福島原発被災復興にかかわる復興庁の参事官が、被災者達を「左翼の豚ども」と
自らのツイッターに記したことが、大きな問題として世間でも批判を浴びている。
岩手県花巻市に住む詩人照井良平さんは、東北の被災地を目の当たりにして、
詩集『ガレキのことばで語れ』を詩人会議出版から出して、その詩は第41回壺井
繁治賞を受賞している。その事実を東京新聞の夕刊コラム欄で知った私は、インター
ネットでその詩全文にたどりつき衝撃をうけた。
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「ガレキのことばで語れ」
照井 良平
ガレキの前で
ことばがないなどとは言うな
ことばで語ることができないなら
季節の冷たいつぶて
みぞれで凍てつく春のみぞれで語れ
潮風が頬を刺す潮風で語れ
それでもことばが見つからないときは
一人で細い坂道を
安置所に向かう人の背中で語れ
海に手を合わせる少女のことばで語れ
さもなくば助けを絶叫する
夜の海に響き渡る闇の声で語れ
それでもことばがないときは
ことばで語ることができないときは
ガレキの中を歩いて探せ
歩いてヒラヒラ舞う布切れのことばで語れ
崩れた屋根のことばで語れ
歩いて歩いて
異臭を放つ魚のことばで語れ
歩いて目を背けたくなることばで語れ
ガレキの中を歩けば
とげとげしく突き刺すガレキのことばが
容赦なく生き身の身体を
四方八方から襲い
八つ裂きにし
たまらず 傷口が
ふつふつと湧く虚なことばで溢れだす
ところかまわず狂い咲く
そこまで
どっぷりガレキに浸かるまで歩いて探せ
ことばがないなどとは言うな
ことばで語ることができないならば
ないことばで語れ
ガレキのことばで語れ
ガレキの涙のことばで語れ
そこに遺影がある
ことばの
遺影がある
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この作品は、文学としても秀逸であるが、社会認識においても歴史認識としても私たちが
体験することのなかった事態に対面して、なにが人間存在に迫ってくるのかを明確に表現し
ている。
私は復興庁の参事官の言動をマスコミを通して、このような認識が日本社会を統治し庶民
を支配している行政の根本的な考え方を示していると気付いた。
できるだけ解決を先延ばしにすることを行政のありかたとして、参事官はメモしている。
「政府が決めた法律に基づいて考える」「法律にのっとって考えてください」このように
被災者達に言い放つ姿に、弱者切り捨て弱肉強食の安倍新自由主義政治の中枢を見る。
自民党福島県連と党本部とで、政策が食い違い、それぞれ別の公約を出すと報道された。
福島に行って口当たりのよい言葉をまき散らす安倍総理は、公約そのものを平然と破った。
TPPしかり、原発対策しかり。
私は安倍総理をはじめ政治家たちのあまりに行き当たりばったりの口から出任せで次々に
耳当たりのよい言葉を沖縄でも福島でも外国でも言い散らかし、なんら言葉のもつ重みを認
識していない言葉の語り口に、言葉の奥にある事実認識や思想的信念がほとんど蓄積されて
いないことに気付いた。
日本国民を馬鹿にして適当なことを言っていて良しと思っているのかも知れないが、安倍
総理の言動は安保条約の同盟国アメリカ政府からさえまともに扱われていない。
もはや日本は、保守革新とか共産主義資本主義などのイデオロギー対立に行き着かない驚
くべき文化の実態として日本人の言葉、言動、生き方、対人関係などひっくるめて、問われ
ている。大阪市長橋下徹氏が沖縄に行ってアメリカ軍総司令官に、風俗業の利用を、と進言
したことは世界中の軽蔑をあびた。アメリカ政府は、在日米軍総司令官を、性の管理情報報
告などの不十分さを原因として更迭を行った。一方橋下徹氏に問責決議案を提案するまでに
大阪市議会の各政党は立ち上がったが、公明党の直前変心で問責どころか橋下氏は選挙で東
京はじめ全国を遊説するようだ。
このような社会状況のなかで、憲法改憲を提唱してきた小林節大学教授は、他の憲法学者
たちとともに「96条の会」に参加した。改憲の立場に立つ小林氏の目にも、いまの吟味も
ほとんどなく突っ走る暴走族政治家たちの方法に重大な危惧を感じたようだ。
かつて自民党には、石橋湛山、宇都宮徳馬、三木武夫、伊東正義など重厚な深い洞察力を
もち、日本国の進路に真剣な憂国の士たちがいた。保利茂、後藤田正晴、野中広務など反
日本共産党であっても、良識と民主主義の保守政治家たちが存在することで、自由民主党は
かろうじてバランスを保ち、戦後の政権政党たり得た。
しかし、ハト派の政治家河野洋平のご子息である河野太郎氏は、6月13日の衆院憲法審
査会で、自らの自民党がまとめた改憲草案について、「憲法の名を借りて、国民の権利を制
限する方向に安易に行くことは断固反対を申しあげたい」と批判した。
河野氏は、憲法の在り方として「多くの国民が歴史を通して、国家権力にたがをはめてき
た。」と指摘した。
自民党草案に「家族の助け合い義務」が盛り込まれたことも、元衆院議長の父親洋平氏へ
の生体肝移植の経験を話し、「いいことをしたと思うが、それができる人もいれば、できない
人もいる。家族は助け合うべきだが、道徳を憲法で定義するのは少し違う。個人に任せるべ
きものだ」と述べたと報道されている。
おそらく護憲か改憲かということのはるか手前のどぶの中で、幼稚な戦争ごっこ遊びをして
いる大人になりきれない大人達。いまの日本の混乱を巻き起こしている安部晋三氏、橋下徹氏、
復興庁参事官氏。人間が人間であることを問う最初に詩を紹介した「ガレキの言葉で語れ」の
詩人の認識の水準のない政治家や高級官僚は、学び直すべきである。しかしながら、日本には
そのような教育機関は、あいつぐ弱肉強食の文教政策によって、極めて激減しつつあるのだ。