党は、環境政策に詳しい専門の学者でもある嘉田 代表とともに、再び脱原発世論の受け皿として、時間的に短かった準備時間ではなく、次の国政選挙参院選までに政策と党組織を再建させうるだけの時間を得た。また、「生活の党」は、代表を森ゆう子氏としているが、小沢氏が存分の御自分の政治的見識と力量を発揮することがしやすい政治環境に居る。小沢氏と「生活の党」に対する先入観は変わらず続くだろうし、いっそうネガテイブなマスコミ報道は、テレビ、新聞、雑誌などを通じて続くだろう。同時に、なぜ小沢氏はこれほど攻撃されているのか、不審に思う国民も増えつつある。
 安倍政権は、閣僚よりも、総理官邸に飯島勲氏(小泉「郵政改革」政権の黒幕)など重厚な要職をつけて、水面下での壮絶な駆け引きで勝利し続ける体制をしあげた。安部晋三ひとりではおよびもつかぬ国民全体へのコントロール網もかぶせようとしている。
 安倍総理自身がツイッターなどを駆使して、「偏向的なマスコミ」にはネット右翼や熱狂的安倍ファンにそれとなく示唆して攻撃するようにしむけた格好となっている。これはかなり酷く新聞でも、総理のツイッターなどに対するなんらかの規制は必要ないのかと言わせているほどの状況である。かつての元総理麻生太郎氏もネット右翼の熱心なファンが多く、総理在任中にAKBなどやオタク族など若者文化の地元秋葉原に選挙遊説に行くと、冷 やかしとも熱狂ともつかぬ若者層の歓迎を受けていた。安倍総理は、参院選まで憲法改悪事項に着手することを控えて、衆参ねじれ現象で参院で民主党第一党である現在の国会を、参議院でも改憲勢力が過半数から三分の二に大きく躍進することを構想している。

 総選挙で、社民党が五から二に大きく減り、共産党は九から八へとほぼ現状維持にとどまった。左派政党に対する国民の支持は、ほぼ固定層がある。軍国主義復活に取り組む中で、未来の党や生活の党が浮動層を獲得するためにも、分党、分裂した両党が再建を進めて、国民生活再建と脱原発基本法制定の中核となって活躍すれば、その勢いは日本共産党や社民党にも波及する。
 最後に、選挙制度について一言述べたい。最高裁で違憲判決 がくだったにもかかわらず、逃げネズミのように拙速に総選挙を実施した野田民主党前総理は、自分の足元の民主党を壊滅的に破壊させた。もはや口先だけの中身のない松下政経塾出身の政治家は百%信用できない。国民は、衆院の小選挙区制度そのものを吟味して、法のもとの平等を制度上実施させねばならない。このことを議員に任せておいても埒があかない。国家が選挙制度を憲法違反の状態から改善する国民の運動が求められていよう。また、参院を廃止する議員の動きもある。二院制と議会制民主主義の原理にもとづいて、衆参両院の選挙制度を民主主義の根幹にもとづいたものに見張り続けることがいっそう重要な課題となってきた。