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「現状分析と対抗戦略」討論欄

インターネット解禁と自民党戦略

2013/6/29 櫻井智志

 2013年7月の参院選から、インターネットを駆使した選挙運動が解禁となる。 保守的な自民党はインターネットに保守的だ、と思うととんでもない誤解に陥る。 全政党のなかで最も先駆的先端的なインターネットの使用に長けているのが自民党 であり、民主党など他の政党を圧倒している。
 お忙しくて私の小論を読む暇のないかたのために以下の参考文献を先に掲げる。
1 小森陽一『心能コントロール社会』ちくま新書2006年本体価格680円
この本は小泉純一郎自民党総裁下に行われた「小泉改革」と深層心理戦略、そこに おけるインターネットについて実に示唆に富む。
2 月刊誌『創』2013年7月号創出版定価680円
 特集 安倍政権のメディア戦略
①座談会「自民党政権のメディア戦略の実態」
 香山リカ精神科医・下村健一前内閣広報審議官・マエキタミヤコサステナ代表
②「安倍政権はネットをどう利用しているのか」中川淳一郎ネットニュース編集者
 この紹介だげで、自民党はインターネット選挙解禁に対して満を持して今まで準備 し続けて、待っていたといえるほどであることに気付いて私は驚いた。詳細は上記の 文献を図書館や書店でごらんいただきたい。では、本論に移る。
 自民党には、「自民党ネットサポータークラブ(J-NSC)」という公認のボラ ンティア団体があり、会員数は1万5千人以上もいる。全国を大きなブロックでわけ、 さらにその下に都道府県組織がある。自民党の政策に関する情報をネットに多数書い ている。私はインターネット百科事典とよばれるウィキペディァで検索して愕然とし た。J-NSCは、単なるネットオタクとは全く異質である。都道府県のもとに全国 の各地域に地元有力者たちの若い世代の子弟が一方では、自民党の青年局や支援家と して自民党を草の根から支え、他方ではネットでさまざまな政治的行動を進めている。 彼らはネット上で韓国を中心に憎悪のことばをまき散らしている。ツイッターでもJ- NSC 会員であることを公言するひとの一部にはアイコンに日の丸をつけ、あまりに も勇ましいプロフィールを使用し、ツイートする内容は中国韓国を叩くものだらけで ある。中川淳一郎氏の評論はこう紹介している。

「大日本帝国の復活と、朝鮮半島・満州の日本領土復帰を願っています!愛国心の無い売国企業・売国奴を徹底的に糾弾したいと思っています。支那人・朝鮮人になめられない日本人に!J-NSC会員・靖国神社崇敬奉賛会正会員・在特会会員 打倒日教組・打倒民主党・打倒日本維新の会・打倒日本共産党・打倒社会民主党!」

 自民党では「会員を騙っている」と説明しているのだが、こんな調子で韓国への憎悪と日本がいから素晴らしいかを書く会員が続出している。
 安倍晋三氏のフェィスブックのコメント欄に、安倍氏が遊説したことなどを書いても、なぜか韓国を叩く発言が書き込まれたりする。5月7日に民主党の鈴木寛議員が国会で 安倍氏のフェィスブックコメント欄にヘイトスピーチ的な書き込みが増えていることを 説明し、安倍氏しかそれを止められないと述べた。安倍氏は「エスカレーションを止め るべきだろうと思います」と回答し、いわば自制を求める形となった。
 昨年の秋ごろ安倍氏は、こうした人々を民主党叩き・自民党及び安倍総裁支持獲得に 利用していた感がある、とネットに造詣の深い中川淳一郎氏は述べる。中川氏は、 「恐らく安倍氏の参謀にネットの状況に詳しい人物がいるのだろう」と述べている。
 さて、それらの事態をふまえ、私は「小泉劇場」の立役者である世耕弘成参院議員が 安倍政権でも重要な役割を果たしていると考える。世耕議員に簡単にふれる。 早稲田大学政経学部政治学科を卒業してボストン大学コミュニケーション学部大学院で 学んだ。政治学士と企業広報論修士の称号をもつ。会社員(NTT)を経て自由民主党(町村 派)から 和歌山県選挙区参議院議員となった。当選回数は3回の若手(50才)だが、 第1次安倍内閣では内閣総理大臣補佐官(広報担当)を、第2次安倍内閣では内閣官房副長 官(政務担当)を受け持っている。前職だが学校法人近畿大学第4代理事長でもあった。 祖父や叔父も有力者の名門一家である。
 自民党インターネット戦略に重要な役割を負っているので、以下にインターネットに 関する検索を一部分転載する。

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ネットと政治に関する主な活動
①ネット選挙
公職選挙法の改正に向け、自民党選挙制度調査会内に「インターネットを使った選挙運動に関するワーキングチーム」を設置、座長として平成18年5月に改正案をまとめた。その後、法改正の実現化に向け党内の調整を図っている。
②医薬品のネット販売規制への批判
2009年6月に施行された改正薬事法に関する省令において、ネット上での医薬品販売(1類・2類)が原則禁止になることに疑義を抱き、施行前に超党派の国会議員に呼びかけシンポジウムを開催、有識者、消費者、事業者とともに医薬品通信販売規制の問題と課題を検証し、緊急共同声明を取りまとめた。
③ネットを使った政治献金
2009年6月、民主党の鈴木寛参議院議員らと超党派で「個人献金の拡大に向けた新たな献金スキームに関する提言」をまとめ、全国銀行協会と日本クレジット協会へネット献金の一般化を申し入れた。
④主な役職等
創生「日本」 - 副会長
自由民主党広報本部 - 本部長代理
自由民主党報道局 - 次長
自由民主党行政改革推進本部 - 幹事
自由民主党生活保護に関するプロジェクトチーム - 座長
日韓議員連盟 - 幹事
速やかな政策実現を求める有志議員の会 - 代表世話人
医療現場の危機打開と再建を目指す国会議員連盟 - 幹事長代理兼事務局長
日露若手国会議員の会 - 日本側代表
緑の雇用議員の会 - 事務局長
自民党土地家屋調査士制度改革推進議員連盟 - 事務局長
日本・サウジアラビア友好議員連盟 - 事務局長
再チャレンジ支援議員連盟
学校法人近畿大学 - 理事長(2011年10月~2013年2月)
デジタルコンテンツ利用促進協会 - 副会長
⑤著作
(単行本)
『自民党改造プロジェクト650日』新潮社、2006年。
『プロフェッショナル広報戦略』ゴマブックス、2005年。
(雑誌掲載記事)
「NTTの「2010年問題」わたしの提言
「経営形態はNTTが考えるべき ネット利活用推進が最優先課題」」
『日経コミュニケーション』 2009年11月15日号
「政策道場 「特別予算勘定」を創設せよ」『日経ビジネス』 2009年2月16日号
「「安倍圧勝」をデザインする(福田康夫は絶対に出馬する-安倍VS福田参謀インタビュー-)」
『文藝春秋』84(11)、2006年。
「すべてセオリー通り、です。(特集 総選挙PART2 徹底検証 メディアの敗北、その時、世論が動いた)『論座』(通号126)、2005年。
「政務官日誌(25)総務省 行政相談を広く国民の身近な存在に」『時評』46(4)(通号493)2004年。
「慣習に流されないために(全公開 国会議員の24時間)『論座』(通号89)、2002年。
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 さて、以上を考察して、自民党のインターネット戦略は、復古的なものではなく、それなりの現代的最先端の技術と日本の草の根保守主義を生かしたものである。単なるネットオタクの不満のはけ口と見ると見誤るだろう。ニコニコ動画政党党首座談会(2013.6.28)では画面に視聴者の書き込みが画面中央を流れてきわめて党首の発言よりもそれらに目がいき見苦しいものだった。そこに流れる書き込みは自民党絶賛、他党の時は誹謗とさげすみ、中傷とあまりに酷いものであった。それをもしも利用しようとした政治家がいたとしたら、自分には有利でも今後のインターネットによる党首討論を汚すものとなるだろう。画面の上下ではなく、顔が隠れるような書き込みの垂れ流 しを見ていて悲しくなった。インターネット選挙解禁とは、このような下卑た様相を呈するものであったのか。草の根の民衆の声を生かすよう、インターネットに関する各会社の健闘を期待する。
 自民党J-NSCには、インターネットは北極から南極まで全世界を駆け巡ることを改めて想起していただきたい。